異世界における他殺死ガイド76
ノソノソ
イソギンチャクのような魔物があっちへこっちへと資材を運んでいる。
「そっちじゃないっすこっちっす」
それを支持するのはジョシュアである。
それを尻目に先を急ぐ俺。
どこへ向かっているかと言えば、来客用の寝室である。
ガチャ
寝室の扉を開き、中に入るとベビーベッドからこちらをジッと観察する赤ん坊が目に入る。
シープラたんである。
俺の脳内でたんとか付けて呼んでいるが、シープラたんは男児である。だがそんなことは関係ない。シープラたんはシープラたんなのである。
シープラたあん、とか言って抱き上げて撫でまわしたい欲求を抑え、極めて冷静に口を開く。
「変わりないか」
「はい」
レッドセルが答える。
レッドセルはこのところシープラたんにつきっきりである。赤ん坊を一人にするわけにはいかないので仕方が無い。
「ほらシープラ、パp…ジャブア様だよ」
今パパと言いかけなかったか。
気になるが、シープラたんの前では些事である。
俺はベビーベッドに近づき、シープラたんの顔を覗き込む。
丸いくりくりした目が俺の顔を観察している。
シープラたんが笑ったかと思うとーー
「あぶー」
ぐふっ
あぶーって、お前は赤ん坊か。赤ん坊だった。
凄まじい愛くるしさに、俺はにやけるのを抑えるのに必死である。
あーもう、他殺死とか色々放り出していいかな?
……。
このままではいかん。
■■■
カホト大陸 -トアルの森-
ドクン ドクン
ジーク達の目の前に、脈打つ赤黒い肉の塊がある。
「ジーク殿、これが?」
「ああ、ブロデアの卵だ」
「ナアウウウウ」
ブロデアの卵の放つ異様な雰囲気に飲まれたか、ウーラが毛を逆立ててうなった。
「ウーラ、落ち着いて」
アリエスがウーラの首を撫でる。
ナデナデ
「ゴロゴロゴロ」
するとウーラはおとなしくなり、アリエスのなすがままとなった。
アリエスはウーラの額をコショコショした。
「ウナア」
気持ちよさそうなウーラの猫顔を見て、アリエスは強烈に頬ずりしたくなったが、寸でのところで堪えた。
トアルの森近くの村にて、アリエスが二足歩行する猫の魔物を隷属したところ、なんと喋りだし、自分の名前をウーラと名乗った。聞けばウーラは魔物と人間の合成魔獣であり、元々ヘデラ大陸にある町に住んでいたが、正体がバレるのを防ぐために旅に出たのだという。
旅の途中、一緒にいた姉と離ればなれになってしまい、魔物を狩って食べることで食いつなぎ、姉探しをしていたウーラであったが、狩りを続けたことにより自分の中の魔物の部分が暴走し、いつしか我を忘れてしまったようである。
魔物でないならと、アリエスは隷属を解除した。ジーク達はウーラの姉探しを手伝ってやりたかったが、今はブロデアの卵が優先である。ウーラに村で待っているように言ったところ、ウーラはジーク達についていきたいという。
ウーラは村の周りの魔物を狩ってくるなどして戦力を示し、何故かアリエスが凄く仲間にして欲しそうだったため、ジークはウーラを仲間にし、一緒にブロデアの卵の対処へと向かうことにした。
「ジーク殿、卵の処理はどうするのだ?」
「細切れにして焼く」
シュウン
ジークは収納から剣を取り出した。
「わかった。ウーラは下がっていろ」
「ナウ……」
ウーラが下がり、ジークが剣を振りかぶったその時である。
ドグン
これまでよりいっそう大きな脈を打つブロデアの卵。
ボコッ!ボコン!
卵の表面が盛り上がる。何かが外へと出ようとしている。
ブシュッ!
卵の表面を突き破り、飛び出て来たのは大きな爪を携えた黒い手であった。
「アリエス気をつけろ」
ゾッ ブジュルル
卵の皮を破り、透明な液体と共に、黒い人型が這い出てくる。
ズシャッ!
地面に降り立った黒い人型の背中には、蝙蝠のような羽が生えている。顔らしき部分には鼻も口も耳もない。
ギロリ
単眼の大きな目が、ジーク達を見た。
プレアム -軍事要塞オフン-
軍事要塞オフンは皇帝ニクスの居るナナーク城に一番近く、多くの兵器を備えるプレアムにおける最重要軍事施設である。
「くくく」
ビクシンスキーは不敵に笑った。
「貴様ら、よくもここまでプレアムを荒しまわってくれたな。だがここまでだ。軽駆動機構を備えた大鎧の力を思い知れ!」
ブオン!
白フードの男に向け、大槌が振り下ろされた。
ドガッ! ズシャアア!
「うおっと」
白フードは大槌を防いだが、勢いを殺せずに後退した。
ガシャガシャガシャ!
大鎧を着た兵士達が白フードと藍色フードを取り囲んだ。大きな体に見合わぬ機動力である。
大鎧の表面には魔力の通る白い回路が浮かんでいる。これは内部に仕込まれた魔石から動力を得て、重い鎧を軽々扱えるようにする機構である。その大鎧の背中には大きな箱が背負われていた。
「流石に最後まで楽勝とはいかねえか」
「ブロォ」
白フードと藍色フードは背中合わせになり、周りの大鎧達に向かって構えた。
「ニクス様に勝利を!」
ビクシンスキーが背中に背負った箱のつまみを捻った。他の兵士達も同じようにつまみを捻る。
大鎧の背中の箱から延びる管は鎧の中へと繋がっている。
ツゥッ
管の中を黄緑の液体が進んでいく。
黄緑の液体が鎧の中に到達すると同時に、兵士達の目が血走った。
「「「ぐおおおおっ!」」」
モン・エナ。
それはビクシンスキーがニクスから授けられた切り札である。
それはとある魔物から体液を抽出したもので、覚醒作用、疲労回復、精力向上が見込めるものの、利尿作用でトイレが近くなるという、鎧を着た状態では摂取を控えたい代物であった。
そして、モン・エナはそれに含まれる成分から、過剰摂取は死の危険がある。
だがそんなことはお構いなしとばかりに、ビクシンスキー達の背負っている箱にはモン・エナが大量に入っていた。
ブオン!
大鎧の兵士達が大槌を振りかぶり、白フードと藍色フードに向けて振り下ろす。
ドガア!
大槌は要塞の床を叩いた。白フードと藍色フードは大槌を上に飛んで避けていた。
白フードが叫ぶ。
「行くぜ相棒!」
「ブロロオ!」
カッ!
フード二人の体が発光した。
フサアアアア
白フードのシルエットが膨らんでいく。輪郭はフサフサとした毛玉のようである。
ガキガキン!カシカシカシ!
藍色フードのシルエットが膨らんでいく。輪郭は流線型の大きな弾丸のようである。
光が治まると、そこには白フードと藍色フードの姿はなかった。
代わりにいたのは真っ白な毛皮の大きな獅子と、四輪のついた大きな流線型の金属。
カシャ!
ジャングル皇帝モチャム:
カレルの因子強化により、一時的に魔族としての覚醒の先、メガ覚醒状態になったモチャムである。メガ覚醒によってアンザック種の特性が強調され、元々フサっていたフサフサがさらにフサフサとなり、モチャムはもはやフサの権化となった。動くたびにフサフサと揺れるそのフサフサは、見る者を魅了し、接触欲を強く刺激する。
カシャ!
マッハ・ブロッホ:
カレルの因子強化により、一時的に魔族としての覚醒の先、メガ覚醒状態になったブロッホである。メガ覚醒によってザクセン種の特性が強調され、動力機構のようになっていた部分が全身に拡大した結果、ブロッホの体は変形し、カレル曰くスーパーカーと呼ばれる状態へと至った。相変わらず動作音は「ブロロロロー!」と口から出すが、その流線型の体は見る者を魅了し、所有欲を強く刺激する。
「へ、変身しただと!?」
ビクシンスキーが驚愕する。
「ガルアア!」
ドガァ!
「キュウ」
ジャングル皇帝モチャムの体当たりにより、ビクシンスキーは気絶した。




