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異世界における他殺死ガイド77

 

「さあ、どこからでも来い」


 レステン鋼製の大きな箱の中、俺と向かい合うのは以前コブラが捕らえた悪人パタンガである。


 ザッ


「死ねえええっ!」


 足を使い、素早く俺との距離を詰めたパタンガはボディブローを放ってきた。


 パタンガの腕に装着されている手甲からは、赤熱する刃が伸びている。


 バギィ!


 青い魔力の花が散る。刃は自動的に展開された防御層によって防がれ、俺の体までは到達しない。


「うおお!」


 ガチ!


 パタンガが叫び、拳を強く握ると手甲の中から音がした。


 ゴッ! バガアアアン!


 手甲内の機構が、赤熱した刃を強く前に押し出す。


 ヒート・パイルである。


 ドガァ!


「ぐああああ!」


 後ろに吹き飛んで壁に当たって倒れこみ、手甲を抑えるパタンガ。手甲からは血が流れている。


 俺の防御層に触れたまま強く押し出された刃は折れ、手甲内の機構も破壊されてしまったようである。


 対して俺の体は全くの無傷であった。


「これも駄目だな」


「凄まじい防御力ですな」


 箱の外、格子のはまった窓から俺達を見ているのはカレルである。


 人工生命体の生成を諦めた俺は、俺を殺すための兵器の開発をカレルに命じた。開発した兵器を悪用されたら困るので、気乗りしなかった案である。だが本命の当てが外れた今、四の五の言ってはいられない。


 融合整理された魔王とドクの知識の中に、兵器開発の役に立ちそうなものがいくつかあったが、俺はそれをカレルに伝えていない。


 その知識を応用した場合、恐らく核兵器に近いものが作れるのではないかと考えている。材料も、俺がひとっ飛びして取って来れば揃う。四の五の言ってはいられないとはいえ、流石に大量殺戮兵器を作ってしまうわけにはいかない。


 今はカレルの狂気が俺の命に届くことを願うばかりである。


 スッ


 俺は倒れているパタンガに手をかざし、再生魔法をかけてやった。


 サアアアア


 パタンガの手甲から流れる血が止まった。


「……」


 パタンガは殺気のこもった目で俺を睨みつけてきた。


 パタンガは悪人ガチャ唯一の魔族への覚醒者である。彼はエスポラ種だったため見た目に変化はないが、身体能力は大幅に向上したようである。


 残念なことに俺を殺せるほどの力は得ていなかったが、俺を本気で殺しに来てくれるので、開発した兵器の試用にちょうど良い存在である。


「次だ!次の武器を寄越せ!絶対にこいつを殺してやる!」


 パタンガがカレルに向かって叫んだ。


 うーむ、殺伐としている。俺にとっては都合が良い事なのだが、心が荒む。




 ***




 ヨジヨジヨジ


 シープラたんが床を這っている。ハイハイではない。俗にいう、ずりばいである。


「シープラおいでおいで」


 レッドセルがシープラたんの進行方向を自らの方向へと誘導する。


「ぴゃ」


 シープラたんが高い声を出した。楽しそうである。


「フフフ」


 慈愛の表情でシープラたんを抱き上げたレッドセルが、部屋の入り口に俺が立っていることに気づいた。


「あ、ほらシープラ、p…パプア様だよ」


 南国少年か。


 ニッコリ


「あぶー」


 俺が笑顔を向けるとシープラも笑顔になった。


 周りから笑顔を多く向けられた赤ん坊は良く笑う子になるという。


 シープラたんが笑顔の多い子になるのなら、俺の表情筋などいくらでも犠牲にしよう。





 現在グロツの町や村では、コブラが魔王であるということがもはや暗黙の了解のようになっている。今のところ石を投げられたりはしていないが、俺を避ける者と変わらず接してくる者に二分され、自衛力強化訓練への参加者は減ってしまった。


 魔王を憎む者達とコブラに命を救われた者達との間で、ちょくちょく争いのようなものが発生している。これは良くない流れである。


 いっそコブラを名乗るのを止めて魔王であることを明言し、魔王としてグロツという国を統治してしまった方が良いのかもしれない。


 国王を殺された兵士達はそれを許さないだろうが、暴動を起こされたとしても今の俺なら彼らを殺さずに鎮圧することも容易である。


 鎮圧?物騒だな。これは俺の意思だろうか?


 もしや俺に溶けた誰かの……いや、俺の意思か。


 多少傷つく者が居たとしても、何者に支配されようとも、その後平和であるなら……。


 いやいやそれは……。


 駄目だ。俺はポンコツだ。





 ペチペチ


 目の前に抱き上げたシープラたんが、その小さな手で俺の額を叩いてくる。


「あぶー」


 ペチペチペチ


 ああ、癒される……。






 ■■■





 カホト大陸 -封印の祠-


「ボオオオオ」


 河馬のような顔をした、でっぷりと太った体の魔物が鳴いている。


 その魔物の背中からは赤く大きな尻尾が生えていた。これはこの魔物に元々生えているものではない。


 火竜アグリアの体は頭、胴、右腕、左腕、右脚、左脚、翼、尻尾の八つに分断され、カホト大陸各地の祠に封印された。そしてここはアグリアの尻尾が封印された祠である。


 不死の超生物である竜の体の一部は元の形へと戻ろうとする。その際、周りの生物を利用する。寄生はその利用手段の内の一つ。


 この河馬のような魔物はアグリアの尻尾に寄生されているのである。



「ボオオ」


 河馬がジーク達三人の方向を向く。


「来るぞ」


「ああ」「ナウウ」


 ジーク達は河馬に向かって構えた――。






 トアルの森にて、ジーク達は卵から孵化したブロデアをなんとか退治した。


 その後、ジークは悪食を使用してブロデアの力を取り込んだ。ジークは魔王を倒すため、自分を強化できる機会を逃しはしない。


 Gの顎を出し、グチャグチャとブロデアを喰うジークの姿は醜悪であっただろう。


 それを見たアリエスは引いた。


 そのアリエスの様子に少なからずショックを受けたジークであったが、永続鎮静魔法の効果によって動揺はなかった。


「そんなもの食べて、食あたりしても知らないぞ」


 そっちかと、ジークはアリエスが好きになった。


 ブロデアの卵を処理した後、馬車でマスカッシュ城に戻る途中、ジークは見慣れぬ建造物を見かけた。御者の男に聞けば、それはあのアグリアの一部が封印されている祠であるという。


 興味を持ったジークが御者に頼み、祠に行ってみたところ祠の入り口が開いていた。プロストから聞いた話では、祠には後数百年は解けない封印がなされているはずである。だが祠の入り口は開いている。祠の中を確認したいが、何があるかわからないので危険である。


 ブロデアの卵へ向かう道中の魔物との戦闘で、アリエスもウーラもレベルアップしている。自身もブロデアの力を取り込み、以前より格段に強くなっているはずである。


 アグリアの一部がまだ中にあるのであれば解けてしまった封印を掛けなおす。封印のかけなおしが無理であればアグリアの一部を悪食で取り込む。中に何もいないのであれば城に行って探索隊を出してもらう。そう考えてジーク達は祠内へと向かった。


 祠内、そこでジーク達が見たのはアグリアの尻尾に寄生されている魔物の姿であった。






「ボオオオ!」


 ドシュッ!


「ぐああっ!」


 アグリアの尻尾に切り裂かれ、ジークの腕が宙を舞った。


 地面に膝を突くジーク。


「ジーク!」「ナウウ!」


 シュパッ


 アグリアの尻尾がしなる。虫の動体視力を持つジークですら追うのがやっとの速さで繰り出されるその斬撃は、今のジーク達にとって防御不能の攻撃であった。


 サアアアア


 再生の光が発生し、ジークの腕が根元から再生されていく。


 再生の力を持つジークが攻撃を受けるのなら良い。だが、アリエスとウーラに再生の力はない。


 何処に攻撃を受けようとそれは致命傷になり得る。ジークは自分の行動が浅はかだったと後悔した。


「二人とも下がれ!」


 膝を突いたままジークが叫ぶ。


 だがアグリアの尻尾は既にウーラを射程圏内に捉えていた。


 シュララア


「ウーラ!」「ナウ!?」


 ガバッ!


 アリエスがウーラを庇った。


 シュウン!


 ジークは咄嗟に、アリエスとウーラの装備を金属製の重厚な鎧へと変更した。


 だがそんなものは何の意味もない。アグリアの尻尾は鎧ごと二人を切り裂いてしまうだろう。


 アグリアの尻尾がアリエスの背中へと到達する、かと思われたその瞬間。



 キィン!



 祠内に響く高音。


 ビチャ!


 地面にまき散らされる体液。


「ボオアアア!」


 魔族への覚醒により強化された闘気を纏い、ムクロ鋼製の刃で放つその斬撃は、アグリアの尻尾を魔物から切り離した。


 メリメリ


「ギシャアアア!」


 切り離されたアグリアの尻尾の断面に、口が浮き出た。


 ズルルルッ


 地面を這い、襲い来るアグリアの尻尾。



 ――!



 何本もの光の線が宙に描かれる。次の瞬間、アグリアの尻尾は輪切りにされていた。


 シキキキキン!


 ボトトッ!


 音を置き去りにしたその斬撃を放ったのは何者か。


 キシ キィ


 金属製の義足の足音。揺れる金髪。


「ジーク、戦闘の再指導が必要か?」


 ジュレスであった。


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