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異世界における他殺死ガイド52

 

 ヘデラ大陸 ーとある村の教会ー



 司祭と髭面の男が話している。


「それで、いくら寄付されるおつもりですか?」


「へ?」


「寄付ですよ、寄付。アンデッドを何とかして欲しいんでしょう?」


「お金とるんですかい?」


「なんですか、人を守銭奴みたいに。寄付ですよ、寄付。誠意を見せて貰わないと。」


「俺あ毎日礼拝を欠かさないし、教会の手伝いだってしてる。無料で何とかしてくれたっていいじゃあねえですか。」


「それとこれとは別です。」


「はあ…。それじゃあこれで。」


 髭面の男は硬貨を一枚懐から取り出し、司祭へ向けて突き出した。


 司祭は手の中の硬貨を見たが、それを受取ろうとしない。


「なんですかこれは。」


「何って、寄付じゃねえですか。」


「この額では誠意が感じられません。」


「誠意って、額で決まるものなんですかい?」


「はい。」


「……。」


「せめて100ベリルくらいは出してもらわないと。」


「そ、そんな額払えっこねえ!」


「ならばお引き取り下さい。」


「そこをなんとかこれでお願いできねえですか?」


 髭面の男は硬貨を持った手を突き出す。


「できません。」


「…。」


「駄目です。」


「…わかった。もうあんたには頼まねえ。だけんど、この仕打ちは忘れねえかんな。」


 髭面の男は司祭を睨みつけた後、裏口から教会を出て行った。


「はあまったく、100ベリルぽっちも寄付できないとは。貧乏人に用は無い。」


 司祭は椅子に座ってため息をついた。


「まあその金は私の懐に入ることになるんだが。」









 ■■■





 ◆






 靄の中に居る。




 あらゆるものに靄が掛かって、よく見えない。


 もうどのくらい、この靄の中にいるだろうか。




 腹が減るので食料を求めて歩き、食えそうなものを探す。


 食えそうなものとは何か。


 動くものだ。


 動くものは食える。


 動くものは俺を見ると逃げていく。


 追うが、俺の足は鈍く、追いつけない。


 腹が減って、気が狂いそうだ。




 たまに黒い靄が見える。


 動いているがこれは食わない。


 腹が減って気が狂いそうだとしても。




 頭がかゆい。


 掻こうとしたが、右手が無い。


 仕方がないので左手でボリボリと掻くと、何かが剥がれて落ちた。


 何が落ちたのか靄が掛かって確認できない。




 俺は一体どうしてしまったのだろうか?


 確か、ザンシアに看取られて逝ったはずだ。


 ということはここは?


 こんな靄だらけの世界を彷徨うのが、死後の世界なのだろうか?


 それにしても頭がかゆい。




 ***




 彷徨い続けていると、動くのに逃げない白い靄を見つけた。


 左手でそいつを捕まえる。


 そいつはメエーメエーと鳴くが関係ない。


 俺は腹が減っているのだ。


 あと頭もかゆい。



 ガヂュ!



 靄に齧り付く。


 靄はメエーメエーと暴れる。


 だがやがて弱っていき、動かなくなった。


 俺は靄を齧り続ける。



 うまい。



 頭がかゆい。




 うまい。かゆい。




 うま…かゆ…。







 ……! ……!



 何か別の靄が出てきて叫んでいる。



 何を叫んでいるのかわからない。



 とりあえず満足した俺はそこから去ることにした。




 ***




 どのくらい彷徨ったか。



 再び飢餓感に襲われた俺は動かない白い靄の所へ歩いた。



 なんとなくだが、場所を覚えている。



 白い靄が居た。



 だが逃げていく。



 俺は白い靄を追いかける。



 白い靄は少し逃げると止まり、俺が近づくと逃げる。また止まる。



 そのうちなんだか居心地が悪そうな場所に着いた。



 そこは光っていて眩しい。



 だが白い靄がすぐそこに。



 ……!……!



 別の靄が出てきて何か叫んでいる。



 何を叫んでいるのかわからない。



 そいつに気を取られていたら白い靄が居なくなってしまった。



 仕方が無いので叫んでいる靄に向かっていく。



 ……!……!



 靄が叫ぶ。



 シャイイ



 靄が光り出す。



 眩しい。



 シャイイイイ



 光が増す。



 俺を光が包んでいく。



 ああ、暖かい。



 心地が良い。



 逝きそうだ。



 シャイイイイイイイイ



 光が完全に俺を包み、俺の視界は真っ白になった。












「ハッ!」



 突然意識が覚醒した。



 手を見る。男性の手だ。



 辺りを見回す。ステンドグラスが目に入った。…ここはどこだ?教会の…、裏口?



 ぐっ!



 記憶が流れ込んでくる。



 俺が乗り移った男の名前はグレゴル。ここティーカ村の教会で司祭をしている。


 グレゴルはいつものように教会で仕事をしていた。裏口をノックする音が聞こえたので出てみた。するとそこにアンデッドが立っていた。そのアンデッドは右手が無く、首が折れていて、頭を下に垂らしてブラブラさせていた。昨日、グレゴルは髭面の男の頼みを断った。アンデッドを何とかして欲しいという頼みだ。その時聞いたアンデッドの特徴そのままだ。


 これはあれか、グレゴルは髭面の男にアンデッドを押し付けられたのか。


 ……。


 グレゴルの記憶に残るアンデッドの顔。その顔には見覚えがあった。あれはゲッコーだ。


 ドクを殺したゲッコーに、俺は乗り移っていたのだ。


 ゲッコーはザンシアが殺したはずだ。そこで俺の乗り移りは途切れてしまうはずだったが、ゲッコーがアンデッドとして蘇ったため、乗り移ることができたようだ。


 俺に致命傷を与えた相手を誤って殺してしまったとしても、アンデッドとして蘇ることができるのであれば、そこを気にする必要は無くなる?いやいや、アンデッドになる条件がわからないし。試す気にはならない。


 アンデッドに乗り移った俺は、グレゴルが放った聖光で浄化されてしまった。そして、その場合浄化した者が乗り移り対象となってしまうようだ。


 グレゴルには悪いことをした。彼は俺が乗り移ったアンデッドを浄化したばっかりに死んでしまった。


 教会の司祭などしていたのだ。さぞ徳の高い……。


 グレゴルの記憶を辿ってみるとこの男、中々の人非人であった。そんなに同情する必要はなさそうだ。




 かろうじてこの世に留まることができた俺だが、今気掛かりなのはドクの死後、ザンシアとウーラがどうなったのかである。だが今の俺にはドクの屋敷がどこにあるのかわからない。


 俺の持つ記憶にはこの村についての情報が無い。グレゴルの記憶にもルセスの町は無いようだ。


 ドクの屋敷からルセスの町に行くための橋はゲッコーが落とした。だから橋は渡っていないはず。ならば森を反対側まで抜けたのか。いや、ゲッコーが死後どのくらいでアンデッドと化したのかはわからない。その間に橋がかけられたのかもしれない。


 ドクの屋敷から俺は歩いてこの村まで来たのだろう。アンデッドの歩みは鈍いが、どのくらい彷徨っていたのだろうか?一日中歩き続けていたのならそれなりの距離を移動してしまったかもしれない。


 仕方が無い。教会は暫くお休みにして、ルセスの町の情報を探そう。


 俺は教会の戸を締めに向かった。


 表の戸を閉める前に、外の様子を確認する。


 …なんだか薄暗い。今は早朝では無かったか。グレゴルの記憶によれば、もっと明るいはずだ。


 薄暗いというより、空気が悪い?


「し、司祭様!」


 おお、第一村人発見。農民っぽいおじさんが駆け寄ってきた。焦っているように見える。


「やあ、どうかしたかね?」


「村が、変な気で覆われて…暗くなって…」


 この黒い気、これは知っている。瘴気だ。村の中に瘴気が充満している。明らかに異常事態だ。


「きゃあああ!」「う、うわああ!」「アンデッドだ!」


 遠くから悲鳴が上がる。そちらを見るが、普段なら見えている家屋が見えないほどに視界が悪くなっていた。


「ア、アンデッドだって!?司祭様!助けて下せえ!」


 おじさんが服を引っ張ってくる。


「落ち着いて下さい。」


 俺はおじさんを宥め賺そうとしたが、落ち着いてくれない。


「見てきますから、あなたはここに居てください。」


 おじさんを教会に残し、俺は悲鳴の聞こえた方へと向かった。


 木造の家が並んでいる。家の間にある道を行く。



 ジュル ジュルルッ



 なんだ?誰かが何かを吸う音が聞こえる。


 見れば竹馬のように手足に棒を括り付けたおかしな格好の奴が下を向いて何かしている。


 そいつの口からは細長い槍のようなものが出ている。その槍の先には倒れた男。死んでいる。槍で腹を刺されたようだ。


 ジュルルル


 何かを吸う音が続く。竹馬の口から伸びているのは嘴だった。死んだ男の腹から何かを吸っているのだ。




「あー」「ううー」


「た、助けてえ!」




 悲鳴の方を見れば女性が数体のアンデッドに囲まれていた。そのアンデッド達は何故か体中に鉄の板が括り付けられている。


「今助けるぞ!」


 俺は女性に向かって駆けた。


 グレゴルには聖光が使える。このアンデッド達を浄化できるはずだ。


 首から下げたタリスマンに手を当て、祈る。


 「神よ、この者達に安らかな眠りを。」


 適当な祈りだが、これでも問題ないはずだ。


 タリスマンが光り出す。



 シャイイイイイイイイン



「あああああ」「ううううううあああ」「はああああ」


 女性を囲んでいた数体のアンデッド達が光に包まれる。


 そして、霧散していく。


 シュワアアアア


 ガシャ


 後にはアンデッド達に括り付けられていた鉄や木の板が残る。


「お譲さん、ご無事ですか?」


 俺は座り込んでいる女性に手を差し出した。


「あ…、ありがとうございます。司祭様。」


 女性は俺の手を取って立ち上がった。


「教会の場所はわかりますね?中に人が居ますから、声をかけて入れてもらってください。」


「わ、わかりました。」


 女性は教会に向かって走り出した。



 ジュルッ…



 竹馬が吸うのを止め、こちらを向いた。


「フゴッ」


「あー」「ううあー」


 竹馬の後ろからゾロゾロと体に鉄板を付けたアンデッドが現れた。何体居るのだ。



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