第29話 廃ホームの案内板
音声だけでは足りない。俺たちはもう一度、閉鎖ホームの案内板を洗った。
昼間の駅構内で古い表示を外していると、普通の利用客からは模様替え程度にしか見えない。だが裏へ回れば、ねじの締め方や配線の回し方で、手を入れた人間の癖が見える。
第四層へ続く偽案内を作っていた奴は、表示板を取り替えるたびに同じ位置へ予備配線を残していた。
「そこ、意味あるんですか」
由佳が尋ねる。
「今はないです。でも古い非常灯を勝手に増設する時、そこから電気を取れる」
つまり連中は案内板だけじゃなく、光の流れまで自分たち用に作っている。
一番古いホーム表示を外すと、壁の裏から薄い点検ハッチが出てきた。辻本が目を見開く。
「ここ、廃止記録にないぞ」
開けると、中には簡易中継盤と、使い捨てバッテリー、それに日付入りの入場札があった。
『見学コース 四層試験運用』
誰かが正式資料に見えるよう印字している。字体も、役所の掲示に寄せてあった。
玲奈が静かに怒る。
「市の書式を真似るのは、完全に超えてますね」
俺は中継盤へ触れた。粗雑な施工なのに、事故を起こしにくい最低限だけは押さえている。
雑に見えて、悪意だけは妙に丁寧だ。
その晩、玲奈が告げた。
「栄都メンテの本入札、明日です。証拠を出すならその前」
正しい案内を作るだけじゃ駄目だ。間違った案内で食ってる側の手を、きちんと止めないと。




