20 蛇足と蛇足と?
「大結界を越えられ、人族の領土内で発生した襲撃事件。力が宿る紅い花。ロルフの暴走。当代『独行の羽根』メナリスによる情報提供で判明した、鳥人族と魚人族の種族間で蔓延する病……」
ロンシェは自室の机にいつも置いてある、写真立てに入れられたとある一枚の写真を、考え込む時には眺めるという習慣に従う。
写真を眺めながら、ロンシェはひたすらに思索に耽り、無意識に写真を親指の腹で撫でていた。
「様々な他種族の事情、人族の事情を加味すれば、異変など腐るほど転がっているものだが。異変は異変でも、かくも異質な異変が同時に多発するようであれば、考えないわけにもいくまい」
ロンシェは写真立てに入れられた、一枚の写真を机に置き直す。鷹揚に指を組んで、瞑目した。
「──安直ではあるが、共通点があるのではないかと。詳しく言えば、異変を望むものが自ら、故意的に異変を起こすために糸を引いているのではないか、と。……それも、アラシの『ツインレイ』と見知らぬうちに接点がある時点で。可能性が高いのは、」
ロンシェの口は、それ以上の言葉を紡ぐことを拒む。ロンシェの思考すらも、それ以上の言葉を引き出すことはなく、忽ち打ち止められた。
疑念の言葉を拒絶する、その行為は。『白夜』の隊員、第一部隊副隊長としての立場を優先させた結果ではなく。ロンシェという一個人が、先入観や不信感に囚われないために一線を引く、賢明とも滑稽とも呼べる『合理的判断』を優先させた結果だった。
「オレが所持する情報量は些少だ。未踏の力が発見されている現状、決めつけは止そう。なんにせよ、事実確認のために、再度鳥人族の領土に侵入し、調査に出向く。今はまだ、それだけで良い」
ロンシェは目を開ける。眼差しは何処か遠く、複雑な感傷が込められていた。
「その際に、病に関連した不届き者たる雑輩の情報を、得られればいいが」
*****
「そういえば。ロルフさんに謝られたんですよ」
「え? 天変地異?」
「明日の天気は槍じゃねェか?」
「そう反応したくなるのはわかりますけど。ロルフさん相手だと槍の雨とか言う例えは、割と冗談になりませんよ」
早朝、『独行の羽根』を本拠地へ護送するための馬車の準備と。ロルフやリル、ルカ──指名で呼び出されたレイトなどが、本拠地へ向かうための馬車の準備を手伝っていたルカは。雑談という名目で、三人の間に爆弾を落とした。
思わず、馬の手入れをしていたはずのアンズとメイズの手は止まっている。手入れを中断され、馬はご立腹だ。
「反省していたのは、なんとなく伝わったので。許しはしませんが、『見る』だけの価値はあるのかな、と判断しました。……まあ、その反省が『マールム』差別をきっかけとしたものじゃなくて。戦闘面をきっかけとした反省なのが、やっぱり気に食わないなとは思いますが」
ロルフが反省に至ったのは、『ツインレイ』を暴走化させた挙句、初心者で保護対象であるルカに危害を加えたことをきっかけにしたものだ。差別的言動や行動についても謝罪はしたものの、謝罪に見合うだけの行動をこれからとってくれるかどうかは、ルカ自身が見極めるべきことだろう。
ルカなりに落とし所を見つけたという旨の言動に、アンズとメイズは顔を見合わせる。アンズは肩を竦めて、メイズは首を振った。
メイズはメイズなりに、ロルフに対する所感を述べる。
「ロルフさんはこれまで、『マールム・他種族』を絶対的悪として掲げる、脆さを併せ持った人間でありながら。戦闘による功績だけでゴリ押してこれまで生きてきたような、綱渡り人間でしたからね。──どんな形であろうとも、とりあえず一度はやらかしてくれてよかったなと、正直俺は思いました」
「自己効力感を辛うじて保たせてた、肝心の戦闘面で足を引っ張っちまって。ようやく思うところがあったんだか、なかったんだか。どちらにせよ、表面上だけの謝罪だったとしても、謝罪の言葉にはレオンが関わってそうだなァ」
「アンズさん、顔。目が死んでます」
「俺はレイトとレオンが苦手だっつってんだろォが。顔を想像しただけで、身体全体にのしかかる重力が増えたような気までしてくるわ」
後頭部を掻きながら、アンズは全身全霊で顔を顰めている。すると、メイズとルカが殆ど同タイミングでまばたきの回数を増やしたため、アンズは怪訝そうな目に変化した。
アンズが二人の反応の意味を測りかねていた所に。アンズの両肩目掛けて勢いよく手を落とし、物理的な衝撃と精神的な衝撃を与えた人間がいた。
背後からアンズの顔を覗きこもうとする、レイトだ。
「『重力』? 俺の話っすか? 実は俺のこと嫌いだって言いながら、陰ではめっちゃくちゃに褒め倒してたんすか? そうなんすか?」
「うわァ、触んじゃねェよ」
馬につける道具、つまり輓具の準備をしていたレイトが、レイトを連想させるアンズの発言を聞きつけて飛びついてきた。
アンズは二人の反応の意味を完全に理解して、肩に置かれたレイトの両手と、覗き込んでくるレイトの顔を払い除ける。
「相変わらず冷たいっすねぇ、ウチの副隊長は。第一部隊も第三部隊も、隊長と副隊長同士は凄く仲良いのになぁ」
「知らねェわ、んなもん」
レイトが一方的にアンズと戯れている間に、メイズがルカへと近づき、耳打ちする。メイズはレイトの表情を窺いながら、ルカからの答えを聞き出した。
「ルカ、レイトパイセンは知ってるんですか。ロルフさんのこと」
「あ、いや。まだ話してないです」
「? ん、何か顔についてるっすか?」
アンズに顔を手で押し潰されながら距離を取られているレイトが、二人からの視線に気づいて介入する。
ルカはメイズと適切な距離を取ったあと、平然と事実を伝えた。
「ロルフさんに謝られたんです」
「え、明日の天気は槍なんすか!? ヤバいな、どう対応しよう」
「だからその例え、割と冗談になりませんって」
アンズの言葉をおうむ返ししたかのようなレイトの返答に、ルカは思わず相好を崩した。
ルカの笑顔を目撃したアンズは、今にも視線だけで人を殺せそうな冷徹さを帯びさせた目で、ルカを睨め付けている。ルカとアンズの様子を見て、連鎖的にメイズも顔を綻ばせた。
レイトは一度両手を叩き、小気味良い音を立てる。
「冗談はさておき。やっぱ、保護対象のルカくんにも、隊員の皆にも危害を加えちゃったこと、責任感じたんすかね。『マールム』にトラウマがあったとはいえ、あの子、責任感人一倍強い質だしなぁ。謝罪はきちんとこなしますよねぇ」
「責任感の強さに関しては、『白夜』の隊員達が全体的に強すぎるので。あんまりロルフさんに限れる話でもありませんよ、レイトパイセン」
「まー、それはそうっすね。皆真面目で、善い子だからなぁ」
レイトは小さな唸り声を上げつつ、天を仰いだ。
空の眩しさ故か、抱いた感情故か。レイトは目を細めて、声を僅かに落とす。
「……暴走の原因も、まだ満足に解明できていない今。自分の所為かどうかも、明確にわかってないのに。謝罪の言葉を発するとはなぁ。本当に真面目っすよねぇ」
「あー……まあ、どう考えても、わざとって感じじゃなさそうですもんね。人柄を加味しなくとも、客観的に見て違和感がありますし」
レイトは視線を空から地に戻して、アンズに移す。
レイトの心情を汲み取ったアンズは、嫌悪よりも真剣さを表情に浮かべた。アンズの表情の変化に、レイトは眉を下げて「相変わらずだなぁ」とでも口に出しそうな苦笑を滲ませる。
「本拠地で下される罰則、どうなるんすかねぇ? 果たして、何処をどう判断されるか」
「『マールム』を恨んでいた事実があるのは確かだからなァ。暴走の原因をそれに結びつけちまうようであれば、謹慎処分程度じゃ済まねェ話にはなっちまうが」
「いや、それは流石に無いと考えても大丈夫じゃないですか。紅い花の目撃情報が複数人にある以上。わざとではないという本人の証言も、軽視はできないでしょうし」
メイズの言葉によって、一時的にレイトは安堵を得る。一息を吐くが、すぐさま首を振った。
ロルフに対する情状酌量を求める、レイトの心情がひしひしと伝わってくる仕草だ。
しかし、ルカを含む『マールム』達のことを考えると、安堵という感情を素直に受け入れたくもない、複雑な心境なのだろう。仕草とは対照的に、表情は常に堅苦しい印象だ。
「それでも、普段の行いがあるんでね。謹慎よりも重い処分を下されることはなくとも、謹慎は最低限の期間下されますよね」
「それはそうでしょうね。ロンシェさんなら、『白夜』内の秩序維持のために、最低限罰則は下すと思います。それに関してはロルフさんの自業自得ということで、深く考えなくていいんじゃないですか」
メイズの言葉はご尤もな話だろう。
事実、感情で揺れ動いてはいるものの、理性で理解はしているレイトは肩を竦めた。
*****
「ルネアちゃん、ジークさん。ワタクシ、決めましたわ」
『白夜』の本拠地の地下に存在する、極秘のとある一室。透明な蝶の羽を持つ、一人の女──ティーナは、椅子から立ち上がった。
「どうしたよ、嬢ちゃん? 最近妙にソワソワしてて、落ち着きねぇなあとは、オレさんちょこっと思ってたが」
鱗が腕に所々生えている、長躯の男──ジークはティーナの様子を見兼ねて、話を切り出す役割を進んで担った。
ティーナはジークの厚意に甘んじて乗っかり、話を進める。
「ワタクシ、領土外に出ますわ」
「……本気? 貴台の、独断。非常に、危険、伴う。阻止、実行。翻意、推奨。検証時間を、要する」
瞳に生気が宿らない、短躯の少女──ルネアは、辿々しい言語ながらも強い意思を持ってティーナの発言に反応する。それは、ルネアだけではなくジークも同様だった。
ジークは打って変わって雰囲気から気軽さが抜け落ち、剣呑さを身に纏わせる。声色は変わらなかったが、目の鋭さは尋常ではなかった。
「嬢ちゃん、悪いけどよ。それは止めるしかねぇぜ。──自分の立場、わかってねぇわけじゃねぇだろうよ?」
ティーナ、ジーク、ルネア。リズの直属部下であり、『大結界』の核として現存するたった三名の最重要人物。『白夜』、つまり人族にとって、命を賭してでも護衛しなくてはならないトップシークレットそのものである。
ティーナは普段温厚なジークとの睨み合いに気圧され、乾いた喉を潤すために、大袈裟な動作で唾を飲み込む。ティーナの胸中で恐怖は明らかに存在を誇示していたが、それでも引き下がりはしなかった。
ティーナにとって、今回ばかりは決して引き下がれない理由があるのだ。
「『妖精族』は、大妖精様から羽を通じて、言葉を受け取れる。以前に、そう話したことがありましたわね? 御二方」
「話? 記憶は、皆無。忘却、既成」
「わ、忘れちゃったんですの!? 『妖精族』にとっての偉大なる皆の聖母であり、崇拝されるべくしてされる慈母ですわ!」
「女王蜂ならぬ、女王妖精みたいなもんがいるって話だぜ、お姫様」
「は、蜂に例えられるのは心外というか、ちょっと悲しいという話も、大分昔にしましたのよ……」
話が脱線したために、腑抜けた空気が漂ってしまったこの場を吹き飛ばすようにして、「こほん」とティーナは咳払いをする。
ルネアは咳払いに合わせて背筋を伸ばし、ジークは背もたれに寄っかかってから後頭部で手を組んだ。
「大妖精様からお言葉を賜りましたの。鳥人族と魚人族内で発生している異常事態を、きちんと調査すべきだ、と」
「鳥人族と魚人族は常に何かしらやらかしてるし、常に異常だぜ?」
「違うんですのよ、普段の様子とは。『妖精族』に助力を求めに来た、鳥人族と魚人族の言い分によりますと。病が流行しておりますの。それも、双方の種族間で、全く同じ病ですわ」
「はぁーん。争いまくってたら、同じ病が蔓延しちまってそれどころじゃねぇと。笑えねぇぜ。でも、特段おかしいことにも感じねぇがな」
ティーナはジークの言葉に首を振り、人差し指と中指の二つの指を立てた。一つ目という意味合いで、人差し指を強調する。
「看過できない違和感が二つ、ありますのよ。一つ目、『妖精族』がその場にいた、助力を求める鳥人族の病を治せませんでしたの。それはつまり、」
「要略。治療、不可。意味するもの、治療の、判定外」
「その通り。身体にとっての『治すべきもの』として判定されませんでしたのよ。『妖精族』の最先端な魔法技術でダメなら、そうとしか考えられませんわ。これが違和感一つ目」
ティーナのこの発言は、身内である『妖精族』の魔法技術を過信している発言に聞こえる。が、実際、『妖精族』にできない魔法は基本的にありえない魔法の概念として認識することに、間違いはない。
『妖精族』は体内で生成される魔力量が生まれつき多いにも関わらず、身体が対応しきれずに起こるはずの魔力蓄積が起こりにくい。常に体内を巡る魔力の質と量が桁外れで有名だ。故に、餌として非常に栄養価が高く、他種族に狙われやすい。
その上、身体能力は特筆すべき点が特に存在せず、羽があるといっても、鳥人族ほど高く長く飛べるわけではない。低空飛行で早く短く動くための、移動に使える程度のものでしかないのだ。
下位種族の人族が魔法を使いながら跳躍し、移動していれば、同じ速度を出せる程度の代物なのである。
しかし、それでも『妖精族』は中位種族としての地位を確立させている。それは狙われやすいという種族柄を持っていてしても、それに対抗し得るだけの強みが存在するということだ。
それが、『妖精族』ならではの高度な魔法技術開発と、体質の関係上高度な魔法技術の運用が容易であることだった。
一つ目の違和感を説明し終えたティーナは、二つ目という意味合いで中指を強調する。
「二つ目。流行病と言う割には、広がり方がおかしいんですのよ」
「病、流行、現状、進行。危機、陥る。何ゆえ、おかしい?」
「空気感染でもないし、経口感染でもなさそうですのよ。隔離してもダメ、食料や水を制限してわざわざ他種族から盗っ──輸入してきたらしいものを選んでも、ダメでしたから。ただただ一方的に感染させられていく、そんな感覚を覚える感染経路で……」
「ふーむ」
「ですから、ワタクシ達『妖精族』にも、いつか猛威を振るうかもしれない病なんですのよ。ワタクシ達に猛威を振るわなかったとしても、最も魔法技術が発展しているのは『妖精族』ですから。ワタクシ達が今ここで立ち上がらねば、終わりなき恐怖が待っておりますわ」
「それで?」
ジークの相槌に、ティーナは身体を硬直させる。「理解できない」とでも言いたげなジークの眼差しを見ていると、なおさらティーナは胸の裡が嫌に冷えていくことを実感した。
「……ですから。今立ち上がらないと、被害の拡大は免れな、」
「話が見えてこんぜ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが行ったところで、何ができるってんだ?」
「勿論、大妖精様の誇り高き一族として責任を果たし、最大限技術開発に貢献いたしますわ」
「それは『妖精族』か『人族』が危機に陥る寸前、まさにその瞬間からでいいだろ。鳥人族と魚人族が滅ぶ分には、関わる必要性はねぇと思うが」
ジークは首を傾げ、ティーナの善意に純粋無垢な疑問をぶつける。
ルネアは上位種族である龍人族と、下位種族である人族の混血であるジークの独特な価値観と、誉れ高き大妖精一族である妖精族のティーナの価値観の相違を、よく知っている。が、口出しはしないと決めていた。
人形族であるルネアは、ジークの種族繁栄のための狡猾さと、他人を顧みない冷徹さに近しい価値観を持っている。
しかし、個人的には高潔なティーナのことを好ましく思っており、二人がかりで一辺倒に否定する行為はできる限りしたくない。
卑怯であると自覚していながらも、ルネアはジークに胸中でのみ頷き、口を閉ざしている。
「本気で言っておりますの? 危機に陥った瞬間からと、今からじゃ犠牲の大きさが違いすぎますわよ。他種族でも滅ばせずに済むのなら、滅ばせない方がいい。関わるのは早い段階が良いに決まっておりますわ」
「そうか? 他種族が滅ぼうが構わんだろ。その上、万が一技術開発が間に合わんくて、身内の犠牲が出ちまったとしても。何万人と死のうが、また繁殖すれば種族自体は残せるんだぜ。どちらにせよ優先順位は低い。それと比べて、嬢ちゃんが動いた場合にゃあ、犠牲は犠牲でも取り返しがつかん類の物かもしれん」
「万が一にもワタクシが死ねば、人族に大きな影響が出る。そう言いたいのでしょう。ですが、『大結界』の核になる前にも、リズさんやあなた達には言ったはずですわ。正義と盲信できるものにはとことん盲信し、動いてみせると」
ジークとティーナがお互いに口を噤んで、動作を打ち止める。
明らかに、その沈黙は納得に起因するものではなかった。寧ろ、お互いに理解し合えない価値観のぶつかり合いに、不毛さを感じた結果の沈黙だった。
「価値観、均衡。平行線、受容、不可。議論、時間の、無駄」
「だろうなぁ。オレさんもそう思う」
「でも。ワタクシ、諦めませんわよ。馬車の手配を一人でもこなしてみせますもの。バレてしまっても、行った後なら関係ありませんし」
「理解、想定、既済」
「……あー。じゃあ、こうしようぜ。嬢ちゃん、お姫様」
ジークは背もたれから身体を起こす。欠伸を片手間に、鷹揚な態度で何気なく言った。
それは、ティーナどころかルネアも想定していなかった、『白夜』の隊員が耳にしていたら卒倒していたであろう提案だった。
「オレさんが、代わりに行ってきてやんぜ」
「え?」
「……理解、不能。意思を、問う」
「簡単な話さ。どうせ、嬢ちゃんを説得しようとしても無駄なんだからよ。嬢ちゃんをみすみす行かせちまったり、お姫様に代行させるよか。ちっとばかし強いおじさんが頑張った方が、絵面に華はなくとも合理的だろ?」
ティーナは驚愕としか言いようがない提案の衝撃に、なんとか意識を耐えさせて。おじさんと言い表すには矍鑠の度が過ぎる眼前の相手を、頭から胴体まで遠慮なく凝視した。
「なんというか、信用していいんですの? 考えと行動が一致しない分、真剣にやらないのではないか、という懸念もそうなんですけれど。ワタクシの中では、ジークさんが頼りがいのある大人って感じはしないと言いますか」
「同意」
「ひでぇなオイ!? んなこと言い出したら、リズちゃんから譲ってもらった小説に影響受けまくって、似非お嬢様言葉使い始めた嬢ちゃんの方が頼りない感すげぇだろうよ!」
「うるさーい! ですの! マンタ? マンガ? を、一日中読み耽っているような人にだけは言われたくありませんわー!!」
「同類、醜い、争い」
「ぐぬぬ」と小さな唸り声を上げるティーナと、わかりやすく拗ねて口を尖らせるジークの論争が終わった後。ジークが肩をすくめる。
ジークは椅子から立ち上がって、部屋から出るための鍵である輝く石を机上から取り上げてから、出口へと向かった。
ティーナとルネアはジークのその行動を見て、顔を見合わせる。同タイミングで首を傾げた。
「えっと、何処へ行きますの?」
「なんだ、もう物忘れが酷い年齢になっちまったのか? さっき話したろ。鳥人族と魚人族の調査に行く。──まずは魚人族からだな。鳥人族の方は隊員がどうせ行くだろうし、後回ししとくぜ」
ティーナが呆然とする。
言葉の意味を理解できても話の流れを理解できず、頭が真っ白になった。なんとか言葉を分けて意味を噛み砕き、会話を再開する。
「……今、真昼間ですけど。『白夜』の隊員服を着て出るにしても、今馬車を使って外に出ようとしたら、隊員の皆様に止められますわ。計画実行は夜に、」
「いやいや。隊員服なんて借りるの面倒だし、オレさんが借りたなんて事実ができたら、いずれは足が着いちまう。馬車も使わんよ。このまま出る」
ルネアはジークの発言に、何かを察したかのような諦念と呆れの滲む表情をし始めた。目を細めてジト目をジークに向け始めたルネアの反応を見て、ティーナはますます理解が及ばなくなる。
「幸い、オレさんは隊員服を着なくとも。そこまで有名人じゃないのと、他種族としての特徴が薄い分、領土内を出歩いても気づかれんし。問題ねぇぜ」
「如何にして、領土外、移動、遂行、予定? 手段、問う」
「だっはっは、そんなのは決まってるだろ」
ジークは自らの右足を右手で叩いて、強調した。
「足一つだ。オレさん、こう見えて結構動けるタイプだぜ。龍人族の血、見くびっちゃぁいかんよ」




