第10話 偽物の安全報告書
サービスシャフトの存在を思い出した瞬間、いくつものズレが一本に繋がった。
倉田はいつも、第三層の裏動線だけは他班を近づけなかった。理由は“古くて危険だから”だったが、本当に危険ならなおさら主任が見に行くべきだ。
俺たちは報告書と旧図面を並べ、同じ場所を示す数字を洗い出した。
「この写真、三か月前と先月で影の向きが同じです」
澪が言う。
「つまり使い回し」
俺は別のページを指した。
「こっちのアンカー番号、現場にはもうない。更新前の番号です」
玲奈が静かに息を吐いた。
「雑だな……」
「現場を舐めてるんですよ」
そう返しながら、俺は自分でも驚くほど冷静だった。怒りを通り過ぎると、かえって手順がよく見える。
夜、俺と澪はサービスシャフトの入口がある旧換気室へ向かった。正面の鍵は新しい。だが蝶番には古い傷が残っている。頻繁に開け閉めされていた痕だ。
「修繕で分かりますか」
「直すだけじゃなく、壊れ方も見えるみたいです」
俺は鍵の周りへ指を滑らせる。最近、別の鍵で無理にこじ開けた跡。しかも複数回。
「当たりです」
澪がカメラの赤ランプを隠しながら笑う。
「記者人生で一番地味な潜入なのに、一番手応えあります」
「俺の仕事、だいたい地味ですよ」
「だから追う価値があるんです」
言われ慣れない評価で、少しだけ喉が詰まる。
扉を開いた先からは、ひんやりした風と、油と金属の混じった匂いが流れてきた。
使われていないはずの通路に、人の出入りの匂いが残っている。
俺は工具箱を握り直した。
「取材じゃなくなりますよ、ここから」
「最初からそのつもりです」
澪はまっすぐ答えた。
なら、行くしかない。




