繋がれた牢で
太陽が光を差す。木々の靡く音。鳥の声。いつもと変わらないそんな日常。
王国エサローサから離れたところにある小さな村。そんな小さい村で英雄を夢見る青年が目を覚ます。
「修行だー!!!!」
長く黒い髪を後ろで結び、鋭い眼差しを持ち、腰に剣を持つ青年。
「いつも元気やねぇ。今日も山に行くのかい?」
「ばっちゃん!当たり前だ!俺は英雄になるんだ!そのために必要な訓練をこなす!」
英雄。100年前この世界は1人の独裁者の力により混沌としていた。あらゆる種族の無差別殺人。奴隷化。数多くの大罪を犯してきた。圧倒的力を持つ独裁者の前に世界がひれ伏した。たった数人を除いて。英雄クロック。クロックはひれ伏さず抗うことを決めた数人と共に世界に立ち向かった。結果は相打ち。独裁者の野望を、世界が諦めた事象を、クロックは自分と独裁者との死で終わらせた。世界は感謝し、この者を英雄として崇め、永遠にこの名が残るように歴史に名を刻んだ。
「俺が今の時代の英雄になるんだ!俺も歴史に名を刻む!!」
「そりゃ良いことやねぇ。あんたを育てたツユもそんな姿を見たら喜ぶことに間違いないね。ただ怪我はしてくるんじゃないよ!最近魔物も騒がしい、気をつけて行くんだよ」
「ありがとう!ばっちゃん!いってくる!」
「はいよ!いってらっしゃいナタネ」
ナタネは腰に育ての親のツユの形見である剣を持ち、山に入り込む
山は昨日の雨の影響で足場が悪く、泥地ができ、木々に水滴が付いている
「昨日は土砂降りだったからな、いつもより走りづらい。そうだ、今日は少しハードモードで行くか!」 ナタネはジャンプし、太い木の枝に乗り、ジャンプし、乗りと木の枝を移動する
「たまにはこんなのも!ありだな!」
木に止まっていた鳥達が衝撃で逃げる。
「うし!ついた!」
ところどころに傷があるとても大きな大木。その木を目掛け、剣を抜き振り切る。
「おらおらおら!俺はこの木を絶対へしおーる!!!」
そう叫び木を切り続ける。そこに大量の獣達が流れ込んでくる。鳥、猿、猪。それは見たことのない量の獣。
「うわぁ!?は!?何事!?」
ナタネと大木を無視し、獣達は山の奥へと流れる
「いやいや、これ以上事態でしょ…?何があった?一旦村に…」
「ぐああああああああ!」
ナタネの言葉を遮るように村の方角から何かの咆哮が聞こえる。それはナタネが生きてきた人生の中で一度も聞いたことのない獣の咆哮だった。
「村の方向から!?何があった!とにかく急いで戻らねえと!」
ナタネは足場の悪い泥地を気にせず、全速力で村に戻る。村につき、目に入ったのは紫色の瘴気を纏い全長約4メートル、熊のような形をしているが腕が4本あり、明らかに獣ではない何か。魔物である。
「こいつは…魔物…でもこんな魔物見たことない…」
「ナタネ!逃げ…!」
「じっちゃん!」
ナタネに逃げることを促した村の者は魔物の一振りにより宙を舞い身体が半分に切れる
ナタネはその光景に顔を引き攣る。身体を半分に引き裂いた魔物はぐるりと身体の向きを変え、ナタネの方にゆっくりと近づく。
「逃げ…なきゃ…」
腰が引け、足が動かない。恐怖で体が震える。ナタネの方に近づく魔物は突如足を止め、左の方向を眺める。
「ぁ?」
魔物の視線の方向には村の5歳の女の子が身体を振るわせ母親の死体の影で涙を流し震えている
「や…やだ…」
女の子は近づいてくる魔物に石を投げる。止まらない。
「た…たす…助けて」
その言葉にナタネの身体は反応する。ナタネは英雄になる。英雄になるのだ。
震えた右手を左手で抑え、腰に添えてる剣を抜く。そのまま剣を持ち、右足に力を入れ魔物の上半身目掛けて飛び切りかかる
「お前の相手は俺だ!俺が死ぬまであの子は殺させない」
震えた声で魔物に叫ぶ。魔物は自分の上半身に傷をつけられ怒りの咆哮を上げる。ナタネは人生で初めて自分より何倍も大きい魔物と対峙する。
怖い。怖い怖い怖い。心の中で恐怖を叫ぶ。
「俺は英雄になる。こんなところで人生終わらせるわけにはいかねえんだ」
自分を鼓舞する。ナタネは咆哮を上げる魔物の死角に入り、次々と斬りかかる。
「俺は強いんだ、何せ英雄になるからな」
英雄。英雄になる。その一歩としてあの子の命は奪わせない。怖いという感情はいつの間にか守るという思考に変わる。
「俺の村をめちゃくちゃにした罰はお前の命で償ってもらう!!」
ナタネはそう叫び、高く飛ぶ。魔物はぐるりと高くナタネを見て、不敵な笑みを浮かべる。
「これで!終わりだ!」
剣が魔物の頭上に当たる。その瞬間形見の剣は砕ける。魔物は自分の頭上を硬質化させ剣を砕けさせたのだ。
「な!?」
砕けた剣に意識を持っていかれ、空中でバランスを崩したナタネを魔物は見逃さない。大きく手を振り上げ地面に叩きつける。
「がぁっ」
骨が砕ける音がする。身体からは血が流れ、意識が飛びかける。魔物はそんなボロボロのナタネに見向きもせず、女の子の元へ向かう。
「や…やめろ」
まともに声が出ない。砕けた身体を無理に動かし、地面を這いつくばる。そんな姿を見て魔物は意志のあるように笑う。
「俺は…まだ…死んでね…」
ナタネに向け魔物は口から息吹を放つ。ナタネは自分の持つ特殊な力。魔物からの物理的攻撃以外を無効にする力を使い、その息吹を消す。
「物理的ダメージじゃなきゃ…俺にゃ効かねえぞ…」
魔物は息吹をかき消され怒り、ボロボロのナタネに突進。そのまま4つの手で持ち上げ地面に叩きつける。
「ぐぁ」
声にならない声をあげ、ナタネの意識は失われる。
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「報告のあった場所はこの先で間違いないのか?」
「はい。間違いありません。この先の村、リルセラ村で魔気に犯された魔物が暴れ村が半壊したと報告が入っております」
会話をするのは銀色の騎士服を着て、狼龍の上に乗る者たち。1人は兜をしていて、もう1人は白髪で白目、腰にオオカミの紋様の入った剣を持つ。
「その割には静かだな。魔物が突如消えることはない。どこに隠れているのだ?」
白髪の騎士を先頭に村の入り口付近まで近づく。そこには魔物に襲われ無くなった村の人々。母親の死体の横で泣く少女。そして
「これは一体…?この青年は生きているのか…?もしや魔物を…?」
そして人間の致死量の何倍もの血の池の真ん中に倒れるナタネの姿があった。
1人の騎士が近づく。
「心臓の鼓動は動いております。保護しますか?」
「保護を…いやこの者に手錠をかけろ。仮にこの血の池が魔物の血であるとするのならば、この量の血を放つ魔物はそうそういない」
「つまり?」
「この青年が魔物を討伐していた場合、素性を調べる必要がある。危険人物の場合か判断がつくまでエサローサの牢に入れておけ」
「はっ。わかりました隊長」
指示をされた騎士はナタネの腕に手錠をかける。騎士は気づく、ナタネの身体に傷ひとつないことを。
「隊長。この者は身体に一切の傷がありません」
「そうか。この血の池は少なからずこの者の血ではないということだな。目が覚める前に運べ」
「承知いたしました」
そう言って狼龍の持つ荷台に乗せ、狼龍を走らせる。白髪の隊長と呼ばれる騎士は空を見つめ呟く。
「予言の子を見つけたのは私だったな」
囁きは誰にも聞こえない
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「んぁ…」
ナタネは目を覚ます。ナタネは牢屋の中に入れられ、鎖で繋がれている
「ここは…?ってなんで鎖?あの子は!魔物は?」
情報の量が多くうまく整理できていない。そんなナタネに白髪の騎士が声をかける。
「目が覚めたか」
「誰だ。俺はなんで今こんなになってる?」
「その質問には後で答えよう。先にこちらからの質問に答えてもらう」
「嫌だね。お前が誰かもわからない」
鋭い目つきで白髪の騎士を睨みつける。
「そんなに怖い顔をしないでもらいたい。こちらとしても君の素性がわからないからお互い自己紹介といこう。私の名前はバルド。バルド•バーミアンだ」
バルド•バーミアン。白髪の騎士はそう名乗る。名乗られたからには名乗らないなと思い、渋々名乗る。
「ナタネ。ナタネだ…下の名前は知らない。育ての親がつけてくれた」
「そうか。ナタネか。ではナタネに問う。君は一体何をしていたんだ?」
「何をしていた…?いつも通り山で修行して…そしたら咆哮が聞こえてきて…急いで戻ったら村が魔物に…。そうだ!魔物は!魔物はどうなった!あの子は!!」
「あの子が誰を指しているのかはわかりかねるが、村の生き残りは君と少女だけだったよ。魔物の姿は確認できていない。その代わり致死量を超えた血の池はあったがね」
「そうか…あの子以外…みんな…。情報の整理ができない。なんだって?魔物がいない…?致死量を超えた血の池…?どういうことだ?」
「なぜ君たち2人が生き残ったのは定かではないが。君は血の池の中心で倒れていた。状況から察するに君が討伐したと見るのが1番だと思うが?」
「俺は…俺は魔物と戦闘して…叩きつけられて…そっからの記憶がない…」
「なるほど。最初の君の問いに答えよう。ナタネ。君はエサローサ王国の重要注意人物として今牢屋に入っている。これは私の独断だ。私にはそれを指示する権利がある」
ナタネが繋がれている牢はエサローサ王国、王城の地下にある牢屋である。
「あ?俺が王国様の重要注意人物?ここがエサローサ王国?お前の独断?ダメだ…いっぺんに情報が増えて整理できねえよ」
「独断に関しては私の立場にある。私はエサローサ王国騎士団第一隊隊長バルド。王国の剣である。そしてナタネ、君には常人にはできないであろう大型魔物の単独討伐を騎士でも冒険者でもない無免許で討伐したという名目で私は捕縛している。君に待っているのはここでの永遠だ」
その言葉を聞き、咄嗟に反論する
「俺は倒してない!!濡れ衣だ!!俺は…俺は負けたんだよ!」
「状況証拠が君の討伐を促す」
「だとしても命に関わることだったんだ!こんなところで永遠なんて嫌だ!俺は英雄になるんだよ!」
顔に力が入る。繋がれている鎖を体で引っ張り訴える。
「何か方法はないのか!俺はまだここで終わるわけにはいかないんだよ!」
「最後まで話を聞け。君は本来なら永遠にこの牢で一生を過ごしてもらうが」
「ぁ?」
「一つだけ罪を無くす方法がある」
「俺は…俺は何をすればいい」
「騎士団に所属しろ」
「は?所属しろって言ったって、俺だってバカじゃねえよ。騎士団に入るには専門的な学宿に行かなきゃならない」
「一般の者が騎士になる方法が一つだけある」
「なんだよ…」
「1週間後に行われる騎士を学ぶ学校の卒業試験の名目で騎士団入隊試験が行われる。そこの試験には一般参加が可能だ。そこの試験で合格し、騎士団に入れ」
「試験って言ったって何すんだよ」
「騎士団に必要なのは知識もだが、もちろん戦闘能力。王国にどれだけの力を捧げるかである。それの証明の為模擬戦を行ってもらう」
ナタネは情報整理にリソースを割くことを諦め、一つのことに集中することにした。ここで永遠を過ごさない、自分の夢を追う方法。
「そこで優勝すればいいんだな?そうすれば騎士として騎士団に入りここから出れるってことでいいんだな?」
「多少違うが、概ね間違いではない」
「正直何が何だかわかってないし、気持ちの整理も情報の整理もできてねえけど。選択肢はないんだろ?1週間準備させろよ。結果で示してやる。そして優勝できたらお前のこと1発ぶん殴ってやる」
「いい意気込みだ。その時は大人しく拳を受けるとしよう。期待している。ナタネくん」
「いきなり距離つめんな」
ナタネの日常は日常じゃなくなり、鎖に繋がれた牢屋の中で自分の将来のかかった模擬戦までの1週間の幕をあける。




