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第39話 現場責任者の引き継ぎ書
臨時保全部隊の常設化は、思ったより静かに決まった。
記者会見も、華々しい式典もない。ただ市から一枚の辞令が来て、夜間ダンジョン安全保全班という長い正式名称が付いた。
俺は最初の業務で、引き継ぎ書を書いた。
戦果じゃない。討伐数じゃない。点検周期、待機位置、休憩室の使い方、配信時の字幕順、スポンサーを断る条件、眠れてない人間を寝かせる優先順位。
澪が覗き込んで笑う。
「夢のないマニュアルですね」
「事故のない現場は、だいたい夢がないです」
それでいい。
由佳は正式に補助契約を結び、瀬川の白波側とも手順共有が始まった。辻本は“結局また管理役かよ”と文句を言いながら、誰より丁寧に工具棚を整えている。
玲奈は休憩室のドアへ、新しい札を掛けた。
『二時間寝てから判断』
前より少しだけ、街の夜勤がまともになった気がした。
引き継ぎ書の最後に、俺は一文だけ足す。
『何も起きなかった日は、誰かが先に確認している』
地味だ。だが、たぶん一番残したい言葉だった。




