第33話 雨夜の一斉避難
高架下支線へ着いた時には、もう排水ポンプが半分死んでいた。
違法配線が正規盤へ干渉し、大雨で漏電したらしい。地下市場の搬入口から水が流れ込み、夜間搬入に残っていた店員や業者が足止めされている。
「人数は」
「確認できてるだけで二十四人」
玲奈の返答に、俺はすぐ役割を切った。
辻本はポンプ室、由佳は搬入口の名簿確認、玲奈は地上誘導、俺と澪は地下通路の避難案内。澪は配信を回すが、映すのは足元と案内だけだ。
『今は出口優先です。スタッフの指示に従ってください』
コメント欄にも珍しく茶化しがなかった。
水は膝下まで来ている。三十代の飲食店長が帳簿箱を抱え、四十代の配送員が足を取られ、三十五歳のベーカリー責任者が冷蔵庫の電源を気にして立ち止まる。
「物より先に人です!」
俺が叫ぶと、全員が一瞬で理解した。そこは大人の現場だった。
途中、排水路脇の避難扉が水圧で歪んだ。手を当てて修繕を流すが、雨量が多すぎる。完全には戻らない。
「十分です、三人ずつ!」
玲奈の指示に合わせ、流れを細く切って通す。焦った誰か一人が押せば終わる場面だったが、皆ちゃんと待った。
最後に残ったのは、四十七歳の警備主任だった。若い店員二人を先に通し、自分は最後まで水門を抑えていたらしい。
「遅いですよ」
俺が言うと、彼は苦笑した。
「こういうの、若い頃から損な役回りでね」
嫌いじゃなかった。その顔。
全員を出し切って地上へ上がると、高架下には拍手じゃなく安堵のため息が広がった。派手じゃない。だが、街を止めずに済んだ夜だった。




