第二節 文化祭
第二節 文化祭
六月に入り、梅雨の気配が近づいてきたある日。
文化祭が間近に迫った教室で、俺たちはいつものように朝のパート練習を終え、席に着くと、始業のチャイムが鳴った。
ガラガラ、と教室の扉が開き、入ってきたのは担任の雨宮先生ではなく——教頭先生だった。
——あれ?
みんながキョトンとする中、教頭先生が教壇に立ち、静かに切り出した。
「雨宮先生はな、ちょっと病気になられて、当分の間お休みされます。その間は、私がこのクラスを担当します」
「えーっ! じゃあ、文化祭は!?」
クラスのあちこちから、不安そうな声が上がる。
「それは……先生も、できるだけ来たいとおっしゃってはりました」
教頭先生の歯切れの悪い返しに、「そんなー……」と、教室には悲壮感と脱力が一気に広がった。
その重苦しい空気を切り裂くように、あの旧友が勢いよく立ち上がった。
「よし、みんな! 雨宮先生に最高の合唱を届けるぞー!」
あいつは相変わらず熱い。クラスの何人かが、つられたように小さく拳を突き上げた。
(……まあ、俺は知っていたから、驚きはしなかったけれど)
ーー
文化祭当日。
結局、講堂の客席に雨宮先生の姿はなかった。
大人の俺は、先生の病状があまり良くないことも、その結末も知っている。
一生懸命に声を張り上げるクラスメイトたちの横顔を見ながら、俺はみんなに重大な隠し事をしているような、冷たい罪悪感を覚えていた。
俺の一票で決まった、無難なはずだった合唱。
窓から差し込む初夏の光とは裏腹に、どこか切なく、何とも言えないほろ苦い文化祭になった。




