第4話 通信記者は事故現場で配信を始める
事情聴取は、午前三時を回ってからようやく始まった。
安全室の仮会議室で、俺は紙コップのぬるいコーヒーを飲みながら、向かいの澪を見た。取材用の化粧なんてとっくに流れているのに、目だけは妙に冴えている。
「柴崎澪。ネット報道チャンネル『澪の現場帳』運営。元テレビ局の社会部です」
「無許可侵入の理由は」
玲奈の問いに、澪は肩をすくめる。
「桜葉ターミナルの点検事故が、現場の人間に押しつけられたと聞いたので」
玲奈の視線が、倉田を経由して俺へ来た。
「須藤さん。非常扉A―17の赤ランプを確認した時点で、上へ報告は?」
「端末の内線が死んでました。点検ログは完了扱いです」
「完了?」
玲奈が反応した瞬間、倉田が咳払いを挟む。
「端末入力の反映タイムラグでしょう。現場は混乱していた」
「その割に、責任者欄へご自身の署名が入ってましたよ」
澪が平然と言う。倉田の目元がぴくりと動いた。
「君は外部だろう」
「配信のアーカイブは外部どころか全国公開です」
そこで初めて、玲奈がタブレットをこちらへ向けた。
画面には短い切り抜き動画。ねじれたシャッター、俺の手、開く扉、避難する探索者。見出しには大きくこうついている。
『討伐じゃなくて保守員が救助した』
「すでに一千万再生近いです」
「は?」
「夜中の数字としては異常です」
玲奈は事務的に告げたが、声の奥にわずかな驚きが混じっていた。
倉田は完全に面白くなさそうな顔をしている。
「須藤、余計な発言は控えろ。会社の調査が先だ」
「調査って、また俺に全部かぶせるためのですか」
口から出たのは、思ったより乾いた声だった。
倉田が睨みつける。その視線を遮るように、澪が机の上へ名刺を滑らせた。
「須藤さん。朝になったら少し話しませんか。あなたの扉の直し方も気になるけど、それ以上に、壊れたまま完了扱いになってた理由を知りたい」
玲奈も名刺を出した。
「高峰玲奈、市ダンジョン安全室。今日の件は会社任せにしません」
外注腕章を巻いたままの俺へ、はじめてまともな肩書きが二つ差し出された。
夜明け前の空はまだ暗い。
それでも、何かが少しだけ変わり始めた気がした。




