第12話 修繕士は罠の癖を読む
サービスシャフトは、使われなくなった設備の臭いで満ちていた。
古い送風機、錆びた配管、閉じたままの点検口。なのに足元の埃だけは不自然に薄い。最近も人が通っている証拠だ。
俺は壁の支持金具へ手を当てた。
修繕の感覚が広がる。
直した跡。その上から、また意図的に緩められた跡。
「……なるほど」
「分かるんですか」
「この通路、壊れたんじゃなくて、壊す前提で維持されてます」
澪が言葉を失う。
奥へ進むと、小部屋が一つあった。鍵は新しいが、蝶番は古い。中には未登録の魔石箱、交換前の安全標識、灰塔設備の予備スタンプ、そして黒曜牙の補給ケースまで積まれている。
「最悪の取り合わせですね」
「証拠としては満点です」
澪がカメラを寄せた瞬間、床の一部が沈んだ。
「離れろ!」
蒸気弁が一斉に開き、通路が白く埋まる。視界ゼロ。しかも退路側の梯子が途中で外れた。
澪が咳き込む。
「須藤さん!」
「こっちです」
俺は手探りで蒸気管の元栓を探し、割れた弁座へ修繕を流した。熱が逆流して腕が焼けるみたいに痛むが、蒸気の勢いは少しずつ細る。
次に外れた梯子だ。歪んだフックが元に戻り、三段だけだが掛け直せた。
「先に上へ」
「録れてます!」
「そうじゃなくて!」
だがその一言の直後、通路の上から足音がした。
複数。慌てた足取りじゃない。こちらを知っている歩き方だ。
白い蒸気の向こうから、男の声が落ちる。
「そこまでだ、須藤」
聞き間違えるはずもない。
倉田信吾の声だった。




