第五項 アポなし突撃の裏工作
第五項 アポなし突撃の裏工作
夏休み六日目。
斉藤班長の家に班のメンバー全員が集合した。今回はさすがに、あのすっぽかし犯の班員Aもバツが悪そうにちゃんと来ていた。
斉藤班長が前に「各自二案以上」と言っていたものの、集まった案には、まともなものがほとんどなかった。結局は俺が宮下の家のリビングでふと思いついて出した『桜橋駅前商店街のグルメブック作成』というアイデアに正式決定した。
班のメンバーを三つのグループに分け、それぞれに担当するお店の区分を割り振る。そして三日後に、さっそく「アポなし突撃取材」を敢行することになった。
ちなみに、俺のペアは当然のように宮下になった。
斉藤班長のニヤニヤした視線から察するに、どうやら事前に宮下が斉藤班長に「松野くんと同じグループにして」とこっそりお願いしたらしい。中身がおっさんの俺でも、こういうのは普通に嬉しいものだ。
取材日をあえて三日後に設定したのは、「お店の人に何を聞くか」「どんな流れで話を進めるか」の段取りをきっちり合わせるためだ。そのための肝心なシナリオ作りを、斉藤班長、そして宮下と俺の三人で担当することになった。
ただ——いくら子どもの自由研究とはいえ、大人の社会にいきなり「アポなし」で突撃しても、忙しい時間帯なら相手にしてもらえない可能性がかなり高い。せっかく子どもだけで勇気を出して突撃して、冷たく断られでもしたら、みんなのやる気は一瞬で削がれてしまうだろう。
そこで俺は、みんなには完全に内緒で、ある「裏工作」をすることにした。
(さて、みんなが帰ったら、明日こっそり学校へ行ってみるか)
そんな大人の暗躍を知る由もない他のメンバーが一旦解散した後、斉藤班長の家のリビングで、改めて俺、宮下、斉藤班長の三人による「グルメブック検討会」がスタートした。
斉藤「じゃあ、さっそく取材の流れを細かく考えよっか」
宮下「うん。まずお店に入ったら、最初にしっかり“自己紹介”からだよね」
松野「そうそう。いきなり質問を始めたらお店の人も困るし、『学校の自由研究で来ました』って最初に理由を言っとけば、大人も安心してくれると思う」
宮下「じゃあ、最初の挨拶は、『桜橋小学校の五年三組です。今日は学校の自由研究で来ました。よろしくお願いします!』って感じで、言えばいいんかなあ?」
斉藤「うん、さゆちゃんが言ったら、すごく丁寧で良い感じになりそう」
宮下は少し照れながらも、とても嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
松野「で、挨拶が終わったら、次に『お店のおすすめメニューは何ですか?』って聞く。そのあとに『お店のこだわり』とか『地元の人に人気の理由』とかを掘り下げていく感じかな」
斉藤「あ、グルメブックに載せるための写真も撮らせてもらえるか、ちゃんと聞いたほうがいいよね」
宮下「うんうん。あとさ……私たちが実際に食べた感想とかも書く?」
松野「それは……全員分のお金がかかるから、無理して買わんでええと思うよ。でも、お店の人が試食をさせてくれたりしたら、味の感想も書けるし、ありがたいよな。もし気に入ったら、お小遣いで少し買ってみるのもええかもしれへんな。ひょっとしたらサービスでお土産持たせてくれるかもしれへんで」
斉藤「なるほどね。じゃあ、一旦ここまでの流れをまとめるよ」
斉藤班長はノートを開き、熱心に三人で出し合ったアイデアを丁寧な文字で書き込んでいく。
そのすぐ横で、斉藤班長のペン先を見つめていた宮下が、「これ、めっちゃ楽しみやなあ……」と、宝物を見つけたようにつぶやいた。
楽しそうに目を輝かせる彼女の声を聞いていると、なんだか俺の胸の奥まで妙に嬉しくなってくる。
(よし……裏工作もバッチリやし、絶対この自由研究を大成功させてやろう)
斉藤「じゃ、このノートにまとめた取材の流れをレポート用紙に写して、明日、班のみんなの家に配りに行かなあかんね!」
宮下「じゃあさ、明日の午前中に、三人で手分けしてみんなの家に配りに行こうよ!」
宮下の提案に、俺と斉藤班長は大きく頷いた。
こうして、俺たちの夏休みの大きなプロジェクトが、いよいよ本格的に動き出そうとしていた。
翌日、こっそり学校へ行き、職員室にいた教頭先生に相談して、あらかじめ学校側から商店街組合へ「うちの五年生が自由研究でお邪魔します」と一報を入れ、組合から各店舗にも話を通してもらうことにした。大人の人脈と立ち回りをフル活用した、実にずる賢い小学生である。




