プロローグ『あなた達はきっと幸せに』
「はぁはぁ…こっちだ!こっちに来い!その子達だけでも!!!」
長年過ごした里は暗闇を照らす月光の下で、赤い炎に包まれる。あちらこちらから聞こえる叫び声。
この里は、自分たちの血は今この夜に途切れる。
一一瞳に映るこの光景は俺の脳裏に保存される一一
どうして?なぜ?今日この日なのか。自分たちが何をしたというのか。そんなことを考える時間はない。
自分の命が失われる前にこの子達を未来に繋ぐ。ただそれだけでいい。
一一鼻から感じる匂いは俺の脳裏に保存される一一
里から山の麓に繋がる川がある。幸いにもここはまだ被害がない。
「こっちだ。この川を降れば山の麓に辿り着く。そうすればきっと…きっと誰かがこの子達を!」
「なんで今日なの…?まだ私この子達を…この子達をほんの少ししか…」
2人の男女は幼き子を抱きしめ、涙を浮かべ、嗚咽をあげる
一一肌から感じる感触は俺の脳裏に保存される一一
「この子達をはやく逃がそう。覚悟を決めるんだ。俺たちの…この里の未来を託すんだ」
「まだまだ少ししか…」
「未来が途切れる前に!!!」
「ごめん。ごめんね…私達のところに生まれてしまって…」
母親に抱かれる2人の赤ん坊は無邪気な笑顔を向ける。
「笑ってくれるのね…。ねえあなた。この子達の名前は…」
父親は目を瞑り、答える
「もう決まってるよ。この子達の名前は…」
『"ステラ"と"アスタ"』
「同じことを考えていたのね」
「そうだな」
「ステラ、アスタ。私達の所に生まれてきてくれてありがとう。あなたたちを私達は愛してるわ」
一一耳からこの声を一一
川の付近でゴォっと音を立て黒い煙が舞い上がる
「もう時間がない。ステラ、アスタ。俺たちの未来を2人に託す。生まれてきてすぐに申し訳ない」
「ステラ、アスタ。私達は幸せでした、もっと幸せになりたかった。2人は…あなた達はきっと。あなた達はきっと幸せになって。私達の分まで幸せになってね」
『さようなら。ステラ、アスタ』
一一耳からこの声を。俺達の幸せを願う声を脳裏に保存される一一
2人の赤ん坊は川を降っていく。降っていく赤ん坊を涙を浮かべ見送る男女は業火に焼かれ、生涯をここで終える
一一あなた達はきっと幸せに一一




