第14話 地下鉄ダンジョンの止まった風
換気が止まると、ダンジョンは静かになる。
静かすぎるのだ。
風が流れていれば誤魔化されるはずの、魔力の脈動だけが壁の向こうでどくどく鳴っていた。
玲奈を呼び、旧監視盤を無理やり起こす。死んでいたはずのセンサーが、深部だけ真っ赤に跳ねている。
「最深層の心臓核が暴れてる」
俺は旧図面の一点を指した。
「調整板……レギュレータープレートが抜かれてます」
「何枚必要?」
「四枚。最低でも」
玲奈が無言で歯を食いしばる。
レギュレータープレートは魔力流量を均すための保安部材だ。保守の人間以外には価値がない。だからこそ、盗まれても表に出にくい。
「四十八時間」
俺が言うと、澪が顔を上げた。
「何がですか」
「このままなら、四十八時間で第三層から上が全部歪みます。最悪、地上の駅施設まで沈む」
玲奈はすぐに端末を取り出した。
「緊急閉鎖をかけます」
「政治が止めますよ」
澪の言う通りだった。桜葉ターミナルは都内最大級のハブ駅だ。止めれば苦情どころじゃ済まない。
「だから、証拠と避難計画を同時に出すしかない」
俺は監視盤へ触れた。修繕で応急的に回路を戻し、空気の流れを一点だけ確かめる。
深部へ向かうほど、流れが不自然に吸われている。
「黒曜牙はまだ諦めてません」
澪が低く言った。
「スポンサー向けに、閉鎖前の最後の大物を抜くって煽りが出てます」
なら倉田も動く。レギュレータープレートを持っているのは、十中八九あいつらだ。
玲奈が頷いた。
「倉庫の捜索令状を取ります。今夜中に」
「俺たちは?」
「避難経路の確認を」
それが最優先だ。
勝つためじゃない。生きて出すために、先に道を直す。




