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第22話 避難訓練は炎上しない

違法案内の芽を潰すなら、正しい案内を街へ先に通すしかない。


 そういうわけで、臨時保全部隊の最初の公開仕事は、ものすごく地味な避難訓練になった。


 平日の夜九時。地下二層の広場で、店舗スタッフや警備員、終業後に申請していた社会人探索者たちへ避難動線を説明する。参加者は全員成人だ。三十代の店長、四十代の警備主任、二十八歳の会社員パーティー。顔ぶれは地味だが、こういう人たちが一番長く地下を使う。


「今日はモンスター討伐はしません」


 俺が最初に言うと、何人かが少し肩透かしを食らった顔をした。


「代わりに、崩落予兆の見方と、避難扉が閉まった時の待機位置を覚えてもらいます。助かる順番は、強い順じゃなく、通路を塞がない順です」


 澪の配信画面には、実況より先に地図と字幕が出ていた。


『今夜は避難訓練回です』


 コメント欄は意外なくらい穏やかだった。


『こういうの見たかった』

『会社で共有したい』

『大人向けで助かる』


 派手な戦闘がないのに数字が落ちない。それどころか、玲奈によれば市の問い合わせ窓口へ「次回参加したい」という声まで来ているらしい。


 訓練の最後に、俺は例の閉鎖ホーム裏の通路を遠回りで確認した。誰かがまた案内札を付け直していたら困るからだ。


 だが新しい貼り紙はなかった。その代わり、保守柵の根元に小さなコインロッカーの鍵が落ちていた。札には油性ペンで、ただ一文字だけ書いてある。


『四』


 第四層の四か、四番ロッカーの四か。


 拾い上げた鍵を見て、辻本が眉を寄せる。


「駅構内のロッカー鍵じゃないな。古い保守員用のやつだ」


「まだ使われてるんですか」


「正式には廃止されてます」


 廃止済みなのに、鍵だけが新しい手垢を残している。


 訓練は炎上しなかった。むしろうまくいった。


 だからこそ、その裏で別の誰かが閉鎖された導線を“使えるまま”維持しているのが、余計に気持ち悪かった。


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