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第54話 格上の剣士

その頃、大ホールの頑丈な床を突き破り、激しい瓦礫の雨と共に階下へと強制的に分断されていたジン


ジンは自分の刀を構え、必死に正面からの猛攻を受け止めていた


しかし、頭上から強襲してきた敵の膂力はすさまじく、剣と刀を交えているが押し切られ、どんどんビルの下の床をぶち破りながら下へ下へに落ちていく


「くっ……、この、化け物め……!」 


ジンは奥歯を噛み締め、全身の筋肉を軋ませながら、これ以上の落下を防ぐべく腕に力を込めた


凄まじい風圧と衝撃が襲う中、どんどんジンが押し返していき、押し返し落下していくのを止め、ある階に着く


ドォォォン


と大きな地響きを立てて、ジンはようやくひとつのフロアの床に着地することに成功した


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……! クソ、やりやがったな……!」 


激しく巻き上がる冷たい土煙のせいで、ジンは激しく咳き込みながらも、即座に刀を構え直して周囲を鋭く警戒した


ゆっくりと晴れていく煙の向こう側、冷徹な佇まいでこちらを見下ろしている敵の姿を視界に捉えた瞬間、ジンの瞳が驚愕に大きく見開かれた


「お前は……あの時のメイド……!?」 


そう、そこに立っていたのは、昨夜、変装して前夜祭に潜り込み、最上階へと上がった時、パーティーの部屋まで親切に案内してくれた、あのメイドであった。(参照:37話) 


だが、今の彼女からは、あの時に見せていた従順で物静かな給仕の面影など、全く感じられなかった


メイドは昨夜の従順なメイドとは打って変わってその手には禍々しい漆黒の剣が握られている


そして何より、ジンの背筋を凍らせたのは彼女の『目』だった 


人間らしい理性を一切放棄したかのような、ただ標的を屠ることだけを目的とした、獣のような目をしていた


「思ったより強いのね……あなた……」 


メイドの薄い唇から、感情の抜け落ちた氷のように冷たい声が漏れ出す


その声を聞いたジンの額を、冷や汗が静かに伝い落ちていった

 

「まさかお前がガルドラの幹部だったとはな……! 全然気づかなかったぞ……!」


ジンは内心で激しく舌を巻いていた

前夜祭であれほど近くに接していながら、これほどまでの殺気と実力を完全に隠蔽していたのだ


ただものでは無い 


ガルドラが最も信頼を寄せる、最高幹部。それが目の前のメイドの正体だった


一瞬の硬直。 次の瞬間、メイドのスピードが跳ね上がった


「――速えっ……!」 

 

ジンが辛うじて言葉を絞り出した時には、メイドの姿が目の前から完全に掻き消えていた。 超高速の踏み込み。メイドはジンの懐へと一瞬で潜り込み、その冷徹な双刃を容赦なくジンの首筋へと振り下ろす。それに対し、ギリギリで反応し刀と剣を交差させるジン


ギギギギギィィィ!!! 


ジンは紙一重で致命傷を避け、剣の腹でメイドの刃を受け止めた


しかし、メイドの本当の恐ろしさは、剣技の速さだけではなかった


「よく反応できたわね……だけど……」


メイドはそう言うとジンの足元を蹴ってぐらつかせる


剣を交差させたまま、メイドは一切の予備動作なしに、ジンの足首を的確に狙った蹴りをを放ってきたのだ


「足元がお留守ね……」


ジンが足元をぐらつかせた瞬間、体勢が大きく崩れ、ジンの防御に決定的な隙が生じてしまった


「しまっ――」 


隙だらけになった腹に蹴りを入れるメイド


ドムッ!!!


という、肉の鈍い衝撃音がフロアに鳴り響いた


「グフッ……!?」 


みぞおちへと正確に容赦のない前蹴りを叩き込まれ、体内の空気をすべて強制的に吐き出させられたジンは、呼吸を一瞬、完全に止められた


蹴りを入れられたジンは遠くまで吹っ飛ばされ、凄まじい勢いで弾き飛んでいく


ドガシャァァァン!!! 


ジンの身体は激しく床を転がり、フロアの奥にある頑丈なコンクリートの壁に背中から激しく激突する


あまりの衝撃に、壁に深い亀裂が走り、パラパラとコンクリートの破片がジンの頭上に降り注いだ


「ガハッ……! はっ、はあっ……、ぐっ……!」 


ジンは床に膝をつき、口から鮮血を吐き出した。視界がグニャリと歪み、激痛がジンを襲う


「……これでも気絶しないなんて……あなたタフね…」


メイドは倒れ伏したジンを冷ややかに見つめながら、仕留めきれなかったことにわずかな退屈さを覚え、言葉を吐き捨てた


「驚いたわ…少しは骨がある方のようだけど……」 


メイドがそう言いながら、漆黒の刃を地面に擦り付け、チリチリと火花を散らしながら一歩一歩近づいてくる


ジンは激しく揺らぐ意識を必死につなぎ止め、口元の血を乱暴に右腕で拭うと、不敵な笑みを無理やり作って見せた


「ははっ……、悪かったな……。俺の身体は、お前が思っているほど……そんなに軟弱じゃねえんだよ……!」 

壁を背にして、ジンはフラフラとなりながらも、自らの足で再び力強く立ち上がった


その手には、まだしっかりと愛刀が握られている。 しかし、ジンの心の中は、これまでにない冷徹な冷静さに満ちていた


(こいつ……本当に強すぎるな。体術も奇襲も、すべてが完璧に洗練されている。純粋な剣士としての技量だけを比べるなら……間違いなく、俺より格段に上だ……!) 


限界を超えた命がけの剣士同士の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた――。

次は明日の18時ごろに投稿します!

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