第24話 信じる
一スバル達はヒーラーを探し砂漠を歩いていた一
「ジンを治してくれるヒーラーは、一体どこにいるんだろうな……」
果てしなく続く砂丘の頂に立ち、カイトは遠くを見つめながらぽつりと言葉を漏らした
「まずは、ここからさらに北にある町『ハベスト』を目指してみよう 東大陸1の町だから、人はたくさん集まっているはずだ。それだけ人がいれば、高名なヒーラーの一人や二人、見つかる可能性は高いだろ」
カイトの提案に、隣にいたリンクが深く頷いた
「確かに、じっとしているよりは行ってみる価値がありそうだな。あそこにいけば、何か手がかりがあるかもしれない」
「……すまない、みんな 俺のせいで余計な苦労をかける……」
三人の背後、即席の担架の上で横たわっているジンが、申し訳なさそうに、掠れた声を絞り出した
その顔色は青白く、額にはべっとりと冷や汗がにじんでいる
「いいんだ、気にすんな」
スバルは振り返り、ジンの肩に優しく手を置いた。
「よし、今日の移動はここまでにする。本当は一刻も早く先を急ぎたいところだが、夜の砂漠は油断すると命を落とすくらいにめちゃくちゃ冷え込むんだ。体力を削られる前にテントを張ろう」
リンクがそういうと口を開くカイト
「……ジン、すまないな。お前を早く町に連れて行ってやりたいんだが」
焦る気持ちを抑えながらカイトが言うと、ジンは力なく首を振った
「いいんだ そもそも、俺が不覚を取ったせいでこうなったんだからな……。それより、悪いが、もう寝かしてくれないか。身体が鉛みたいに重いんだ」
「いいけど……。無理すんなよな、本当に」
それまで黙って聞いていたスバルが、あからさまにしょんぼりとした顔になってジンの顔を覗き込んだ
その落ち込みぶりに、ジンは苦笑を漏らす
「な、に、そ……そんな顔すんなよ。死なねえよ、絶対。俺を誰だと思ってるんだ。……はぁ」
ジンはみんなにを安心させるように、あるいは強がるようにそう言うと、ゆっくりと目を閉じて深い呼吸を始めた
「よし、お前ら、暗くなる前に急いでテントを張るぞ!」
スバルの号令で、一同が荷物に手をかけた、その時だった
ポツ、とカイトの頬に冷たいものが当たった
乾いた砂の匂いに、突如として混ざる湿った空気。
「……ん?」カイトが空を見上げた次の瞬間、まるでバケツをひっくり返したかのような激しい豪雨が、容赦なく一行の頭上に降り注いできた
「ぎゃあーっ!? な、な、なんで砂漠なのに雨が降るんだよ! おかしいだろこれ!」
突然の濁流のような雨に、スバルが頭を抱えて絶叫する
「この砂漠は特殊なんだ! 気候が狂ってて、いきなり大雨が降ることもあるんだ!」
リンクが雨の音に負けないよう大声で張り上げる。追い打ちをかけるように、
「ドガァン!」と鼓膜を揺らす不気味な雷鳴が轟き、夜の砂漠が真っ白に照らされた
「うっうわー!」
みんなが騒ぎ過ぎてジンがキレたように起き上がる
「ウッセーな! 病人への配慮ってものがないのかよ、お前らは! 静かに寝かしてくれ!」
スバル達と雷のうるささに耐えかねて、ジンが布団の中から怒鳴り散らす
激しい嵐は、それからしばらくの間、彼らのキャンプを激しく叩きつけ続けた。
やがて夜が更ける頃には、あれほど激しかった雨は嘘のように止んでいた
雲の切れ間から覗く月光の下、リンクはパチパチと静かに爆ぜる焚き火の前に座り、静かに炎を見つめていた
そこへ、サク、サクと砂を踏む足音を立ててスバルが近づいてきた。
「よっ」
気楽にリンクへ話しかけるスバル
それに気づくリンク
「ああ、スバルか。ジンは寝たか?」
「ああ、さっきやっと寝たよ。……それで、ジンはどうなんだ?」
スバルが真剣な目を向けると、リンクはパチパチと爆ぜる炎を見つめたまま、重い口を開いた
「……結構まずい状況だ 正直、もつかどうかは五分五分だな。……それでも、俺たちでやるしかねえんだ。ジンのためにも、何が何でもハベストの町まで連れていく」
「う、うん……五分五分、か……」
リンクの悲しげで切羽詰まった横顔を見て、スバルもそれ以上言葉を続けられず、俯いてしまった
沈黙が続く
「なんだよ、お前らだけでシリアスな雰囲気になって、俺を仲間ハズレにする気か?」
背後からひょっこりと、カイトが二人の肩を組むようにして輪に入ってきた
「そんなんじゃねえよ! …でも、ジンのやつ、本当に危ないんだぞ!」
「じゃあ、お前は……もうあいつが助からねえって、心のどこかで諦めてるのか?」
カイトのまっすぐな視線がスバルを射抜く。
「そういう訳じゃねえけど……! ただ、心配で……」
「だったら、あいつを信じろ。ジンはそんなに簡単にくたばるような、弱い男じゃない。違うか?」
カイトの迷いのない力強い言葉に、リンクとスバルは顔を見合わせた
リンクの表情が少しずつ明るくなり、嬉しそうに白い歯を見せて笑った
「……確かに、そうだな! あいつの生命力を舐めちゃいけないよな」
「そうそう、その意気だ。……っと、それじゃあ」
テントに戻ろうとしたカイト
「あ、そういえばさ、カイト。さっきまでどこ行ってたんだよ? 急にいなくなるから心配したんだぞ」
スバルが尋ねると、カイトは笑った
「ほら、これから過酷な移動になるだろ? みんな腹が減ってると思って、ちょっとその辺でウサギを捕ってきたんだ」
カイトが背中から、仕留めたばかりの丸々とした野ウサギを差し出す
それを見た瞬間、スバルは一秒前までのシリアスな顔をどこかへ放り投げ、目を輝かせてダラダラとよだれを垂らし始めた
「う、美味そう……! 肉だ肉! カイト、お前最高だな! 早く食おうぜ、早く!」
「おいおい、汚いからよだれを拭けよ。リンク、火を借りるぞ」
一それから十分後一
焚き火で香ばしく焼き上げられた肉を夢中で貪り食った面々は、ふぅ、と満足げな息を吐き出していた
「ふー、腹一杯だ! 生き返る〜!」
「ああ、食った食った。やっぱり美味いものを食うと元気が出るな。よし、明日は夜明けと同時に出発するぞ。みんな、しっかり寝ておけよ」
カイトの言葉に全員が頷き、一同はそれぞれ毛布に包まって眠りについた。
一翌朝一
「よし、行くぞ! ハベストの町まで一気にいくぞ!」
カイトはまだ意識が朦朧としているジンを背中にしっかりと背負い、力強い足取りで歩き出した
リンクとスバルがその周囲を固め、砂丘を越えていく
それから数十分ほど、黙々と歩き続けた時だった。 先頭を歩いていたスバルが、砂丘の頂上で足を止め、歓声を上げた
「おい、みんな見ろよ! やった、ついに砂漠を抜けたぞ!」
二人が急いで駆け上がると、目の前には、これまで見飽きていた砂の世界とは全く異なる、緑の世界が広がっていた
「いやっふー!」
スバルとリンクはまるで子供のように無邪気な声を上げ、なだらかな丘を滑り台のように勢いよく滑り降りていく。
「おい、はしゃぎすぎだ! 何かあるかもしれねーんだから警戒しろ!」
「だってしょうがないだろ! 俺、生まれてからずっと砂漠の近くにいたから、初めてこんなに青々とした緑の草を見たんだぞ!」
リンクも興奮を抑えきれない様子で、きょろきょろと広大な野原を見回していた
するとリンクの視線が、野原の真ん中にそびえ立つ一本の巨大な植物に釘付けになる。
「……なんだ、このでっけえ草は!?」
皆が驚きリンクの視線の方を見るとそこにあるのは…
「いや、どう見ても『木』だろ…」
カイトが肩でジンを支え直しながら、呆れたように、教える
「キ? これが、あの本で読んだことがある『キ』なのかー! すげえ、本当に生えてるんだ!」
リンクが感動に目を輝かせて巨大な大木を見上げている、その時だった
それまで心地よく吹いていた風がピタリと止み、
スバルとカイトの目が鋭くなり、拳を構える
「え、な、……なんだよ、二人とも! なんかいるのか!? 嘘だろ、砂漠を抜けたばかりなのに!」
全員が息を潜め、いつでも動けるように身体を低く構えた、その瞬間
「ザザァッ…」
スバル達のすぐ後ろにある人くらいの背丈ほどもある草むらが、動く
「ゴクリッ…」
リンクが唾を飲み込む
次は明日の18時ごろに投稿します!
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