第17話 壊された避難路を直せ
桜葉ターミナルは、夜のうちに半閉鎖になった。
だが地下で働く保守員、残業中の店舗スタッフ、終電後に入っていた社会人探索者がまだ残っている。全員、立派な大人だ。だからといって、自力で助かれるとは限らない。
「第三層北ルート封鎖! 南ルートへ!」
玲奈が地上で拡声器を握り、澪は配信画面へ簡易地図を流す。
俺は一足先に地下へ降りた。倉田たちは逃走の途中で、避難路を片端から潰していた。手すりを外し、非常灯を割り、点検扉を反転ロックしている。
「性格悪すぎるだろ」
吐き捨てながらも、手は止めない。
修繕。
割れた灯具が戻る。階段の縁がつながる。途中で魔力切れみたいな倦怠感が襲ってくるが、止まればその分だけ誰かが暗闇に取り残される。
第二層踊り場で、辻本が待っていた。
「須藤さん、上は俺が流します!」
「無理するな」
「四十二歳、まだ走れます」
その後ろでは、香織がおでん鍋じゃなく救急箱を抱えている。
「水と塩分、持ってきた! 倒れる前に飲みな!」
夜勤の街は、案外しぶとい。
第三層の崩れた通路では、黒曜牙に置き去りにされた三十代の探索者二人を拾った。片方は足を挫き、もう片方はパニックで動けない。
「助かるんですか」
「そのために来た」
短く答え、壊された避難扉へ手を置く。
だが最深部手前の防壁だけは、反応が違った。修繕の感覚が返ってこない。まるで裏側から別の形に固定されているみたいだ。
「……向こうで溶接されてる」
倉田たちは最後の門まで塞いだらしい。
ここを抜けなければ、心臓核へ届かない。
俺は深く息を吸い、プレート袋の重みを背で確かめた。
足りないなら、足りる形まで直すしかない。




