「鍵守の涙」
「こいつ、
本気で続きを書こうとしてるから」
静寂。
ロストライブラリ。
無限に続く本棚。
そこに並ぶ、
消えた物語たち。
その全てが今。
神代レン
へ反応していた。
ページがめくれる。
光が灯る。
声が響く。
『続きを』
『読んで』
『終わりたくない』
その声は、
悲鳴じゃなかった。
願いだった。
鍵守セラ
は、
初めて動揺していた。
白い片目が、
小さく揺れている。
「……ありえません」
背後の鍵たちが、
不安定に震える。
セラは、
レンを見つめたまま呟く。
「ロストストーリーは、
既に終了した存在です」
「観測不能」
「維持不能」
「だから封印するしか――」
「それ、
誰が決めた?」
レンの一言で、
空気が止まる。
セラが黙る。
レンは続ける。
「終わったって、
誰が決めたんだよ」
本棚の奥で、
小さな光が灯る。
一冊。
また一冊。
消えかけた本たちが、
少しずつ色を取り戻していく。
セラは、
僅かに目を伏せた。
「……観測法則です」
「読まれない物語は、
崩壊する」
レンは頷く。
「それは知ってる」
「でも」
レンは、
周囲の本を見る。
「今、
こいつらは読まれてる」
その瞬間。
図書館中へ、
大量のログが走った。
【観測増加を確認】
LOST STORY NETWORK同期中
無数の本が、
共鳴し始める。
ロストストーリー同士が、
互いを観測している。
クロウが、
少し驚いた顔をする。
クロウ
「マジか」
「物語同士で、
存在維持してんのか」
アキが笑った。
白紙アキ
「孤独だった世界が、
繋がったからね」
その時。
小さな足音がした。
トテトテ……
本棚の奥から、
何人もの子供たちが現れる。
ボロボロの服。
薄い身体。
でも。
その瞳には、
小さな光が戻っていた。
「外……
あるの?」
「空、
青い?」
「僕たちも、
出られる?」
ユイが、
息を呑む。
白銀ユイ
「……こんなの」
ノアも、
涙を浮かべていた。
ノア
「私だけじゃ、
なかったんだ」
セラは、
その光景を見つめている。
ずっと無表情だった彼女の顔に、
初めて迷いが浮かぶ。
レンは、
静かに言った。
「お前、
本当は分かってたんじゃないのか」
セラの肩が、
微かに揺れる。
レンは続ける。
「封印してたんじゃない」
「消えないように、
守ってたんだろ」
静寂。
鍵たちが、
小さく震える。
セラは、
長い沈黙の後。
小さく呟いた。
「……消えてほしく、
なかった」
その瞬間。
彼女の白い片目から。
一筋だけ、
涙が零れ落ちた。
図書館中の本が、
強く光る。
【管理者感情反応を確認】
ロストライブラリ同期率上昇
アキが、
静かに目を細めた。
「やっと、
本音出した」
セラは、
震える声で言う。
「でも、
どうすればいいか分からなかった」
「外へ出せば、
壊れる」
「閉じ込めれば、
生き延びる」
「だから私は……」
レンは、
白いペンを持ったまま、
セラへ歩み寄る。
そして。
静かに笑った。
「じゃあ、
一緒に続きを考えようぜ」
その瞬間。
ロストライブラリの奥で。
巨大な“何か”が、
目を開いた。




