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第18話 最深部の心臓核

防壁を直すんじゃない。戻すべき回路そのものを思い出させる。


 そう考えた途端、修繕の感覚が一段深くなった。


 溶けた蝶番、焼き切れた制御線、ねじれたロック軸。バラバラの情報が一つの構造図へ収束する。


 俺は両手を防壁へ押し当てた。


 熱が奔り、鋼板が低く唸る。


 次の瞬間、ロックが跳ね上がった。


 最深部の心臓核は、想像以上に酷い有様だった。巨大な脈動結晶の周囲から、四枚あるはずのレギュレータープレートが抜かれ、黒瀬が一枚を無理やり剥がそうとしている。倉田は監視盤の前で汗だくになりながら、それでも笑っていた。


「来たか、須藤」


「もう終わりです」


「終わるのはお前だよ。保守員は黙って壊れた後を片づけてりゃいいんだ」


 その言葉に、妙に腹は立たなかった。


 ああ、この人は最初からずっと同じことしか言っていない。


「俺は、壊れた後だけを見る仕事じゃない」


 黒瀬がこちらへ剣を向ける。


「説教はいい。価値があるのは核だ」


 その瞬間、心臓核が大きく脈打った。床が持ち上がり、黒曜牙の一人が吹き飛ぶ。黒瀬は咄嗟に身を守ったが、支柱の一つが折れ、退路側が崩れ始めた。


 俺は戦わない。必要なのは討伐じゃなく、固定だ。


 袋からプレートを取り出し、一枚ずつ心臓核の受け金具へ叩き込む。三枚目までは入る。四枚目だけ、わずかに噛み合わない。


「須藤!」


 玲奈の声が背後から響く。応援班が追いついたらしい。


 だが待てない。俺は欠けていた最後のプレートへ、残りの力を全部流し込んだ。


 修繕。


 構造じゃなく、流れそのものを戻す。


 導線が光り、プレートが吸い込まれるように嵌まった。次の脈動は、暴発じゃなく、深い呼吸みたいに穏やかだった。


 止まっていた換気が戻る。


 倉田が膝をつき、黒瀬は崩れた床際で玲奈の部下に取り押さえられた。


「見えない仕事なんて、誰も金を払わないんだよ……」


 倉田の呟きに、俺は首を振る。


「払わせるために、見えるところまで持ってきたんです」


 熱と疲労で足が震える。だが、もう崩れない。


 それだけで十分だった。


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