「存在しない物語」
「面白そうじゃん」
その一言で。
空気が変わった。
白紙アキ
が、
珍しく本気で顔をしかめる。
「レン」
「それだけは、
軽いノリで触っちゃダメ」
レンは空のログを見る。
【UNKNOWN STORY】
“存在しない物語”
存在しない。
なのに、
そこにある。
矛盾。
まるで、
今の自分たちみたいだった。
最終観測者の声が響く。
『観測を禁止する』
その瞬間。
空間全体へ、
巨大な白い鎖が展開された。
ログそのものを封鎖する鎖。
【アクセス制限】
UNKNOWN STORY
観測権限:
拒否
クロウが舌打ちする。
クロウ
「露骨に怪しいな」
ユイも、
不安そうに空を見る。
白銀ユイ
「なんでそんなに隠すの……?」
最終観測者は答えない。
だが。
その沈黙が、
逆に答えだった。
レンは、
鎖を見上げる。
すると。
頭の奥へ、
断片的な映像が流れ込んだ。
暗い海。
崩れた街。
泣いている少女。
そして。
“誰にも読まれなかったページ”。
レンの胸が痛む。
知らないはずなのに。
放っておけない。
アキが低く言う。
「UNKNOWN STORYは、
普通の未完結じゃない」
レンが見る。
アキは、
少しだけ迷ってから続けた。
「“存在しなかったことにされた物語”だ」
静寂。
ユイが目を見開く。
「……消されたってこと?」
アキは頷く。
「打ち切り」
「観測拒否」
「読者ゼロ」
「理由は色々」
「でも最終的に、
完全に忘れられた物語は、
存在ごと沈む」
クロウが眉をひそめる。
「そんなもん、
今さら掘り返してどうすんだ」
アキは静かに言った。
「普通なら、
掘り返せない」
「でもレンは今、
作者権限に触れてる」
「だから見えてる」
その時。
UNKNOWN STORYのログが、
一瞬だけ点滅した。
SOS
ユイが息を呑む。
次の瞬間。
空間の奥から、
小さな手が伸びてきた。
真っ白なヒビの向こう。
そこから。
誰かが、
助けを求めている。
レンが反射的に手を伸ばす。
アキが叫ぶ。
「待っ――」
しかし。
もう遅かった。
レンの指先が、
その手へ触れる。
瞬間。
世界が反転した。
空。
街。
ログ。
全部が、
上下逆になる。
轟音。
ノイズ。
ページが破れる音。
【UNKNOWN STORY 接続完了】
最終観測者が、
初めて明確な怒りを見せた。
『やめろ!!』
だが。
レンたちの身体は、
既に白い裂け目へ落ち始めていた。
ユイがレンの手を掴む。
クロウが悪態を吐く。
アキだけが、
どこか諦めたように笑った。
「うん」
「やっぱり、
そうなるよね」
落下。
無限の白。
そして。
最後に。
レンは、
少女の声を聞いた。
『……来てくれたの?』
次の瞬間。
全員の視界が、
暗闇へ沈んだ。




