異世界における他殺死ガイド84
プレアム ―空中庭園―
ニクスの元へと向かう前に、モチャムは神器の非活性化を確認した後、黒妖犬に括り付けて先にヌベトシュ城へと帰るように命じた。
生気を吸い取られて弱ってしまったイゴルをラチェルに任せ、モチャムは一人で空中庭園のさらに奥へと進んでいく。
進んでいくうち、庭園に植えられた植物から発生した魔イナスイオン的なものがモチャムの体をほんの少しだけ癒してくれた。
「このへんか?」
そしてモチャムは大きな壁の前で立ち止まった。そこには扉も何もない。だがこの壁の向こうにニクスが居る。これはプレアムの軍事施設を荒しまわった結果、偶然得られた情報である。
モチャムが壁に手を当て何かを探す。やがて何かを探し当て、何やら操作をすると壁の中央に大きく線が走り、割れていく。
ゴゴゴゴゴ……
「さて、何がでてくるか」
ゴオン
壁が開ききり、中を覗くモチャム。そこには巨大な人型の金属が鎮座していた。
「でけえな」
人型を見上げるモチャム。
ビコオオン
人型の目に光が点った。
ギギギギ……
「ゴレエエエ……」
おかしな鳴き声とともに動き出したそれは金属製の大型ゴーレムであった。
ヒィィィィィン
ゴーレムの金属製の体に白い光の線が流れる。それは何らかの魔力機構が組み込んである証拠である。空中庭園の奥、ニクスの居る秘密の部屋。この大型ゴーレムはそこを守るために作られた最終防衛システム、メガスマッシュである。
「こいつは壊しがいがありそうだぜ」
ボロボロの両手を前に構え、モチャムは強がりを言った。
バルバルバル!! バヒュウウウ!
突然の爆音と風に、後ろを振り返るモチャム。大きな魔砲がモチャムを狙っている。
魔砲とは、魔石から魔力を抽出して打ち出す魔導器の事である。
魔砲を装備した飛行型のゴーレム。ニクスの居る秘密の部屋を守るために作られた最終防衛システム、スターバスターである。炭鉱から掘り出された金属製の胴体に浮遊魔石、暴風魔石、その他もろもろの希少魔石をふんだんに使用した贅沢な逸品である。
「まじいな」
シュバッ! ドオン!
咄嗟に飛びのくモチャム。モチャムの居た場所はスターバスターの魔砲から放たれた火炎弾で黒く焦げ付いた。
「ゴレエエエ!」
ブオン!
間髪入れずメガスマッシュの腕がモチャムを襲う。それを飛びのいて避けるモチャム。避けると同時にモチャムはメガスマッシュの足に対して渾身の蹴りを見舞った。モチャムは魔族へと覚醒した身である。その蹴りは例え分厚い金属製の板であろうとたやすく砕くはずであった。
ガイン! ヒィィィィン
「硬え!」
モチャムの蹴りが当たった場所から、白い光の線が金属製の体を伝って何本も流れていく。どうやらそれは衝撃吸収機構のようであった。メガスマッシュの体には傷一つついていない。
フサァ……。
「チッ!」
メガ覚醒しようとフサフサしだしたモチャムであったが、メガ覚醒に必要な体力が残っていなかったのか変身することができなかった。
ドドド! ゴオッ!
スターバスターの魔砲から火炎弾が連射される。同時に襲い来るメガスマッシュの腕。
「うおおおっ!」
それを避けるモチャム。攻撃力が足らず相手を破壊できない。そして、回避技術に自身のあるモチャムでも、二体の攻撃をこのまま避け続けるのは難しい。
モチャムは現在、間違いなくピンチであった。
「……」
モチャムの千手ピンチを遠くから眺めている黒い影がある。
キリリ
影が呟く。
「守護兵二十八号、射出」
カホト大陸 ―ルセス近郊―
ゴゴゴゴゴゴ ゾバアアアア
ルセスの町の近くの崖にある滝が割れていく。滝の裏には大きな洞窟がある。
キュラキュラキュラ ガゴオオン
洞窟の奥から姿を現したのは巨大な砲台である。砲台からは長く大きな砲身が伸びている。その砲身の口径は大型の槌猪よりもさらに大きい。それが何かを打ち出すとは思えないほどの大きさをしていた。
ウィィィィィン
砲身が動き、斜め上を向く。
コォォォォォ
砲身の周りに光の線で描かれた幾つもの魔法陣が現れる。それだけではない、砲台の周りの地面にも魔法陣が浮かび上がる。大質量を打ち出すため及び、周りへの影響を最低限に抑えるための魔力機構である。
――。
キバン!!! バシィィィィィン!!!
魔法陣の光がいっそう強くなった後、一瞬の間を置き、巨大な砲口が火を噴いた。影響軽減の魔力機構が抑えきれなかった衝撃波により空気が震え、洞窟の両脇を流れていた水がはじけ飛んだ。
ヒュゴオオオ
打ち出された巨大な砲弾が飛んでいく。
ギリリリリ!キュバ!
砲弾は空中で軌道を変え、プレアムへと向かった。
プレアム ―空中庭園―
「ゴレエエエ!」
ズドオオ!
「ぐがあ!」
魔砲から放たれる火炎弾に追い詰められ、メガスマッシュの腕の振り下ろしを避けられず両手で受けてしまったモチャムがうめく。
バルルル!
そこをスターバスターの魔砲が狙う。メガスマッシュの手に抑えつけられ、もはやモチャムにそれを避ける余力は無い。
「へっ!」
モチャムが被弾を覚悟したその時である。
ズドオオオオオオオオン!!! ゴシャア!!
何かの直撃を受け、墜落するスターバスター。
「うおおおおっ!?」
衝撃波で吹き飛び、叫ぶモチャム。モチャムはすぐに体を起こしたが、墜落したスターバスターから発生した煙で周りが見えず何が起こったのかわからない。
ギィ…ギィイイ
煙の向こうに鉄が歪む音が聞こえる。
ゴワアアアン
大きな鉄の蓋が転がったような音。
ブワッ!
ゴオン
風が吹き煙が晴れ、墜落したスターバスターの残骸を足元にして立つのはずんぐりとした体形の鎧を着た巨人である。その後ろには巨大な砲弾が大きく穴の開いた状態で転がっている。
「なんだあ!?」
危機を救われた形のモチャムだが、このような巨人に助けられる理由が見つからない。
「ゴレエエエ!」
ズンズンズン
メガスマッシュが破壊目標をモチャムから鎧を着た巨人へと変更し、向かっていく。
シュタッ!
その時、鎧を着た巨人の肩に飛び乗ったのは、遠くからモチャム達を見守っていたあの黒い影であった。
キュイ
黒い影の瞳が動く。その虹彩は幾何学模様である。
バッ!
メガスマッシュを指差し、黒い影がつぶやく。
「鉄巨人、ショータイムです」
それに呼応し、鎧を着た巨人が吠えた。
「ガオ!」




