第43話 這い上がり
富豪たちが豪華絢爛なテーブルを囲み、下俗な談笑に興じている
その華やかな喧騒から少し離れた控え室では、息を呑むほどに美しいウエディングドレスを纏ったエリスが、鏡の前に佇んでいた
「エリス様、本当に……本当にお美しいですわ!」
「準備を手伝っていた私たちまで、思わず見惚れてしまいます!」
控室の女性たちが、寄ってたかって彼女の可憐な姿を褒めちぎる
しかし、エリスの瞳に歓喜の色はなかった。ただ人形のように静かに佇んでいる。
コン、コン――。
その時、控え室のドアが控えめにノックされた。
「入ってもよろしいですか?」
聞こえてきたのは少し擦れた老人の声だった
「ええ、入りなさい」
エリスが許可を出すと、仕立ての良い執事の格好をした老人が静かに部屋へと入ってきた
その顔には、深い年輪のような皺と、それ以上の忠誠心が刻まれている
「エリス様……そのお美しいお姿を、死ぬ前に見られたことを、私は感激でございます……」
老執事は目頭を熱くさせ、ポケットからハンカチを取り出すと、涙をそっと拭った
「ありがとう、爺。」
エリスは執事に礼を言うと、執事も口を開く
「私もあなた様が選んだお方ならこの爺、そのお方に支えようと考えておりましたが…あの男では…」
寂しそうな、悲しそうな顔をする執事
そして、執事は静かに時計へと目を落とした。
「……エリス様、お時間です……」
「ええ、行きましょうか……」
悲しそうな顔で執事と控え室を出るエリス
老執事はただ、その運命の過酷さに胸を痛めることしかできなかった
*
一方、その頃 薄暗く、カビ臭い地下牢
見張りの看守が、退屈そうに大きなあくびをしていた――その瞬間だった
「ゴホッ……!」
看守が倒れ込む
目の回っている看守の背後には正拳突きのポーズで看守の頭を殴ったスバルがいた
看守は声も上げられず、白目を剥いてその場に崩れ落ちた
「よし! こいつの鍵、鍵……!」
スバルは素早く看守の腰回りを手探りで探る
ジャラジャラ――
と、金属が擦れ合う小気味良い音が静寂に響いた
鍵が揺れる音が聞こえ、その方を探すと牢屋の鍵を見つける
「あった!もらってぞ!」
鍵を盗むと、すぐにカイトとジンの牢屋の方に走っていき鉄格子の並ぶ通路を駆けるスバル
「カイト! ジン! あったぞ! 鍵!」
「おお!」
「よしッ!」
スバルの呼びかけに、カイトとジンがガッツポーズで応える
スバルは手際よく牢屋の鍵を開けた。カイトとジンが勢いよく牢から這い出る
「しゃあ! 暴れるぜ!」
今からでも戦闘を開始するために、ガルドラのところに行きそうな雰囲気の三人
不敵な笑みを浮かべる彼らの背後、さらに奥の、ひときわ頑丈な牢屋から、低く、ねっとりとした声が響いた
「ほんとに脱出しちまったのか……」
声の主は、昨日カイトたちを散々挑発していた男だった
昨日言ってたみてえに本当に脱出しちまったのか……」
男は信じられないといった様子で、鉄格子に顔を押し付けている
「無駄なことしやがる。そんなに死に映えてえのか……」
男の嫌味な言葉に、スバルの眉がピクリと跳ねた。
スバルが男の牢屋の目の前まで一歩、また一歩と近づいていく
「あ? なんだ言い返しにでも来たか? 昨日鉄格子を噛んでた、イカれてるクレイジーボーイ……」
男が嘲笑を浮かべた次の瞬間、スバルの手が鉄格子の隙間から電撃のように伸びた
ガシィッ!
と、男の鼻を容赦なく掴んで引っ張る
「イッツイタタタ! 何しやがる!」
鼻をひねり上げられ、男が涙目で悲鳴を上げる
スバルは冷徹な眼差しで、至近距離から男を睨みつけた
そして痛がる男に、スバルは口を開く
「うるせえ! 俺は俺が自分として、やりてえことをしてるだけだ! お前になにか言われる筋合いはねえ! それに! お前、行かなきゃ開けねえところがあんだろ!ならお前は何したい! 何を掴みたい!?」」
スバルの圧倒的な熱量と眼光に、男は完全に気圧され言葉を失う
そして口を開く男
「おっ、俺は……帰りたい……帰るべき場所に……!」
「じゃあ……お前がそう思うんだったら、そうしろよ! ここから出ず、一生牢獄暮らしか、ここから出て帰るのか!」
もっと強く男の鼻を引っ張るスバル
「痛ぇ! 痛ぇっ! 出っ、出る! 出るから離してくれ!」
男の情けない懇願を聞き届け、スバルは鼻を離した。そして、男の牢の鍵も一気に解放する
男は鼻を押さえながら、呆然とスバルを見上げた
「そういえば、お前の名前聞いてなかったな」
ジンが問いかけると、ニヤリと笑って応じる
「俺はハリー。ハリー・ドレイパー」
*
その頃、豪奢な結婚式会場では…
富豪達が談笑をし、騒がしかったパーティーが暗くなり、一点に光が集められ、一人の男が照らされる
その男はガルドだった
「本日はお忙しい中、私たちの結婚式にお集まりいただき、ありがとうございます」
拍手喝采の中、新郎であるガルドが、傲慢な笑みを浮かべてステージの上でスポットライトを浴びていた
そして結婚式会場の扉の前には執事と共に腕を組み、バージンロードを歩く準備をしていた
そして執事はエリスに話しかける
「……エリス様…どうかお幸せになってくださいませ…」
それを聞いたエリスが頷く
「ええ…爺、本当に…ありがとう…!」
泣きそうな顔をするエリス
しかし、その華やかな宴の裏で、地獄の底から這い上がってきた男たちの足音が、確実に近づいていた――。
間違えて消してしまったのでもう一回再投稿しました…
すみません 次からこのようなことがないようにします
次は明日の18時ごろに投稿します!
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