「雨のあと」
雨の音がする。
静かな、
午後の雨。
踏切の警報機が鳴る。
カン、カン、カン――
電車が通り過ぎ。
風が吹いた。
高校生の少年が、
傘を差して歩いている。
黒髪。
少し眠そうな目。
どこにでもいるような、
普通の少年。
神代レン
彼は、
コンビニの袋を片手に、
雨の道を歩いていた。
特別な力はない。
ログも見えない。
世界を書き換える能力もない。
本当に、
ただの高校生。
レンは、
ふと空を見上げる。
灰色の空。
なんとなく。
懐かしい気がした。
何を忘れているのかは、
分からない。
でも。
大切な夢を見ていたような、
そんな感覚だけが残っている。
その時。
向こうから、
一人の少女が走ってきた。
銀色の髪。
金色の瞳。
制服姿。
彼女は曲がり角で滑り。
「あっ――」
レンへぶつかった。
コンビニ袋が落ちる。
りんごジュースが転がった。
少女は慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!」
レンは少し笑う。
「いや、大丈夫」
少女は、
転がったジュースを拾い。
それを見て、
一瞬だけ目を丸くした。
なぜか。
懐かしそうに。
白銀ユイ
ユイは、
レンを見る。
レンも、
なぜか彼女から目を離せなかった。
初対面のはずなのに。
どこかで、
ずっと前から知っていた気がする。
沈黙。
雨の音だけが響く。
そして。
ユイが、
少し照れながら笑った。
「……どこかで会ったことあります?」
レンは困ったように笑う。
「いや、
たぶん初めて」
でも。
心の奥で。
何かが、
小さく揺れていた。
踏切の向こうで、
電車が走り去っていく。
世界は静かだった。
空にログはない。
観測者もいない。
誰も、
彼らを読んでいない。
それでも。
確かに、
ここにいる。
レンは、
落ちたジュースを受け取る。
ユイが小さく頭を下げる。
「ほんとにごめんなさい」
「今度、
何かおごります」
レンは吹き出した。
「それ、
ナンパみたいだな」
ユイの顔が赤くなる。
「ち、違います!」
その反応が面白くて、
レンは少し笑った。
すると。
ユイもつられて笑う。
雨が少し弱くなる。
灰色だった空に、
小さな光が差した。
その瞬間。
誰にも見えない場所で。
真っ白なページに、
たった一行だけ文字が浮かんだ。
“そして彼らは、物語ではなく人生を選んだ”
その文字は、
すぐに消えた。
もう。
続きを書く者はいない。
けれど。
二人の未来は、
静かに続いていく。




