第45話 偽りの祝福
ガルドラは口元に冷酷で不敵な笑みを浮かべ、値踏みするような視線で結婚式会場を見渡した
その横柄な態度とは裏腹に、集まった富豪たちからは一際大きな拍手が湧き起こる
「――では、ここからは司会者に任せます」
ガルドラはそう言うと、傍らに控えていた司会者へとマイクを手渡した
「――はい! マイクを預かりました! ここからは私、司会者のミア・バランが仕切っていこうと思います!」
マイクを渡された女性――ミアは、天真爛漫という言葉がそっくりそのまま当てはまるような、ハキハキとした明るい声で喋り出した
その通る声は、ホールの隅々にまで響き渡り、会場の空気を一気に華やかな祝祭のそれへと塗り替えていく
「では、開式宣言を始めたいと思います! これより、新郎ガルドラ・バレットさん、新婦エリス・グレイサンの人前結婚式を執り行います!」
ミアの宣言に、会場のボルテージはさらに跳ね上がる
「ご列席の皆様には、おふたりの結婚の立会人となっていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。……では新婦に入場してもらいましょう! 新婦の入場です!」
ミアがそう言うと同時に、招待客たちの視線が一斉に後方の大きな扉へと注がれた
重厚な扉の向こうでは、老執事とエリスが静かに腕を組んで待機していた
ゴゴゴ……
と、静かに、しかし厳かに扉が開く
同時に、会場内に美しくもどこか哀愁を帯びたオルガンの音が鳴り響いた
「みなさま、温かい拍手でお迎えください!」
ミアの呼びかけに応じ、招待客の拍手が再び鳴り響く
純白のウエディングドレスに身を包んだエリスは、老執事に伴われ、ゆっくりとバージンロードを歩き出した。一歩、また一歩と、ガルドラの元へと近づいていく
彼女の心境を表すかのように、その足取りは重い
そして、祭壇の前。エリスの手をガルドラへと引き渡すと、老執事は深く一礼し、静かにエリスの元を離れた
「それでは、聖歌の斉唱です」
ミアの言葉を合図に、厳かな聖歌が始まり、ホール全体が神秘的な空気に包まれていく。だが、この神聖な儀式の裏で、運命の歯車はすでに狂い始めていた。
*
その頃、薄暗い地下牢から、地上へと通じる果てしない階段
スバルたちは、凄まじい勢いでその段を駆け上がっていた
「一体いつまで階段続くんだよー!」
最後尾を走るリンクが、早くも息を切らせて情けない声を上げる
落とし穴に落ちて首を痛めたばかりの彼にとっては、この急勾配の連続は拷問に近い
「リンク、ガタガタ言うな! もうすぐ着く!」
先頭を走るカイトが、宥めるように、しかし鋭い声で叱咤する。
一同がさらに速度を上げて走り抜けると、ついに最上階、地上の明かりが漏れる扉の前へと到達した
しかし――
「……チッ、鍵がかかってやがる、中からは出られないようになってるみたいだな」
扉のノブを回したカイトが、忌々しげに顔をしかめた
頑丈な鉄製の扉は、びくともしない
「……こんなの、ぶっ壊してやる!」
スバルは短く吐き捨てると、深く腰を落とした
「たあ!」
バコンッ!
スバルは声を上げるのと同時に扉を蹴って扉を壊す
そして出てみるとそこはパレット・カンパニーのビルの外の裏に繋がっていた……
「よし! 入り口から入るぞ!」
「やめろスバル!」
ビルに真っ先に入り口に向かって走っていこうとするスバルを止めるジン
「なんでだよ! 早く行かねえとエリスが!」
「いいか、馬鹿正直に入り口から入ってみろ!すぐにバレるだろ!どっか裏口から入らないと!」
ジンの正論に、スバルは渋々と足を引いた。確かに、正面突破で警備を総立ちにさせるのは、今のボロボロの身体では得策ではない
スバル達は裏口を探してキョロキョロしていると…
「あそこなら入れそうだ!」
カイトの鋭い声が響き、スバル達の視線が、少し離れた位置にある、警備の手薄そうな搬入口の扉を捉えた
「よし、あそこから入るか!」
スバルが不敵に笑う。そうしてスバル達は、音もなく影に紛れながら、そのビルの中へと滑り込んでいった
*
ビル内部――パレット・カンパニーの本拠地
そこは、先ほどの地下牢とは打って変わって、冷徹なまでに洗練された近代的なビルだった
「おい、ここから結婚式会場まではどう行くんだ?」
通路の角から素早く首を覗かせ、周囲を警戒しながらリンクが囁く
「この建物の最上階が大ホールだ。多分昨日と同じパーティー会場でやってると思う」
ジンがそう言うとカイトも口を開く
「ガルドラの奴、自分の息の掛かったビルで、富豪どもを集めて盛大に権力を誇示してやがるのか…」
「最上階か……よし階段登って正面から突っ込むか!」
スバルがニヤリと笑いながら、拳の骨をポキポキと鳴らす
脱獄したばかりだというのに、彼の戦闘への渇望は衰えるどころか増すばかりだった
「そうだな…ここは非常階段を駆け上がる。……リンク、死ぬ気でついてきな」
ジンがそう言うと、リンクは露骨に嫌そうな顔をして肩を落とした
「マジかよ……また階段かよ……!」
「ガタガタ言う暇があったら足を動かせ! エリスが、あのクソ野郎の手に落ちる前に……俺たちのすべてを懸けて、あいつをぶん殴りに行くんだよ!」
スバルの言葉に、四人の男たちの空気が一変する。
非常階段の重い扉を静かに開け、彼らは一歩一歩、確実な足取りで上層へと登り始める
その頃、最上階では、美しい聖歌が響き、偽りの祝福に満ちた結婚式が進行している
だが、その華やかな世界の足元から、すべてをひっくり返すための男達が、静かに、しかし確実にその爪を研ぎ澄ませながら迫っていた
ガルドラが勝利を確信し、エリスの指に指輪を嵌めようとしたまさにその時、どのような地獄が幕を開けるのか
彼らはまだ、知る由もなかった――
次は明日の18時ごろに投稿します!
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