第23話 閉鎖ホームの落とし物
翌朝、俺たちは旧保守ロッカー室を開けた。
地下二層の端、今は使われていない従業員通路のさらに奥。錆びた扉の前で玲奈が許可書を示し、辻本が渋い顔で言う。
「ここ、俺が若い頃は工具置き場でしたよ。三十年前の」
三十年前の保守室は、今のダンジョンより人間臭かった。壁に残った勤務表、名前の消えかけたロッカー、角に積まれた古いヘルメット。どれも現役を引退した大人たちの残骸みたいだ。
鍵の番号に合う四番ロッカーを開けると、中には工具じゃなく紙封筒が入っていた。
封筒の中身は、閉鎖エリアの手描き地図と、日時ごとの集合メモ。
『二十二時四十分 第四層旧換気路前』
『案内料 一人二万円』
「違法ガイドですね」
澪が低く言う。
「しかも相手は学生じゃない。二万払って終電後に潜るの、だいたいは社会人」
そうだろう。時間も金もある大人ほど、こういう“裏口”に手を出しやすい。
封筒の底には、参加者の注意書きまであった。
『公式避難灯は信用するな』
『緑札の矢印に従え』
緑札。俺たちが昨日外した、あの即席案内のことだ。
つまり違法ガイドは、閉鎖エリアに自分たち専用の避難導線まで作っている。
俺は無意識に奥歯を噛んだ。
「助けるための灯りを、客を集める目印に使ってるのか」
玲奈が封筒を証拠袋へ入れる。
「今夜、張ります。ただし逮捕優先じゃなく、経路特定優先で」
澪が俺を見る。
「配信は?」
「今夜は切ってください」
「了解です」
派手な現場ほど、画面外でやるべき仕事がある。
ロッカー室を出る時、廊下の非常灯が一つだけふっと明るくなった。俺は違和感に足を止め、カバーを外す。
中の配線が、新しい。
誰かがここ最近、この通路全体の電気まで面倒を見ている。




