第19話 俺は現場に戻る
夜明け前、桜葉ターミナルの空調は完全に安定した。
灰塔設備への委託は即日停止。倉田信吾は安全報告書改ざんと保安部材横流しで逮捕、黒瀬剛士も違法侵入と保安妨害で連行。ニュースは騒ぎ、配信の数字はさらに跳ねたが、俺の関心はそこじゃなかった。
復旧会議の席で、玲奈が正式な書面を差し出す。
「須藤晴人さん。市ダンジョン安全室直轄の臨時保全部隊、その初代現場責任者をお願いしたいです」
「肩書きが長いですね」
「短くします?」
「現場が回るなら何でも」
澪が隣で笑った。
「じゃあ配信タイトルも短くしないと」
「まだやる気なんですか」
「ここまで来てやめたらもったいないでしょう。救助と保守の記録、ちゃんと残します」
玲奈も珍しく柔らかい顔をした。
「市としても助かります。現場の透明性は、数字より効くとわかったので」
俺は窓の外を見る。朝のホームに試運転列車が一本入ってきた。何事もなかったみたいに、車輪の音が滑っていく。
それを動かすために、昨夜どれだけの手が動いたかを知っている人間は少ない。
でも、ゼロじゃない。
「引き受けます」
その言葉は、思ったより軽く口から出た。
会議が終わった後、澪が缶コーヒーを二本買ってきた。
「お祝い」
「甘いのですか」
「徹夜明けなので」
受け取って一口飲む。ひどく甘い。でも悪くない。
「明日も来ます?」
俺が聞くと、澪は当然みたいに頷いた。
「朝の安全確認から」
なら、次の現場も一人じゃない。




