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第36話 地下市場の停電
白波ターミナルの市場停電は、ただの老朽化じゃなかった。
地下市場の一角で、古い蓄電池だけがごっそり抜かれていたのだ。代わりに入っていたのは、栄都メンテ経由で流れた安価な再生品。負荷が掛かれば一晩もたない。
「あっちでも同じことを」
玲奈が言い切る前に、照明が全部落ちた。
市場は夜の搬入時間帯。三十代の店主たちが声を上げ、四十代の仲卸が台車を止める。モンスターより先に、暗闇と焦りで事故が起きる場面だった。
俺は桜葉で使った順番を、そのまま叫ぶ。
「動かない! 喋る! 壁を触る! 順番に灯りを回す!」
瀬川が現地スタッフを振り分け、澪が配信用の補助字幕をすぐ流す。由佳は電池倉庫の名簿確認、辻本は仮設電源車の接続。
俺は抜かれた蓄電池ラックへ触れた。全部を直すのは無理だ。だが最小限の系統だけ生かせば、非常灯と搬入口だけは戻せる。
修繕を流すと、一本目の灯りが点く。
闇の中で、誰かが小さく拍手した。
「まだ早いです」
そう返しつつ、二本目、三本目と回す。灯りは十分じゃない。でも足元を見失わない程度には戻った。
停電が明けた後、瀬川が深く頭を下げた。
「借りた手順、返しません。うちでも回します」
「その方が助かります」
俺は本気でそう思った。
現場は一つじゃない。だから、一つでしか回らないやり方は長く持たない。




