40/40
第40話 直してから始まる夜
正式発足後、最初の夜は驚くほど静かだった。
南改札裏の扉は滑らかに閉まり、第三層の換気は均一に回り、高架下支線の排水ポンプも低い音で働いている。点検表には赤印が一つもない。
「終わりました?」
澪がそう聞く。
俺は首を振った。
「始まっただけです」
夜間ダンジョン安全保全班の腕章は新品だ。でも仕事の中身は、結局これからも同じだろう。壊れたら直す。壊れる前に見つける。無茶しそうな大人へ、ちゃんと無茶だと言う。
控室へ戻ると、玲奈が新しい月次表を壁へ貼っていた。白波の応援日、講習会、避難訓練、休憩当番。由佳が備品の発注書を整理し、辻本が工具箱の留め具を見て「そこ、また緩んでる」と笑う。
澪はカメラを切り、珍しく業務用じゃない声で言った。
「今日、終わったら朝飯でもどうですか」
「始発前に?」
「始発前に」
少し考えて、それから頷く。
「じゃあ、点検が全部緑になったら」
「了解です」
最後に南改札の警告灯を見る。きれいな緑だ。
見えない仕事でも、街はちゃんとその上を歩く。
だから俺たちは、また今夜も先に確認して、必要なら締め直して、何も起きない朝を通す。
直してから始まる夜は、案外悪くなかった。




