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第57話 互角の戦い

その頃スバルは…


大ホールの奥深く、崩れ落ちた大理石の柱の瓦礫の真っ只中で、スバルは仰向けに倒れ伏したまま、静かに意識の混濁と戦っていた


ガルドラの放った、あの白き右腕による純粋な質量と硬度のみを爆発的に高めた威力は、想像を絶するものだった


まともに喰らった側頭部はジクジクと熱く脈打ち、全身の骨が一度にきしむような激痛が走っている


「ゲホッ、ゴホッ……! あの一撃、マジで効きいたぞ……」


スバルは口内に溜まった鮮血をペッと床に吐き出し、朦朧とする頭を強引に振って立ち上がった


視界がグワリと歪むが、大理石の柱に手を突き、強靭な精神力だけでその肉体を支え直す


そんなスバルの様子を、祭壇の前から見下ろしていたガルドラは、実につまらなそうに鼻で笑ってみせた。


「ほう、まだ息の根が繋がっていたか、ネズミめ

だが、立ち上がったところで何が変わる? 


お前を守るお節介な仲間どもは、今頃下の階層で我が精鋭たちに一人ずつ無残に肉を削がれている最中だ 、お前は完全に孤立無援。打つ手など、最初から残されてはいない!」


ガルドラが傲然と言い放ち、両腕を再びドロドロとした白粘質へと変貌させていく


今度はガルドラはお湯を完全に警戒してしまっていた


「ははは! お前たちが必死に39階の風呂場やサウナで仕込んできたお湯と熱のなど、一度手の内を見せれば対策など造作もない!


さあ、絶望と共にその身をドロドロに溶かして我が肉体の一部となるがいい!」


ガルドラの咆哮と共に、巨大な白粘質の津波が、大ホール全体を埋め尽くさんばかりの勢いでスバルに向かって猛然と押し寄せてきた


しかし、絶体絶命の危機にあるはずのスバルは、迫りくる白き死の津波を前にして、逃げる素振りすら見せなかった


それどころか、彼の口元には、ガルドラの慢心を心の底から嘲笑うような、酷く不敵な笑みが浮かんでいたのだ


スバルは地を強く蹴り、真っ直ぐ津波に向かって突き進んだ。 


衝突する寸前、右腕に巻かれたお湯の染み込んだ包帯の、わずかな熱気をガルドラの津波の最前線に叩きつける


その瞬間、お湯の成分に触れた正面の白粘質がドロドロの液体へと融解し、一筋の穴が穿たれた。スバルはそのわずかな隙間へと、弾丸のような速度で身体を滑り込ませる


迫りくる質量を神速の身のこなしで避けて、津波を縦に割るように潜り抜けたスバル


背後で白粘質が激しく衝突し、ホールを破壊する音を聞きながら、スバルは一気にガルドラの懐へと肉薄した


「なっ、潜り抜けてきただと!?」 


驚愕するガルドラの眼前に、スバルの左拳が迫る。サウナの超高熱を宿した左ストレートが、ガルドラのガードをかい潜ってその胸元へと突き刺さろうとした。


しかし、ガルドラもまたパレット・カンパニーの頂点。瞬時に右腕を硬化させ、盾のようにしてスバルの拳を受け止める。 バキィィィン!!! 大ホールに、強固なプラスチックが砕け散るような激しい破壊音が響き渡る


スバルの熱によってガルドラの白き盾は乾燥し、ひび割れた。だが、ガルドラはその隙を逃さず、ひび割れた右腕を即座に流動化させてスバルの左拳を絡め取り、動きを制限した


「捕まえたぞ、小僧! そのまま圧殺してやる!」


「甘えよ!」 


スバルは左腕が引けないと見るや、それを支点にするようにして身体を半転させ、生身の右拳をガルドラの顔面へと目がけて振り抜いた


風を切り裂く超質量の右ストレート。だが、ガルドラは頭部を瞬時に液状化させ、スバルの拳を虚空へと受け流す


拳が通り抜けた直後、再びガルドラの顔が形を成し、その口元が邪悪に歪んだ


「無駄だ! 我が肉体はお前のすべての攻撃を――」


「理屈はもう聞き飽きたんだよ!」 


スバルは受け流された右腕の勢いをそのままに、ガルドラの胴体に向けて鋭い前蹴りを叩き込んだ


ドォン!


と鈍い衝撃が響き、流動化が間に合わなかったガルドラの腹部へと生身の衝撃が突き抜ける。ガルドラの巨体がわずかにのけ反り、スバルの左腕を拘束していた白粘質が緩んだ 


「おのれ……おのれ、ネズミ風情がぁぁぁ!!」 


ガルドラの顔面は怒りと屈辱で真っ赤に染まり、口元から血を流しながらも、その瞳にはまだギラギラとした狂気が宿っている。


緩んだ白粘質が、彼の周囲に漂うオーラに呼応して瞬時に集まり、再び彼の両腕へと吸い込まれるように再結合していく。


「面白い……! これほどの痛みを味わわされたのは、何年ぶりか! だがな、小僧! 俺のボンド能力の本質は、ただ『固まる』だけではないと言ったはずだ!」 


ガルドラが獰猛に吠えると同時に、彼の両腕の白粘質が、今度はドロドロとした流動性と、カチカチの硬化性を超高速で交互に繰り返す、不気味な脈動を始めた。


スバルの放つ超質量の打撃を流動体で受け流し、直後のカウンターを硬化状態で叩き込むという、攻防一体の超高等技術だ。


「上等だ! 一発で沈まねえなら、沈むまで殴り続けるだけだ!」  


スバルは不敵に笑うと、地を蹴って再びガルドラの懐へと飛び込んだ。 


 ドゴォッ! バキィッ! ズドンッ!!! 


そこからは、目にも留まらぬ超高速のインファイトが始まった。 


スバルが熱をまとった左拳を放てば、ガルドラは流動化させた腕でそれを受け流し、すぐさま硬化させた右の拳でスバルの顔面を狙う。


スバルはそれを間一髪で回避し、即座に生身の右ストレートをガルドラの腹部に叩き込む。 


激しい拳と拳のぶつかり合いが、大ホールに絶え間ない爆音を響かせる。


スバルのフィジカルの極致による一撃がガルドラの体を削れば、ガルドラの変幻自在な白粘質の猛攻がスバルの服を引き裂き、その肉体にじわじわと傷を刻んでいく。 


まさに互角の戦い。 


一歩も譲らぬ両者の攻防は、激しさを増すばかりで、どちらが優勢とも言えないデッドヒートを繰り広げていた。 


吹き飛ぶ瓦礫、激しく巻き上がる土煙。 祭壇の上でドレスの裾を握り締め、固唾を呑んで見守るエリスの目の前で、スバルとガルドラの命を懸けた死闘はさらに熱く燃え上がり、激しく火花を散らし続けるのだった――。

次は明日の18時ごろに投稿します!

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