第1311話 13番目を探せ⑰器
次の日、兄さまは拍子抜けするぐらい、普段通りだった。
わたしに髪を結わせてくれて、終わればありがとうと微笑む。
鉄壁の〝いつも〟の仮面。
サブハウスで支度をしてから、ノエルの転移で第一大陸に。
拠点とするところにテントを建て、兄さまたちが集落に行ってくれる。
ノエルの転移で行くこともできるんだけど、そうすると驚かせてしまうだろうからね。
もふもふ軍団たちにはひと足先に、森に赤い木や沼がないかを見てもらうことにした。
覚悟を決めても、やはり瘴気は身体に辛い。わたしはノエルともふさまとテントの中に引きこもる。
「姉さま、ジョギさまって何者なんだろうね?」
大きなフクロウ。見たままの姿を思い浮かべ、言葉を飲み込む。
「姉さまは何か感じた?」
「感じた?」
ノエルに聞き返す。
「だって、結界を張れる方なんだよね。結構な広域を長い間」
あ、確かに力を持ったお方なのよね。それもずっと長い間。代替わりしてるのかな? それともずっと同じ方なのかしら?
『高位の魔物にしか思えないが、我もああいう結界をずっと張ることは難しい。たいしたヤツだ』
「高位の魔物?」
なんかさっきから聞き返してばっかりだ。
「あちらは、もふさまが森の主人さまってすぐにわかったみたいだった」
ってことはやっぱり力があるのよね。
「主人さまとジョギさまってどっちが偉いの?」
ノエル! なんてセンシティブな問題をさらりと無邪気に聞く!?
「ノ、ノエル。聖獣さまは比べるような対象な方じゃないわ」
もふさまはそっぽをむいた。
『この大陸の中において集落の希望であることは確かであろうが、我には高位の魔物にしか見えなかった』
わたしはノエルに通訳した。
「主人さまも、もふもふ軍団も静かだったよね? 姉さまに交渉を任せてた」
『それはそうだ。あやつの言葉は聞こえてこなかったからな』
「え? もふさまは聞こえなかったの?」
もふさまは当たり前というようにうなずく。
不思議顔のノエルに慌てて通訳。
『リディアにだけ、声が聞こえていたようだな』
そうだったんだ。ちょっと驚きだ。
「精霊の悠が瘴気で、第一大陸で。その瘴気で育った魔物の入れない結界を張れるジョギさま。悠さまのこと知ってそうだよね?」
ノエルもいろいろ考えてくれてる。
「わたしを精霊の加護を持つものかって言ったから、精霊のことは絶対に知ってる。悠のこと知ってるか聞いたら〝うむ〟って言ったし」
「レオたちも精霊の存在を知ってたんだよね?」
「あ、そっか。みんな水の玉に入った精霊を見て、精霊ってわかってたか。魔物は精霊の存在を知ってるってことかな」
「主人さまは精霊を知ってるんだよね?」
『もともと大地に根付いた聖霊は〝現象〟になっている。聖なる力を微かに感じ、地上にいるのだから精霊だろうと思った』
ノエルに通訳。
「じゃあさ、第一大陸はどう感じる?」
ノエルがもふさまに尋ねる。
『そうだな。特に聖力を感じたことはない。だから第一大陸が悠と聞いても、判別はつかない』
そうか、第一大陸に聖力を特には感じない、か。
もしかして見誤った!? 第一大陸は悠じゃない?
焦りながら通訳。
「悠も精霊だから聖力があるってこと?」
「ほら、神力と聖力を持ったのが精霊。けれど神留の結界に引っかからないように神力を取り除いたでしょ? 他の精霊は地上に降りてから女神さまたちの祝福で神力が戻ったけど、悠さまは祝福がなかったから神力が戻らなかった。だから聖力はお持ちのままのはずよ」
ノエルはふうんとうなずいてから
「でもさ。神力をなくしたなら神留の結界は通れるはずだよね? 神留の結界を無効化する必要なかったんじゃない? そしたら最後の女神さまが来るまで待って祝福を受けてから地上に降りればよかったのに」
ああ、ノエルはそう思ったのか。
「わたしは自分の魔力で実感しているから、その疑問は持たなかった。自分で紐づけて勝手に納得しちゃってたのね。
大雑把だけど、神力を取り除いたといっても根こそぎとったわけじゃないと思うの。なぜなら、女神さまの祝福が地上に降りてから効いて神力が育つというから」
「え? どういう意味?」
「うーーん、わかりにくいよね。
そうだ。神力は神力の器にしか入れられないの。
神留の結界は、神力をいくら少なくしても器があるかぎり反応してしまう。そして神力の器ごと失くすことができるのは創造神のみ」
そこまでわかったというようにノエルがうなずく。
「器を失くすことができるのも、器を作るのも創造神さましかできないことなんじゃないかな。だから精霊が大地に降りる時、器ごと失くしてしまったら女神の祝福があっても神力は育たない。
器はそのまま神力のみを空にした。器は残さないと。だから神留の結界を一瞬解除する必要があった」
「なるほど。器を失くしてしまえば神留には引っかからないけど、地上に降りてから神力がない状態のままになる。
ん? それなら結界を解除するなら、神力持ったままで良くない?」
「そこは勝手に思い込んじゃったんだけど。結界を解除しても空の器じゃないと通らなかったんじゃないかな?」
「うーん。そうか。まぁそういう二段構えの手段をとった意味は何かあったんだろうね。
でも今のと姉さまの魔力が、どこで実感することになるの?」
「ほら、人って魔力が枯渇すると命が危なくなるの知ってるでしょ?
アオがわたしの魔力を今管理してくれてる。
仮に魔力を失くすことは誰でもできることなのよ。〝枯渇〟の状態がそれよね?
でもそれだと命が危うくなる。
魔力を抜き取るのは特別な施設でやるみたいだし、アオがやってくれているのも魔力を単に移動させているのとは違うと思ったの。
それでね、魔力というのは魔力の器にしか入れられないものって仮定して。
魔力の枯渇っていうのは、器の中の魔力が少なくなること。
アオがしてくれるのは魔力の器ごと引き取ってくれていて、戻してくれる時は器ごとで、魔力の量も調節可能。器を残しておいて、魔力だけを移動もできるってことだと思うの」
ノエルはふんふんと何度もうなずく。
「文献で魔力を取り除いた場合、魔法は皆使えないけど、スキルやギフトを使える人と使えない人がいて不思議だと思った。
でも自分が魔力を取り除いてみて。魔力がある時より下がるけど聖力は使えるの。だから使えるスキルやギフトがあった人は、魔力とまた違う何かを使うスキルやギフトだったんじゃないかと思ったの」
ノエルが下を向く。
「ごめんね、姉さま。僕、今まで魔力を移動させることについてあまり考えてなかったみたいだ」
「それは当然よ。わたしも自分にかかわることだから、いろいろ考えただけだから」
わたしはニコッと笑って見せた。




