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第三話 暗闇

 携帯用のライトを身につけた蒼は、暗闇に包まれた洞窟の中を慎重に進んでいた。手元の光で天井を照らしながら、ケーブルを這わせていく。

 入り口に設置した照明の光が届く、ぎりぎりの地点。

「ここか……」

 蒼は二個目の照明を取り付ける。

 カチャッ、カチャッ。

 カンッ、カンッ、カンッ。

「ふぅ……」

 小さく息を吐き、スイッチを入れる。

 カチッ。

 パッ――

 天井の照明が点灯し、洞窟の一角が明るく照らし出された。

 カッ、カッ、カッ……

 背後から蹄の音が響く。

「どうだ?」

 シロの声に、蒼は振り返らずに答える。

「いい感じじゃないか。光がちゃんと繋がってる」

「流石は人間体だな。手先が器用だ」

「褒めても何も出ないぞ」

 軽く肩をすくめながらも、蒼は次の作業へと移る。

「よし、このまま続けるぞ」

 ケーブルを伸ばし、一定間隔で照明を設置していく。単調な作業が続くが、気は抜けない。魂食はいつ現れてもおかしくない存在だ。

 だが――

 その間、魂食の気配は一切なかった。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

「ふぅ……」

 十個ほどの照明を設置した頃、洞窟の様子が変わり始める。

「この先は……広いな」

 蒼はライトで前方を照らす。

「天井も高くなっているな」

 シロの言葉通り、そこには広大な空間が広がっていた。バスケットコート二面分ほどの広さに、二階吹き抜けほどの高さの天井。

 その奥には、さらに別の洞窟がぽっかりと口を開けている。

「ここは天井にライトをつけるのは無理だな……」

 蒼は判断し、ケーブルを壁沿いに這わせていく。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

「よし。この空間も、照明は十分だな」

 辺りを見渡しながら、蒼は頷く。

「魂食が現れたら、ここで処理できそうだな」

「そうだな」

 蒼は続けて言葉を重ねる。

「ここに誘導すれば戦いやすい。それに――入り口が少ないから、防衛もしやすい」

「休憩場所としても使えそうだな」

「だな……」

 その時――

 ぐぅ~

 間の抜けた音が、静かな洞窟に響いた。

「……」

「……」

 一瞬の沈黙。

「腹、減ったな」

「正直だな」

 シロの言葉に、蒼は苦笑する。

「ちょうどいい。ここで一旦休むか」

 張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。


 蒼が休憩している間、シロの駒たちは周囲の警戒を続けていた。

「どこまで続いているんだろうな……」

 蒼がぽつりと呟く。

「反響音を聞く限り、そこまで奥は無さそうだがな」

 シロの耳がピクピクッと動く。

「だが、ここ以外にも広い空間が数カ所ありそうだな」

「そうか……」

 蒼は立ち上がり、ケーブルを手に取る。

「よし。再開だ」

 再び洞窟の奥へ向かい、作業を開始する。

 ケーブルを伸ばし、一定間隔で照明を設置していく。単調だが、確実に前へ進む作業。

 やがて、次の広い空間に差しかかろうとしたその時――

「いるぞ」

「!」

 シロの声に、蒼は即座に反応する。

 携帯用ライトを前方へ向けるが、そこにはまだ何も見えない。

「数は分かるか?」

「二、三体だな」

「……この通路で対応しよう」

 蒼は余命力で出来た小さな球体を取り出すと、それを前方へ転がした。

 暗闇の奥へと転がっていく光の球。それを餌のように、魂食を照明の届く範囲へと誘導する。

 ……

 ズッ

 ズズズッ……

 気配だけが近づいてくる。

 姿はまだ見えない。だが確実に、こちらへ向かっている。

 蒼は銃を構え、呼吸を整えた。

 ズズズッズズズッ――

「見えた」

 バンッ

 乾いた銃声と共に、先頭の魂食が消滅する。

 その背後から、残り二体が姿を現した。

 バンッ、バンッ

 二発の銃声。

 それで全てが終わった。

「前方の状況を確認してくれ」

 シロが一歩前に出て、感覚を研ぎ澄ませる。

「……気配はないな」

「よし、作業再開だ」

 再びケーブルを手に取り、作業を進める。

 そしてすぐに、次の空間へと足を踏み入れた。

 そこは先ほどよりも狭いが、一段低くなっている地形だった。

 蒼は縁に立ち、下を覗き込む。

「深いな……」

「そうだな」

 光の届かない下層は、底が見えないほどの暗闇に包まれている。

 蒼とシロは、その先の見えない空間を見下ろしながら、慎重に降りる方法を探り始めた。


 蒼は目の前に広がる深い空間へ、携帯用のライトを向けた。

「……光が届かない……」

 闇は、光を飲み込むようにどこまでも続いている。

 蒼は足元の小石を一つ拾い、静かに落とした。

 ――……

 ――………………

 ……コツン

「だいぶ深いな」

 想像以上の落下時間に、蒼は眉をひそめる。

 改めて周囲を照らすと、壁際に細い道があるのが見えた。

「壁際に細いけど、道があるな……」

 幅は人ひとりがやっと通れる程度。

 足を滑らせれば、そのまま闇の底へと落ちていくだろう。

「すぐそこに横穴があるな……」

 その細道は途中で横穴へと繋がっており、どうやら底までは続いていないようだった。

 だが――

(何か……呼んでいる様な気がする……)

 蒼はもう一度、底の見えない闇へ視線を向ける。

 そこから漂う異様な気配。

 引き寄せられるような感覚が、胸の奥をざわつかせる。

 だが、今は作業が優先だ。

「……行くぞ」

 蒼の身体にはロープが巻かれ、シロとしっかりと繋がれている。

 落下防止のための最低限の備え。

 細い道を一歩ずつ、慎重に進んでいく。

「狭いと作業がやりづらいな……」

 足場を確かめながら、壁にケーブルを這わせ、照明の設置を進める。

 手元の作業に集中しながらも、意識の一部は常にあの闇へ引き寄せられていた。

 やがて――

「……これで、終わりだ」

 細道での作業を終え、蒼は横穴へと足を踏み入れる。

 振り返れば、そこには相変わらず底の見えない闇。

 まるで意思を持つかのように、静かにこちらを見つめている。

 蒼は一瞬だけ視線を向け――

 そして、振り切るように前を向いた。

 後ろ髪を引かれる感覚を残したまま、蒼はさらに奥へと進んでいった。


 その後の作業は、驚くほど順調に進んだ。

 だが――魂食とは、一度も遭遇しなかった。

「十体だとしたら、地上で三体、ここで三体……まだ四体はいるってことだよな?」

「そうだな」

 淡々とした返答。

「クロの感知が間違ってるんじゃないのか?」

「ここじゃクロの通信は届かないから分からんな」

「クソッ! 滅入ってくるな……」

 蒼は吐き捨てるように言った。

 終わりの見えない単調な作業。

 常に張り詰める警戒。

 狭い通路と、逃げ場のない暗闇。

 精神をじわじわと削ってくる環境だった。

「単調作業と警戒による緊張、狭い通路に暗闇。だいぶストレスが溜まってきているな」

 シロが冷静に分析する。

「今日はここで終了だな」

「そうしてくれると助かるよ……」

 蒼は力なく答えた。

 特異体質で他の魂とは違うとはいえ、蒼の本質は変わらない。

 元々は普通の少年。

 余命力を消費し続ける体質と、度重なる戦闘によって今は青年の姿をしているが、その中身はまだ成長の途中だ。

「ふぅ……」

 小さく息を吐く。

 持ってきた資材をその場に置き、一行は来た道を戻り始めた。

 やがて、あの場所へと差しかかる。

 ――底の見えない深い空間。

「………」

 蒼は足を止めることなく、しかしわずかに視線を落とした。

「蒼、どうした?……底が気になるのか?」

 シロが問いかける。

「分からないが、呼ばれている気がするんだ……」

「呼ばれる……?」

「いや、そんな気がしているだけだ……」

「……」

 それ以上、シロは何も言わなかった。

 ただ静かに、蒼の隣を歩く。

 やがて二人は地下の入り口へと戻る。

 外へ出た瞬間――

「うっ……」

 強烈な光が目に突き刺さる。

 暗闇に慣れた視界には、あまりにも眩しい。

 だが、少しずつ目が慣れてくると――

 そこには、見慣れた荒野と、広い空が広がっていた。

「戻って来た……」

 蒼は小さく呟く。

 その顔には、地下で削られていた疲労の色が残りながらも、確かに安堵と、わずかな活力が戻っていた。

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