異世界における他殺死ガイド51
ヘデラ大陸 -ヌベトシュ城から南の村-
「はあっ!」
ガッ! ズシャ!
「ギャウ!」
草犬は兵士の剣を受けて倒れた。村に侵入した魔物と兵士達が戦っている。
逃げそびれた村人たちは村中央の大きな家に集まり、震えている。
「ああ、この村も魔物に蹂躙されてしまうんだ。」「大丈夫よ。城の兵士さんたちが来てくれたでしょう。私達を守って下さるわ。」
村人たちが悲観にくれている中、ロベール隊に朗報が入る。
「ロベール様!近くにいた他の隊も駆けつけてくれました!なんとかなりそうです!」
「そうか!」
隊長のロベールの顔に、安堵の表情が浮かぶ。
近頃ヘデラ大陸中の村や町を襲っているという魔物の群れを警戒し、村や町を繋ぐ道を馬に乗って巡回していたロベール隊。
巡回中、逃げてきた数人の村人から話を聞き、村へと急行したロベール隊は、体から黒紫の煙を漂わせる魔物達の群れが村を襲っているところを目撃する。
魔物の群れは草犬や槌猪、飛び鼠など、それほど強くない魔物で構成されていた。ただ数が多かったため、連れている兵士達で何とかなるかは判断できなかった。だが村を見捨てるわけにはいかない。ロベールは直ちに応援の伝令を出し、兵士達を村に向かわせた。
そして兵士達は奮闘し、多少の被害を被りながらも、魔物達の数を減らしていった。そこに他の隊も来てくれた。これは勝った。ロベールがそう考えたその時であった。
…ドドド
「この音は?」
…ドドドドド
何かがこちらへ近づいてくる。そんな音が大きくなる。
「おい!あれは!?」
兵士の一人が指で差した先には砂煙が上がっていた。砂煙の先頭にはひしゃげた鉄の箱が見える。
「突っ込んでくるぞ!」「避けろ!」「うわあああ!」
ズドドドド ドガァ!
「ギョアアア!」「ピギィィィ!」
鉄の箱は村の周りを囲む頑丈な木製の柵をなぎ倒し、数匹魔物を轢き殺し、村の家を三棟ほど破壊して停止した。
砂煙が舞い、兵士達は周囲がよく見えない。
「鉄の…箱…?」「車輪に何か…」「うっ」
大きな鉄の箱の前面には四角い穴があり、穴には鉄柵がはまっている。そして左右には四角い扉がついており、下には車輪がついている。その車輪には人間が、いや、人間のアンデッドが括り付けられていた。括り付けられたアンデッドには下半身が無い。その代わり、腕の筋肉が肥大している。このアンデッドが車輪を回すことで鉄の箱は移動していたようである。
カシャ!
デリバリーペイン:
その辺にあった大きな鉄の箱をいくらか加工し、車輪を付けただけのもの。車輪にはアンデッドが括り付けてあり、そのアンデッドが車輪を回すことで進む。その移動速度は意外と速い。内部には瘴気の詰まった壺と、瘴気の染みた土の詰まった棺がある。
※カシャ!はカレルの作品紹介時の効果音です。
デリバリーペインの後ろには車輪付きの檻が縄で繋がれていくつも並んでいる。
そして檻の中には無数のアンデッドが敷き詰められていた。
「うぁー」「あー」「おおあー」
「な、なんだ…このアンデッドの数は…。」
兵士たちは警戒し、様子を伺う。
「ヴァヴァヴァヴァヴァ!!」「キャキャキャキャキャキャ!」
すると鉄の箱の中から不気味な笑い声が聞こえる。
ブシュアアアア
デリバリーペインのの下から何かが噴き出す。
「な!?」「これは…、瘴気だ!」「げほ!ごほ!」
カコン ギィイィ~ ガシャン!
檻の左右が開いた。
ゴロゴロゴロ ドタドタドタッ
「うー」「あー」
檻に敷き詰められていたアンデッド達が次々転がり出て、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったアンデッド達は体に鉄や木の板を張り付けている。
カシャ!
ドノーマン:
狂気の鍛冶師カレルによって作り出された強化アンデッド。人間のアンデッドの体に鉄や木の板を張り付けただけの存在だが、四肢が破壊されるまで動き続けるため、地味だが非常に厄介な相手である。
「フゴッ」
カツッ カツッ
竹馬のように手足に棒を括り付けられたアンデッドが器用に立ち上がり、兵士達を上から見下ろす。その口からは槍のようなものが伸びていた。
カシャ!
サックマン:
ドノーマン同様カレルによって作り出された強化アンデッド。人間のアンデッドに長い嘴のついたマスクが被せてある。動きの鈍さをカバーするため、手足には竹馬のように長い棒が括り付けられており、その姿はザトウムシのようである。他のアンデッドによって動きを封じられた者を狙って尖口を刺し、体液を吸う。その吸啜力は強く、腹を刺されれば内臓ごと持っていかれてしまう。
「うおおっ!」
兵士の一人がドノーマンを槍で突いた。
ガスッ
兵士はドノーマンに張り付けられた板の隙間を狙ったが、手ごたえは固く、深くは刺さらない。そして、槍は刺さった個所に固定されてしまった。
「ううっ」
グッ グッ
兵士は槍を抜こうと引っ張るが、抜けない。そこを上からサックマンの尖口が襲う。
シュッ!
「うわあああ!」「危ない!」
グイッ
仲間に体を引かれ、兵士はサックマンの尖口から逃れることができた。
「気をつけろ!何をしてくるかわからんぞ!」「す、すまん!」
「あー」「ううー」
ドノーマン達は呻きながらゆっくりと村の周りへ歩いていく。
「まずいぞ、村を包囲するつもりだ。」「やらせるか!」
「ブシュウ!」「ガウアウ!」
兵士達は村を包囲させまいと動くが、村の中に散っていたはずの魔物達がいつの間にか村の周囲を囲んでいる。
「まさか!」「最初からこれを狙っていたのか!?」
ドノーマン達が列を作り、ゆっくりと村を囲っていく。
「足を狙う!」
ブオッ!
大柄の兵士が大きな剣を振るった。
ズシャアア!
ドノーマン達の足を狙ったその剣戟は、鉄や木の板をものともせず振り抜かれた。
ドタタッ
「あー」「うあー」
足を切り裂かれたドノーマン達が倒れこむ。
「やったぞ!」
だが檻から次々とドノーマン達が下りて来る。ドノーマン達は倒れたドノーマン達を踏みつけて進む。
「くそっ!こいつら何体いやがる!」
ブシュアアアアア
デリバリーペインから出る瘴気が止まらない。黒い瘴気はだんだんと村に立ち込めていく。
「ロベール!」
村の近くにいた隊の隊長がロベールの所にやってきた。
「ブルマンか。応援、感謝する。」
「礼は後だ。我々は既に包囲されている。このままではまずい、兵を一カ所に集めるぞ。」
「ああ。」
「アンデッド達に協力する知性があるようには見えない。必ず指揮を取っている奴が居る。そいつを狙うぞ。」
「おそらく、あの鉄の箱だ。」
ロベールはドノーマン達に囲まれたデリバリーペインを睨む。
ロベールとブルマンは兵士達を集め、前衛、中衛、後衛に分けた。ロベールが兵士たちの前に出て指示を出す。
「全員、あの鉄の箱を狙え。相手の動きが鈍いからと言って気を抜くな。」
「「はっ!」」
ノソリ ノソリ
ドノーマン達はゆっくりと囲いを狭めていく。
鉄の箱、デリバリーペインの中、固定された椅子に透明な瓶を頭に被った男が座っている。その傍らに、三角巾を被り、ナース服を着た女性が立っている。青白い女性の顔は頬や額に大きな縫い目があり、痛々しい。
カシャ!
バルブヘッド:
強化アンデッド。カレルの工夫のおかげで多少の知性が残っている。喉を改造されており、決まった周波数の音を出すことでアンデッド達を操る。頭に被った瓶の中は真空であるため、だんだんと頭皮が剥がれていっている。興奮すると頭皮に僅かに残った髪の毛から放電し、発光する。意味はない。
カシャ!
ナイチンガール:
三角巾にナース服を着た女性の強化アンデッド。ガールがナイチンなのは当然である。バルブヘッドの補佐をしている。また、他のアンデッド達がデリバリーペインに運び込んだ死体やまだ生きている人間を、アンデッドにしたり瘴気漬けにしたりする。
「キャキャキャキャ」「ヴァヴァヴァ」
バルブヘッドとナイチンガールが笑う。そしてナイチンガールは車内にいくつもある壺の蓋をはずし始めた。
ブシュシュアアアアア
デリバリーペインから出ていた瘴気がさらに多くなる。
黒い瘴気により、視界が悪いまま、デリバリーペインに近い位置にいるドノーマン達と兵士達が接触する。
「うおお!」
ドカッ!ザシュ!
「ヴァアー」
兵士たちは鉄の箱に向けてドノーマン達の足を狙い、倒していく。
「キャーキャーキャー」
ユサユサユサ
近づいてくる兵士達に恐怖したのか、ナイチンガールがバルブヘッドの頭の瓶にしがみついて揺する。そのたび、バルブヘッドの頭皮が瓶に引っ張られて剥がれそうになる。
「ヴァアー。」
バルブヘッドが白目をむいた。そもそもアンデッド達の目は白濁しているため、印象はあまり変わらない。
ブオン! ブシャア!
「ぎゃああああ!」
瘴気の中から突如振るわれた剣戟により、兵士の一人が切り裂かれて絶命する。
ヌッと姿を現したそのアンデッドは、頭が大きな包丁に真っ二つにされていた。絶命した兵士はこの大きな包丁によって切り裂かれたのだ。
カシャ!
ギ・ロン:
強化アンデッド。長身のアンデッドの頭を大きな包丁が柄に近い方で真っ二つにしている。それを縄で固定してあるだけ。頭を振って包丁で敵を切り裂こうとするが、そうそう当たるものではない。おまけに大きな包丁を腐った首で支えているため、すぐに首が取れてしまい、その寿命は短い。それ故か、カレルのお気に入りである。手には一応手裏剣を持たされている。こちらは結構当たる。
「気をつけろ!別の種類のアンデッドだ!」
「ああくそ!視界が悪くて見えない!」
ブオン!
「うおっ!」「危ない!」
ギ・ロンが頭の包丁を振って兵士たちを狙う。だが今度は当たらない。
ミチミチミチ
大きな包丁を括り付けられた首は今にも千切れそうである。包丁を手に持たせれば良いのに。ギ・ロンを見て兵士達はそんなことを考える。だがそれではカレルが納得しない。包丁を手に持っただけのアンデッドなど、なにが面白いというのか。カレルは狂気の鍛冶師なのだ。
ガチ!
「う!?」
ギ・ロンの包丁を避けることに気を取られていた兵士の一人が何かに腕を掴まれた。いや、挟まれた。兵士はペンチで腕を挟まれている。見れば胸を大きな金属のペンチに貫かれたアンデッドが立っている。背骨がペンチの支点になっているようである。
「な、なんだこいつは!?」
メキッ グシャ!
「ぎゃあああ!」
ペンチが挟み込まれ、兵士の腕は嫌な音を立てて潰れた。
カシャ!
ヴァイスマン:
強化アンデッド。大きな歯抜きペンチのような金属が胸を貫いている。そのペンチで相手の体を挟み込み、潰そうとする。一人で潰せない時は後ろにペンチの持ち手があるので、それを他のアンデッドが押して潰したりする。
「くそっ!よくも!」
仲間の仇とばかりに、ヴァイスマンへと兵士が切りかかる。
ガギ!
ヴァイスマンはその剣をペンチで白刃取りした。
「ううっ!?」
「こ、こいつら強いぞ!?」
混乱する兵士たちの中、さらに別種のアンデッドが瘴気の中から現れる。
そのアンデッドはコートに帽子を被っており、ともすればアンデッドに見えない風体をしていた。顔が青いのでアンデッドだとわかるといった具合である。
カシャ!
マドラー:
強化アンデッド。コートと帽子に身を包んでいる。動きが早く、力も強い。それだけだが、倒しづらく、寿命も長い、最も厄介なアンデッド。だが面白みがないのでカレルからは冷たい扱いを受けている。本当はマーダラーと名付けたはずが、誤ってマドラーになってしまった。面倒くさいのでそのままにされた。
「うおおっ!」
兵士の一人がマドラーに向かって切りかかる。
ガキッ
その剣戟を素手で受け止めるマドラー。
ブゥン!
剣ごとドノーマン達の方へ投げ飛ばされる兵士。
ドカッ
「ぐあっ!」
すかさずドノーマン達が兵士を抑え込む。
「あー」「ううー」
「う、うわっ!うわあああ!」
ドシュ!
待ってましたとばかりにサックマンの尖口が兵士の肩に突き刺さる。
ジュル! ジュルル!
「ぎっ!ぎがああぁぁ…」
重要器官を吸われてしまったのか、兵士が絶命する。
「あー」「おあー」
ドノーマン達が絶命した兵士の体を後ろに運ぶ。アンデッドにするため、デリバリーペインへと運び込むのだ。
「弓兵!撃て!」
ロベールの合図とともに、前衛が前を開け、後衛の弓兵からアンデッド達に向けて矢が放たれた。
ズガガッ!
矢はギ・ロン、ヴァイスマンに命中した。だが二体の動きは止まらない。
マドラーはあろうことか矢を避けた。
「キャーキャキャキャキャ」
ナイチンガールがデリバリーペインの中で前かがみになり、手で日を遮って三体のアンデッド達の活躍を眺めている。
「ヴァ?」
バルブヘッドが白目から復活した。バルブヘッドの目の前にはナイチンガールの尻がある。
「ヴァヴァヴァヴァ」
バヂヂッ
バルブヘッドの髪が放電し、被る瓶が発光した。バルブヘッドは嬉しそうだ。
「ぎゃあああ!」「ぐっ、ぐがあああ!」「た、助け…、ぎぃあああ!」
瘴気で視界が悪い中、あちこちで兵士達の悲鳴が上がる。劣勢にロベールが唸る。
「ぬううっ!」
果たして伝令に呼ばせた応援の到着まで持つだろうか。ロベールの頭に絶望がちらついた。




