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ツインレイ  作者: 恥晒せ
13/25

13 暗礁の中に赤と白。縁起が良いね!


「なーんか。今回の先遣隊のメンバー、おかしくないですか?」


「随分と急ね。どうしたの?」


リルが治療室でベッドの支度をしていた頃に、レイトは机近くの椅子に座って髪を弄っていた。

 その仕草は幼さを全面的に押し出しており、拗ねているのだということを伝えるには十分すぎるものだ。


「先遣隊に、アンズさんがいるらしいんすよ」


メイズとリルは『固有魔法』の汎用性で連れ出されることが多い。が、アンズに関しては完全に戦闘能力特化である以上、派遣回数自体は多くない。依頼の危険度に応じて、派遣するか否かが定まるのだから。

 派遣回数が少ない代わりに、前線に出る人間として命の危機に晒される機会が、前者二名より圧倒的に多いことは言うまでもない話だが。


「知ってるわよ。珍しいとは思ったわ。先遣隊にアンズが行くのは、いつぶりかしらね」


 先遣隊の目的が『戦闘環境を整えること』よりも、『独行の羽根の拠点について情報収集をすること』である以上。アンズが派遣されるのは意外な事実だ。


「しかも、ロルフくんまで居るっす」


「過剰戦力よね」


「そうなんですよ。俺は呼ばれてないのに」


「後半については、何もコメントしないでおくけれど。異常に戦闘要員が多いのよね」


「後々の本格的な調査のことも鑑みず、ここまで先遣隊に戦力を注ぎ込むのはなぁって、思いません? そこまでやるなら、俺も連れてってくださいよ。負担減らせますし、体力温存ができれば後の調査にも協力できます」


「そこまで来たら、もはや先遣隊ではないわ。……好戦的な鳥人族の領土内に入るんだもの、警戒心はいくらあっても困ることはないし。レイトくんに関しては、単純に温存されただけじゃないかしら」


「それなら。鳥人族の羽を封じるって意味で俺を呼んでおいて、アンズさんとロルフくんを温存した方がよくないっすか? 『独行の羽根』は片翼しかないんで、俺の『固有魔法』は本格的な調査に乗り出す時より。先遣隊の時に呼ばれた方が、活用できると思うっすよ」


リルはベッドの支度をする手を止めて、レイトを一瞥する。

 一理ある意見だと思ったからだ。鳥人族と会話不可、交戦することになった場合。『固有魔法』で、飛行を含んだ身体能力を抑え込めるレイトの力は、先遣隊の時間稼ぎ要員、戦闘要員として重宝されるべきだろう。

 少なくとも、接触型のアンズよりかは指定型のレイトの方が、鳥人族領土内での先遣隊としては活動しやすそうに思えるが。


「……アンズさんとロルフくんじゃないとダメな理由がある、とか?」


「もしくは俺が避けられてるか、ですよね」


「拗ねないで頂戴よ。レイトくん」


「だって……なんか納得いかないんすよ〜!」


「うーん」


レイトの嘆きをリルは頭の片隅に追いやって、ベッドの支度をする手を再び動かし始めた。


*****


「君」


大結界近くの仮拠点で、馬車が門内に何台も停まっている姿形を見据えていたルカを、ユーティットが手招きする。

 ルカがユーティットの元へ接近すると、ユーティットは一つの馬車に指を指した。


「アンズと同じ馬車に乗るようにしておいてくれるかな」


「結構、重要ポジションですね」


「君は保護対象な上、初心者だからね。ロンシェから、可能な限りアンズの近くへと位置取らせるよう指示を受けているよ」


ルカは一際目立つアンズとメイズの姿を確認し、馬車へと乗り込む。

 ルカが乗り込んだことで、あからさまに嫌そうな顔をするアンズを横目に、ルカはユーティットへ手を振った。ユーティットも手を振り返す。


 すると、ユーティットが手を振る光景と、リルが微笑みながら手を振っていた光景がルカの頭の中で重なる。ルカは目を伏せた。

 リルは先遣隊としてではなく、本格的な調査をする際の本隊枠にいる。先遣隊・本隊のどちらもを負担させるわけにはいかないため、必然的にリルの『固有魔法』は後者を優先することになったのだ。

 リルは現在、仮拠点内で待機中だ。


「リルさんがいないって、結構心細いな」


「ガキが。降りろ」


「機嫌悪いですねぇ、アンズさん。そんなにイヤです? 先遣隊」


「俺は元々先遣隊向きじゃねェ。だってのに、こんな朝っぱらから叩き起こされて働かされるんだ。このガキのせいで」


「どう考えても、ルカのせいだけじゃないと思いますけどね。俺は」


メイズが軽薄に笑い飛ばすと、アンズはメイズの脛を蹴った。

 メイズが無言で悶えている間にも、隊員達の準備は整っていく。アンズは、隊員達が下がって行く姿を確認した後。呻きながら寝っ転がるメイズの不規則な動作を鼻で笑って、頭をひっぱたく。


「出発の準備が整った。起きろ、ネンネの時間はとっくに過ぎてる」


「……あんたが蹴ったんでしょうが。痛いなぁ」


メイズはアンズに見せつけるかのように脛を大袈裟な仕草でさすりながら、門が開かれる瞬間をその視界に収める。

 本格的な出発を前に、メイズは思考に本腰を入れた。


「鳥人族領土前、今回どんだけ監視いそうですかね。前に確認した時は、目視だけで三人くらいはいたんですが」


メイズの言う『前』とは、ルカが居た村に入り込む時のことだろう。鳥人族と魚人族の領土の狭間に存在していた村であったことから、決して不自然な流れではない。

 ルカは血に塗れた記憶を手繰り寄せてしまい、思わず顔を顰める。


「知らねェな。どれだけ監視がいようと、結局は入ることになるだろォが。考えてもムダだわ」


「それはそうなんですがね。──『独行の羽根』の拠点は、鳥人族の領土内に存在するとは言っても。中立の便利屋っていう仕事の関係上、領土の境界側に拠点が作られるんですから。領土前の監視人数によっては、戦闘を避けるか不意打ちするかは、考えなくちゃですよ」


「めんどくせェ」


「これで実は、拠点が領土の中心付近に移されてました。とかだったら、めちゃくちゃ笑えますよね。『独行の羽根』の仕事柄、流石にないとは思いますが」


「先遣隊、めんどくせェ……」


「こちら側としても、アンズさんには斥候も先遣隊もできる限り任せたくないと思っていますよ。間違えて殺しに行っちゃいそうですし」


「否定はしねェ」


アンズは眠気を誘う欠伸を片手間に、馬車が門から遠ざかっていくにつれて、大結界の先にある光景へ警戒の視線を回し始めた。

 メイズもやれやれと首を振りつつ、アンズの警戒心に思う存分付き合った。


*****


「鳥人族領土前、着きましたけど」


「どォ考えても可笑しいな」


メイズとアンズが、同じ馬車内で顔を見合わせる。

 その後、メイズが空を指差したため、同じ馬車内にいたルカの視線も空へと誘導された。メイズが指差した先には何もなく、ルカは蒼穹を堪能するだけで終わる。

 

「鳥人族が見当たりませんね。ここまで来れば、大体二人や三人くらい、侵入者がいないか空で見張ってるのになぁ」


「鳥人族内で、よっぽどのトラブルでもあったか?」


「これじゃあ、交渉もままなりませんね。元々好戦的な鳥人族を相手に、交渉はそこまで期待していませんでしたが」


 交渉に期待を寄せていなかったとはいえど、相手が居ない可能性自体は想定すらしていなかったのだろう。あちらこちらで馬車内から報告を求める声が響き渡る。

 メイズは横目で、無言のアンズに指示を仰ぐ。


「どうしますか」


「好都合と取るべきか、不都合と取るべきか。……まァ、ここで立ち往生してても仕方がねェのは変わらねェか。変に鳥人族以外の他種族から目をつけられても困る。侵入するしかねェな」


「ですよね」


 幸い、と言うべき事象であるかはわからないが。『独行の羽根』の拠点は変わっていようが変わっていまいが、基本的に領土の境界側に向かうだけで済む。鳥人族内でトラブルが起きていた場合、境界側へ即座に交戦のためのリソースを割くのは困難だろう。

 そもそも、侵入する箇所をルカが視認する限り、気付くかさえも怪しい位置だ。黒い葉で覆われた森には日光も滅多に入り込まず、朝であるにも関わらず薄暗い影が帯びている。


「致し方なし、いいでしょう。入るしかなさそうですし、前向きに考えていきましょうか」


馬車が一斉に動き出す。薄暗い影の中へと馬車が割り込んでいっても、鳥人族からの音沙汰はなかった。

 土の上を静かに走り、小刻みに揺れを身体へ伝達していく。その感覚はお世辞にも居心地の良いものではなく、寧ろ警戒心を煽られているかのような錯覚に陥るものだ。


「不気味なくらいに、静かだな……」


「ガキ、不用意に喋るな」


アンズに小声で忠告され、ルカは手で口を塞ぐ。

 ルカの脳裏によぎったのは、現状『独行の羽根』と共犯関係にあるとされている、アラシの『ツインレイ』についての情報だ。

 『透明化』を持つ敵がいると知っていながら、無闇に喋るのは迂闊だ。会話中の油断を突いて、不意打ちをかけてきてもおかしくはない。その上、『独行の羽根』が共犯者から得た情報を通して、逃亡を企むことだってあり得なくはないのだ。

 いや、むしろ、後者の可能性の方が危ぶまれる事態と言えるか。


「……『千里眼』、使わないんですか?」


ルカがメイズの肩を叩き、耳元で話した。メイズは首を振る。

 メイズの『固有魔法』は、『透明化』に対する有効打でもあるが、探索において重要視されるものでもある。最低限拠点へ接近してから使用する、消耗を抑えた動きを自らに課しているのだろう。


「────」


馬車に揺られること、数分。

 アンズが馬車内から身を乗り出して、周囲を観察する。メイズに振り返って、アンズは目元をなぞる仕草をした。

 メイズは頷き、固有魔法『千里眼』を数秒発動させる。


 ──大丈夫そうです。


メイズは現時点では見張っているものが居ないことを、音を介さず口を動かすことで伝える。

 アンズは即座に判断し、馬車から飛び降りた。


「ここまで来たら、馬車から下りとけ。……そろそろ目的地付近に辿り着く」


「馬車で行かないんですね」


「馬車は通れねェんでな」


「? 道の広さは十分では?」


「そういう意味ではないですね。拠点目前くらいになってくれば、罠の問題があるので通るわけにはいかない。って、意味なんですよ」


「なるほど」


口下手なアンズの言葉に、メイズの補足が入る。ルカは納得の首肯を返した。


 ルカとメイズも、アンズの後に続いて馬車を下り始める。ルカが背後を振り返ると、率先して周囲を確認するロルフの姿も見えた。

 ルカは前へ向き直すと、アンズが足音を殺しながら距離を段々と離していくため、慌てて足音に気遣いながらも着いていく。


「……手慣れてるな」


ルカはアンズの姿を見て、率直な意見を述べる。

 足音を殺しながら歩く姿が、メイズよりもよっぽど板についていると感じたのだ。先遣隊は性に合わないと述懐していたのは、嘘だったのだろうか。

 いや、考えるだけ無駄なことだ。考える必要のないことよりも、今に意識を向けるべきだ。


「止まれ」


先頭のアンズが立ち止まり、小声で指示を出した。一斉に足を止める。


「随分と物騒なことだ」


アンズは空中に手を振り翳す。

 ルカが後方で目を凝らすと、アンズが手を振り翳した先には、薄暗い中で光を反射する糸状のものが微かに見えた。

 アンズの固有魔法『魔法無効化』によって、張り巡らされた糸はほどけて揺れて崩れ落ちて、跡形もなくなっていく。


「罠の量が半端じゃねェ。当代『独行の羽根』はどうやら、蜘蛛の巣を張るのがご趣味らしい」


「拠点目前ならまだしも。道中でこの量の罠を張るのは、すごい仕事量ですね。歴代の『独行の羽根』の記録を見ても、ここまで警戒心が高いのは当代くらいじゃないかな?」


「まァ、その警戒心の高さのおかげで、こっちは助かりもするな。拠点は移動していない可能性が俄然高くなった」


アンズは再び前へと進み出す。

 糸の『固有魔法』を確認した以上、拠点がこの先に存在することは確かな事実の一つとして、数えても良いような気がする。先遣隊の目的はあくまで『拠点が変わっていないかの情報収集』。『独行の羽根』と会いに行くわけではないのだ。

 ルカとしては、先遣隊がこれ以上前に進む必要性は薄いと感じたが。


「それは流石に、甘すぎるか……」


『独行の羽根』が拠点を変えていないかを確認する、という趣旨なのだ。『独行の羽根』がいるかどうか確信もないまま、引き返すわけにはいかないか。

 実際、罠を張り巡らすだけ張り巡らせておいて、そのまま拠点を放棄しているケースも否定はできない。『独行の羽根』側からすれば、人族の領土内に侵入したこと、『白夜』の隊員に特徴を掴まれたことは承知の上のはずだ。

 ならば、拠点は放棄されていた方が自然ですらある。それを『白夜』側も理解していて、その上で調査に来ていると考えるべきだ。


「お互いに一切手を抜かない追いかけっこは、殊の外難しいな。頭が破裂しそう」


皆がそれぞれ蓄積させていた経験値による格差を、ルカは身に沁みて感じ取った。


 黒い葉の森が段々と開けてきて、影よりも光の比率の方が大きくなっていく。光の下に晒されるたびに、ルカは目を細めた。

 アンズが先頭で時々手を振り翳している様子を見届けながらも、後に続いて道を歩んでいくと──、


「────」


「おい、着いたぞ。ボケッとすんじゃねェ」


「はっ……? はい、すみません」


そこには、和風屋敷があった。

 木越しに一目見て、ルカの頭によぎったのは『からくり屋敷』だった。小綺麗に手入れされた石畳の道、一種の美すらも感じる屋根の瓦の配列。

 マールムであるルカからすれば、知識の中でしか知らなかった建築様式の建物。実際に眼にすると、息を呑んでしまう圧倒的な雰囲気があったのは確かだ。


「皆が拠点の移動やら拠点の確認やら云々言うものだから、もっと、なんかこう。移動が手軽な、洞穴的なものをイメージしてたんですが」


イメージしていたものとの差が激しく、ルカは思わず言葉を溢す。

 イメージとの相違点が多すぎるあまり、あらかじめしておいた心の準備が無駄になったのだ。愚痴にも近しい言葉使いである。


「結構由緒正しい家柄ですからね、『独行の羽根』。他種族からも便利屋として重宝されながら、鳥人族とも中立を保ててる時点で、お察しですよ」


「駄弁ってねェで静かにしろ。相手がいるか確認するのが本命だろォが」


アンズがメイズに、再度目元をなぞる仕草をした。メイズはすぐさま『千里眼』を発動させる。

 一、ニ、三、四──メイズにしては珍しく、『千里眼』の使用時間を延長させてまで索敵を続けていた。


「……? ん?」


「どうした」


「屋敷内に誰かが居るのは確かなんですが。視界が無い? いや、違う。暗闇ですかね? 動かない視界なので、余計わかりづらいですが」


「暗闇?」


「──先客か。それも、俺達とは分類が違ェ。命を狙ってるタイプだな」


アンズは確信を滲ませた口調で呟く。

 一度、メイズの肩を軽く叩いて『千里眼』から引き戻してから、アンズは唸った。


「『独行の羽根』を求めて動き出したのは、こっちだけの話じゃねェのか。これはちと、面倒な事態だなァ」


「暗殺を目論む輩、か。タイミングが悪いですね」


「あの」


ルカは、メイズとアンズの間で断定的に進められていく会話に割り込む。二人はルカの疑念に耳を傾けた。


「単純に、『独行の羽根』がこちらの動向に気が付いて、息を潜めている可能性は?」


「中立者が碌に耳も貸さず、こっちを迎撃してくる理由が意味不明だろ。領土内襲撃とはまた違う、新しい依頼が入ったんなら話は別だが」


「『独行の羽根』からの情報漏洩を心配して、先んじて『白夜』の隊員殺害を依頼されていた、とかは?」


「『独行の羽根』を相手に、そこまで心配するのはやりすぎだわ。依頼人に関する情報系統じゃァ、アイツらの口は梃子でも動かねェってのに」


実際、『独行の羽根』を中立者として捉えておきながら、『白夜』の隊員が敵対行為を異口同音に挙げている以上。依頼人に関する情報は喋らない、だから敵対するしかない、という共通認識がある証左だ。

 由緒正しき便利屋なのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。口の堅さはまさに種族問わず、『皆の』お墨付きなのだろう。


「『固有魔法』の洗脳系統だか、『人形族』の言霊だかを警戒するにしても。そういうのは決まって単調な命令しかこなせねェから、思考を経由する『情報を吐かせる』は無理。対価払ってまで、殺害依頼をする意味は皆無だ」


「そもそも。こちらを迎撃するつもりなら、屋敷内で待つ必要性がないと思いますし。仮に依頼を受けていたとしても、わかりやしないので。その可能性に関しては、敢えて破棄するのが懸命じゃないですかね」


「無闇に話へ介入してすみません。僕の疑問に関しては承知しました、が……」


「──結局、あの刺客野郎にどう対応すべきか。迷いどころだなァ」


アンズはため息を吐く。


「『独行の羽根』に今死なれちゃ困る。だから暗殺には加担できねェ。が、敵対行動を取る予定なのはこっちも同じだ。共闘とまではいかなくとも、なんとか停戦……まァ、無理か」


「折衝するにしても、相手の状況が何もわかりませんからね。果たして話が通じるかどうか、通じたとしてもメリットを提示できるか」


「落第点も甚だしいな。論外じゃねェか」


改めて状況を冷静に振り返るメイズの言葉に、アンズが首を振る。

 アンズは躊躇いの空白を開けたが、それもほんの僅かな間。すぐさま決心し、前へと踏み入る。


「刺客側がどれだけ『独行の羽根』の情報を握ってるか。それを確かめに行く」


「……『独行の羽根』が拠点を移したことを知らずに待ち伏せている可能性を、潰しに行くんですね?」


アンズが頷く。

 どちらにせよ、暗殺は阻止しなければならないのだ。相手の元へは向かわなくてはならない。


 恩を売るために、敢えて此処で待ち伏せてから助けに入る。というのも、アンズは視野にいれていたものの、拠点に『白夜』が迫っていたというマイナス要素を取っ払うことはできない以上。刺客側と会話できる時間を取りに行った方がマシだと判断した。

 それにもし、ついここ最近に人族の領土内で『独行の羽根』が一暴れしたことを、刺客側が把握せずに来ているようであれば。結局のところ、現状『独行の羽根』が拠点を移したのか移していないのか曖昧なままなのだ。


「行くぞ」


「了解ですよ。突撃!」


木の後ろから飛び出して、メイズとアンズが駆け出すと同時に、後方の隊員も二人に着いていく。


情報収集が先遣隊の役目。行かない手はない。それがアンズの決心だ。

 もしここで物事が円滑に進まなければ、一日中張り込み。それでも無理であれば先遣隊は撤退。本格的な調査の際に領土の境界側を見て回るか、交戦覚悟で鳥人族との対話を試みることになっている。


「後半組の負担は、できる限り軽い方が良い」


アンズは独り言を呟きながら、勢いよく玄関ドアを蹴り飛ばした。


「こっちです」


メイズは千里眼で確認した『動かない暗闇の視界』があった方向に、アンズ達を導いていく。

 アンズはメイズの誘導に従い、奥まった位置にあった和室の建具を蹴り飛ばした。

 アンズはその場で、その光景を視界に収めたまま、硬直する。


「アンズさん?」


 ルカとメイズが真っ先に、アンズへ追いついた。その光景を共に視界へ収めた。


「──あれレま?」


赤。赤赤、赤赤赤赤赤赤。赤? いや、血だ。認識を頭が拒んだだけだ。認識を意図的に歪ませたのだ。

 血、血、血、血。血の中に与えられた一つの美。純白の羽根。だからこそより一層、『それ』はこの場に似つかわしくない、異常的な現象に感じられる。

 『それ』は鼻につく血の匂いを、三人の認識の中で際立たせることとなった。


「アレれ? 来ちゃったタ、のかあアァ? めめメめめ、もく? 目? 目撃者わわワは、生かしておけェ、ないぞ?」


『それ』は──地面に、血溜まりに、眠るようにして沈むヒトは。眼前の存在こそが原因であると理解すれば、取る行動など決まりきっている話だった。

 思考に囁きかける理性を抱いて、アンズが叫ぶ。


「──総員! 全力で自身の身を守れ!」


 ──そこに転がってる『独行の羽根』も、回収できたら良いな。


 恐怖と混乱が入り混じった思考の中、そんな場違いで暢気なことを考えた後。ルカは臨戦態勢をとった。

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