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異世界における他殺死ガイド85

 

 プレアム ―空中庭園―


「ガオ!」「ゴレエエ!」


 ドゴオオン


 メガスマッシュと鉄巨人がぶつかり合う。鉄巨人の肩に乗る黒い影は振り落とされるかと思いきや、平然と乗ったままであった。


 ゴガアアン! ヒィィィィン


 鉄巨人が繰り出したパンチを顔面にくらうメガスマッシュ。だがメガスマッシュの体の表面を白い光の線が流れ、パンチの衝撃は吸収されてしまった。


 お返しとばかりに腕を振りかぶるメガスマッシュ。


 ヒィィィィン


 振りかぶった腕が白く光る。溜め込んだ衝撃を腕から打ち出す。リターン・ギフト・アタックである。


 ゴオッ! グニィ


 だがその攻撃は鉄巨人に届かない。風船のような膜が鉄巨人を覆っている。それは硬度や密度を与える魔力量によって制御できる、マグニフィセント・アーマーであった。


 マグニフィセント・アーマーはドクの発見したドク粒子により実現した、世に出ていない技術である。念のための補足だが、ドク粒子が環境に与える影響は軽微である。


 ゴガアアアン ヒィィィン


 鉄巨人は再びメガスマッシュを殴りつける。腹を殴られたメガスマッシュの体がわずかに下がる。だがこの衝撃もまた白い光の線となり、吸収されてしまう。


「ゆけ鉄巨人」


 黒い影が叫んだ。鉄巨人は腕をメガスマッシュの腹に当てたまま吠える。


「ガオ!」


 ゴギン!


 鉄巨人の腕に装備された手甲から杭が飛び出してメガスマッシュの腹を突いた。メガスマッシュの体に白い光の線が広がる。


 ハーシュ・インパクト。それはドク粒子の制御により、超圧縮した空気で杭を打ち出す攻撃である。


 凄まじい威力の攻撃であるが、それでもメガスマッシュの衝撃吸収機構を突破できない。


 だが。


 ヒュゴォ! ゴギン!


 鉄巨人の手甲の後部から空気が吸い込まれ、再び杭が打ち出される。


 ゴギン!ゴギン!ゴギン!


 白い光の線が流れる。この衝撃吸収機構の動作中、メガスマッシュは動かない。そこを狙ったハーシュ・インパクト・ラッシュである。


 杭が撃ち込まれるたび、メガスマッシュの体が白く光る。


 ゴギン!ゴギン!ゴギン!ゴギャア!


 メガスマッシュの体が大きく白く光った。溜めきれなくなった衝撃が強制解放されたのだ。


 ゴッ!バキュ!


 ついにハーシュ・インパクトで打ち出された杭がメガスマッシュの体を貫いた。


「ゴレエエエ……」


 メガスマッシュは沈黙した。







 スタッ


 黒い影が鉄巨人の肩から地面へと降り立った。


 二体の巨人の戦いをポカンと口を開けて見ていたモチャムが我に返り、黒い影の姿をみた。


 それは全身黒づくめの女性であった。チュール付きの帽子を被っており、顔にかけているチュールの網目が小さく、色も濃いため顔がよく見えない。


「おい、お前ひょっとしてジャブア様の使いか?」


「……」


 キュイ キリリリ……


 モチャムの問いに女性は答えない。無視は止めろとモチャムが口を開きかけた時である。


「モチャムさん、始めまして、私はザンシアと申します」


 丁寧な自己紹介に戸惑うモチャム。


「んお?おう」


「お父様にモチャムさん達を見守るように言われました。ピンチであれば手を貸すようにとも」


「お父様?ジャブア様の事か?あの方に子供なんていたのか?」


「行きましょう」


 スタスタ


 そのままザンシアはニクスの居る秘密の部屋へと入っていく。


「あ、おい待て!」


 モチャムはザンシアを追いかけた。








 部屋の中は広く、明るかった。


 壁や床をゴム製の管のようなものが埋め尽くしている。


 管が集まる中央部分には大きな椅子があり、そこには一人の男が座っていた。


 この男こそがプレアム帝国皇帝ニクスである。


 モチャムが遠くからニクスの様子を伺う。部屋中の管はニクスの背中へと集まり、ニクスが頭から背中にかけて被る金属製の大きな兜に接続されているようである。


「こりゃあ……」


 モチャムが顔をしかめる。


 ニクスの顔はしわくちゃである。眼窩は大きく窪んでしまっていて暗く、そこにあるはずの目玉がない。ニクスの体は干からびていた。


 ニクスは既に死んでいたのだ。


「一体どういう……」


「触ってはいけません」


 死体に近寄ろうとしたモチャムをザンシアが手で制した。


「お、おう」


 モチャムが後ろに下がったその時である。


「くっは、ははっ」


 ニクスの死体が座る椅子の裏から姿を現したのはボロボロの鎧を身に纏ったバクシンスキーであった。


「お前、生きてやがったのか」


「貴様らは絶対に許さん」


 バクシンスキーがニクスの死体へと手を伸ばす。


「止めなさい」


 ヒュガッ!


 ザンシアの投げたナイフがバクシンスキーの肩に刺さる。


 だがバクシンスキーは止まらなかった。


「ははははは」


 バクシンスキーがニクスに向かって倒れこむ。


 ドッ!ブチブチ


 ニクスの背中から管が何本か外れた。


 ゴオン


「なんだあ?」


 ゴゴゴゴゴ……


 空中庭園が揺れている。


 ゴゴゴ……ドゴッ!


 秘密の部屋の天井が崩れて落ちる。


「危ねえ!おい、外へ出るぞ!」


「……」


 モチャムはザンシアの手を引いて部屋から出ていく。


「はっ、ははっ、はははははは!!」


 ドガガッ!ドッ!


 バクシンスキーとニクスの死体は天井から落ちてきた瓦礫に埋もれて見えなくなった。








 外に出て崩れていく部屋を見るモチャムとザンシア。


「離してください」


「お、おお悪ぃ」


 掴んでいたザンシアの腕を離すモチャム。


「へっ、まさか親玉は既に死んでいたとはな。拍子抜けだがこれで任務は完了だぜ」


「いいえ、まだです」


「……なんだって?」


 ゴゴゴゴゴ……


 空中庭園の揺れの治まる気配はない。どころか揺れは大きくなっていく。


 ボコォ!


 庭園の石造りの地面が割れた。割れた地面から大きな管が現れる。


 ボコォ!ボコォ!


 地面から次々と管が現れる。管はうねり、まるで大蛇の様である。


「まだ何かあんのか!?」


 ボゴオオオオン ガラガラガラ


 一際大きく揺れたかと思えば、ニクスの死体のあった部屋の瓦礫から大きな管が束になった状態で飛び出した。


 管の束の中心には金属製の女性像があるのが見える。


 キィィィィィン


 女性像から発生した高音がモチャムの耳を刺した。


「う、うるせえっ!」


 それを合図にしてか、空中庭園の壁や床が一斉に崩れだす。


 ズゴゴゴゴゴ


「うおおおおっ!?」


「ガオ!」


 待機していた鉄巨人がザンシアとモチャムを大きな手で包み込み、崩れてくる瓦礫から守った。


 ゴゴ……


 やがて揺れは治まった。


 鉄巨人の手から出て、モチャムは周りを見回した。


 そこにはあの癒しと潤いを与えてくれた空中庭園の姿はなかった。


 あったのは金属製の壁と床。そこに白い光の線が走る。


 ピキィン


 シャガッ!


 壁が大きな四角形の形に僅かに凹み、左右に開いたかと思えば中には何体もの金属製ゴーレムが並んでいる。


 中にはメガスマッシュとスターバスターの同型機もある。


 ビビビビビコココココォォォオォォン


 それらゴーレム達の目に一斉に光が点った。


「まじかよ」


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