第2話 壊れた改札の向こうにあるダンジョン
階段を下りた先で、まず見つけたのは探索者じゃなかった。
ライト付きの小型カメラを構えた女が、非常通路の角にしゃがみ込んでいたのだ。ヘルメットの下から覗く目が、俺を見るなり険しくなる。
「職員の人?」
「そっちこそ誰ですか。ここ、無許可立ち入り禁止です」
「フリー記者。柴崎澪、二十九。桜葉の安全報告が怪しいって話を追ってます」
取材者。しかも夜の保守区画へ潜り込むタイプ。
「今すぐ戻ってください。ここから先は危険です」
「危険だから来たんです」
言い返す声とほぼ同時に、通路の奥で嫌な揺れが走った。天井の粉塵がぱらぱらと落ち、警報灯が赤く点滅する。
その向こうから、また叫びが上がった。
「非常扉が閉まってる! 誰か開けろ!」
俺と澪は顔を見合わせた。
奥へ走ると、脇の避難路を塞ぐ巨大な防火シャッターが半端な角度でねじれていた。向こう側には三人。全員スーツか作業着で、若くても二十代後半、三十代の探索者だ。討伐目的というより、退勤後の副業探索らしい。
「手動クランクが死んでる!」
俺は制御箱を開けた。中の歯車が折れ、補助ワイヤーまで噛んでいる。
その破断面を見た瞬間、背筋が冷えた。
古い破損だ。今日どころか、数日前から疲労が溜まっていた割れ方をしている。
「点検記録は?」
「これ」
澪がすぐに壁際の端末を撮る。画面には昼間の点検完了ログ。責任者欄は、倉田信吾。
「……やっぱり」
「知ってる名前なんですか」
「元上司です」
奥でまた天井が鳴った。探索者の一人が咳き込み、膝をつく。粉塵だけじゃない。換気が落ちている。
「記者さん」
「澪でいいです」
「澪さん、戻って管理室を」
「嫌です。今ここで何が起きてるか、証拠を残します」
迷いのない声だった。
普通の取材なら邪魔だと切り捨てた。だが今は、救助より先に握り潰される証拠の方が怖い。
「ならライトだけ貸してください」
澪が無言でカメラの補助灯を向ける。白い光に照らされた壊れたシャッターが、まるで骨の折れた腕みたいに見えた。
俺は折れた歯車へ手を伸ばす。
その瞬間、頭の奥へ妙な熱が落ちた。
直せる。
そんな、知らない感覚が走った。




