第36話 謎のお爺さん
「まず、どう攻めるかだな」
病室で腕を組んだジンが低く声を響かせた
スバルが口を開く
「やっぱり結婚式の前に助けてやりてえよな!」
「じゃあ前夜祭から潜入するか」
提案するカイト
「でも潜入なんてどうやってするんだ?」
うーんと考えるスバル達
「そうだ!」
何かに気づいたようにリンクが叫ぶ
「どうした?」
カイトが不思議そうにする
「やっぱり、パーティ潜入ならスーツ変装だ!」
一数十分後一
洋服屋でスーツ見ているスバル達
「変な服が多いなー」
失礼なことを言うスバル
「おい!」
「パシンッ!」
リンクがスバルの頭を叩く
一数分後一
試着室のカーテンが勢いよく開いた
「……こんな感じでいいのか?」
「着慣れないんだが」
中から現れたジンとカイトの姿に、リンクは思わず息を呑んだ
「お、おお……! 格好いい。これなら誰も怪しまないな」
普段の荒事用装備を脱ぎ捨て、上質な黒のブラックスーツに身を包んだジンは、まるで若き実業家か、あるいは高位の貴族のようだった
対するカイトも、仕立ての良いネイビーのスーツを完璧に着こなしている
「そうか? ならいいんだが」
ジンがそっけなく、しかしどこか満足げに襟元を直す。カイトも照れくさそうに頭を掻いた
その時、隣の試着室から
「うおぉぉん!」
という絶叫と共に、スバルが飛び出てくる
「あ、熱い! 死ぬ! 何なんだこの服は!?」
一同の視線がスバルに集まり、そして同時に凍りついた
「……スバル、お前。それは何だ」
リンクの声のトーンが、一瞬で低くなる
スバルが身に纏っていたのは、ネクタイがぐちゃぐちゃにねじれ、ボタンは掛け違えられ、なぜか所々が茶色く汚れた、見るも無残なヨレヨレのスーツだった
これから華やかなパーティーに潜入するというのに、これではただの不審者、あるいは行き倒れのホームレスのようである
「この短時間で、どうやったらそんなに服を汚せるんだよ!?」
リンクが頭を抱えて叫ぶ
「だってこれ、着るのめちゃくちゃ苦しいし、なんか暑いしよぉ! 動いたら引っかかってこうなったんだ!こんなもん着てる奴バカだろ!」
「バカはテメーだ!」
スバルにみんながツッコミを入れていると、ぬるっとリンクの後ろに立つ店主
気配もなく現れた初老の店主が、死んだような目で
リンクを見つめていた
その背後に立ち込めるオーラは、下手な無法者より
大きい
「ひっ!?」
スバルが短い悲鳴を上げる
「お客さん……汚れたスーツは誰が買ってくれますのでしょうな…?」
「かっ買います……」
掠れた声で言うリンク
「こんな汚れたスーツを買うなんてリンク、お前変な奴だなー」
「お前のせいだろ!!」
リンクの怒声が店内にこだまする
「まぁ、飯でも食って落ち着こうぜ」
スバルが呑気に提案するが、誰もが「お前のせいでそれどころではない」という視線を返した
―数分後一
店の外に出るスバル達
「こんな汚れたスーツじゃあパーティに潜入しても
バレそうだ…」
途方に暮れているリンク
「ッ!」
すると何かに気づくジン
ジンの鋭い視線が、遠くの方へと向けられた
「どうしたんだ?ジン」
それに気づくスバル
ジンが見ている方向を見てみると…
路地裏でおじいさんが汚い格好をして小さいカーペットの上に物を置いて物売りをしている
そこで若い男と揉めているおじいさん
「これくらい位じゃねえか!」
「こっこれは大事なスーツなんじゃ!これだけはただでは売れん!」
どうやら、おじいさんが売っている物の中に高級なスーツがあり、それを若い男がタダで奪い取ろうとしていたのだ
周囲には野次馬が集まりつつあった
そこに向かって走り出し、割って入り若い男の目の前に刀を突き出すジン
「おいそこまでにしとけよ?じいさんを困らせんじゃねぇ…」
「わっ悪かったよやめればいいんだろ?」
バツが悪そうにして去っていく男
「全くあんなしょうもないやつもいるもんだ」
ジンが刀を鞘に戻す
そこにスバルたちが着く
「おい!ジンどうしたんだよいきなり走り出したりして」
スバルが聞くと答えるジン
「ああこのじいさんが困ってたから、助けただけだ」
するとおじいさんが口を開く
「なんとお礼すればいいか」
震える声でジンたちを見上げた
「いいよ、困った時はお互い様だ」
ジンは当たり前のことをしたというように言う
「いや、いや、そんなこと言わずに、このスーツを持っていってください」
おじいさんはさっき揉めてた原因である綺麗なスーツをジンに差し出す
「いっいやいいよ!大事なもんなんだろ?」
申し訳なさそうにして断るジン
かいやいや、あなた方のような優しい人に貰っていただきたい。あなたたちが使ってください。冒険者一行達よ」
「わっわかった、わっ悪いな…」
おじいさんの圧に負けて受け取るジン
「ええもちろんですよ」
そして、その場を去るスバル達
「あのおじいさんには悪いことをしちまった」
「そうだけど、結果的には、あのおじいさんのおかげでスバルのスーツが揃った!」
店に戻り、老人から譲り受けた衣服を開いてみると、そこには言葉を失うほど見事な仕立ての、純白のスーツが収められていた。
「こっこんな綺麗なスーツを…スバル!絶対に綺麗にしておけよ!」
忠告するように言うリンク
「わかってるよ! 多分……」
スバルは曖昧に笑う
「でもこんな綺麗なスーツを持ってる割には、結構汚えなりしてたよな?」
カイトが不思議そうに言う
「おい、失礼だな!」
ツッコむジン
「でも確かになあんなスーツ……」
リンクが顎に手を当てて考え込む
「誰かから盗んだとか?」
スバルがふざけて言う
「だから失礼だ!」
ジンがまたツッコむ
「ん?…な、なんだこのバッジ?」
すると、スーツについている何かのバッジに気がつくリンク
リンクが純白のスーツの襟元を指差した。そこには、金と銀で彩られた、精巧な紋章のバッジが留められていた
「確かに、何かのロゴに見えるな、それも、なんかお偉いさんがつけていそうなバッジだ。あのじいさん、何者なんだ?」
カイトの言葉に、ジンもバッジを凝視する
「見たこともねえ紋章だな…」
「あのじいさん何もんだ?」
ヨレヨレのスーツを着た問題児と、謎の素晴らしい
スーツを手に入れたスバル達
前夜祭の幕が上がる直前、彼らの潜入作戦は、予想もしない方向へと動き始めていた――。
次は明日の18時15分ごろに投稿します!
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