第21話 仮設部隊の初会議
臨時保全部隊の初会議は、始発前の控室で始まった。
俺の前には紙の点検表、玲奈の前にはタブレット、辻本の前にはコンビニのおにぎりが二つある。三人とも徹夜明けみたいな顔だが、今度は肩書きだけじゃなく仕事の筋も通っていた。
「市の暫定承認は二週間。成果が出れば常設化を検討です」
玲奈がそう言って、閉鎖中の第四層保守路を地図に表示する。黒曜牙と灰塔設備の件で落ち着いたと思った地下は、別の形でまだ濁っていた。
「終電後に閉鎖エリアの警報が何度も鳴ってます。侵入者は映ってないのに、案内板だけ直された跡がある」
「直した、ですか」
「壊したままじゃない。使える程度にだけ戻してあります」
それは保守の癖だ。しかも素人じゃない。
澪がカメラを机へ置いた。
「配信のコメントでも、第四層の“抜け道”を知ってるっぽい書き込みが出てました。削除したけど、何人かは本気で入ってる」
最悪だ。閉鎖通路が冒険の裏技扱いされ始めたら、事故は必ず起きる。
俺は地図の端を指で押さえた。
「まずは使える避難路を全部洗い直しましょう。閉鎖エリアの案内板も、紛らわしいやつは外す」
「ついでに見せ方も考えましょう」
澪が言う。
「今の視聴者は、危ない映像より“安全ってどう作るのか”を見たがってる。たぶん、そこを先に押さえた方が利権より強いです」
派手じゃない。でも地味だからこそ、先に場所を取られると面倒になる。
会議を切り上げて南側の閉鎖ホームへ降りると、古い案内板が一枚だけ妙に新しかった。触れると、裏の金具が最近締め直されている。
「まただな」
俺が外すと、その裏から細い保守路への矢印が現れた。マジックで雑に書かれた、即席の案内だ。
玲奈が低く息を吐く。
「始まる前から、もう始まってますね」
俺は矢印を見たまま頷いた。
壊れたものを直す仕事は多い。けれど今度は、わざと“ちょうど危ない形”に直している誰かを先に見つけなきゃならない。




