第1310話 アダム不在❽幸せの置き去り
フランツは少し目を細めた。それから少し哀しそうに笑って立ち上がる。
わたしの横で跪く。
そしてフランツに身体を向けたわたしの手をとり、その指先にキスをした。
「私は君の一番の幸せを望んでいる」
「……わたしだってそうだよ。フランツに幸せでいてほしい」
「でもそれは私だけじゃないよね?」
え?
「リディーにはいっぱい幸せにしたい人がいる」
「それはそうだけど、フランツは特別……」
「アダムも……特別だよね?」
フランツに遮られた。
「リディーは誰よりも幸せでいてほしい。でも、君が私以外を選んだ時に、君を手放せるか自信がない」
そう言って薄く笑う。
「わたしの行動がフランツを誤解させるようなものだったのね。ごめん。
アダムも確かに大切だけど……」
「リディア、この話はアダムの件が終わってからにしよう」
フランツがわたしの鼻の頭を指でツンと突く。
「リディーは気づくまでに時間がかかるから」
フランツはそう言ってわたしを軽くハグした。話を終わらせるためのハグ。
それから明日からの予定を話し、フランツは帰っていった。
なんだかモヤモヤした気持ちが残る。
わたしの言動が一般的じゃなくて、それでフランツを悩ませてる?
フランツの言う通り、アダムはちょっと特別だ。しわ寄せがくる同じ境遇というところも。それから出会い方の印象が悪かったので、わたしはアダムに対して酷い接し方をしてきたと思う。それでも嫌わずにいてくれてずっと助けてもらってきた。そのことに安心し、〝楽〟なんだと思う。
それが滲み出た行動が一般的な〝友達〟や〝仲間〟から離脱してた?
わたしはフランツを特別に想っている。それはずっと変わっていない。アイスブルーの瞳にいつもわたしが映っていればいいのにぐらい思ってる。
家族がその思いをみんな知っているから、そういう行動を見せるのを恥ずかしいとも思っている。動物的すぎるからやらないけど、態度で示すっていったらもふもふではないけれど、頬擦りとかしちゃうかもしれない。
フランツがもふもふだったら、もふさまみたいにいつも抱っこして、ぎゅっとしてその毛並みに顔を埋めるのに……ダメだ、わたし変態すぎる!
アダムのことももちろん好きだけど。でも出会ったときには、わたしにはフランツがいた。
『リディア、今日はこれからどうするのだ?』
もふさまに聞かれて現実に引き戻され、少し考える。
「みんな、ダンジョンの低層界に付き合ってくれる?」
『ダンジョン?』
『えー、低層? つまんない!』
「ごめん。魔力ゼロで挑む」
『えー、低層でもそれは危ないよ。リディアはトロいから』
『うん、鈍臭いから』
『うん、足遅い』
言いたい放題だね、君たち。
『でもなんでまたやる気になったのです?』
ベアが不思議そうに言った。
一応今までも魔力を少なくしてダンジョンに挑んだのも、わたし的には頑張っていたんだけど。やる気とまでは思われてなかったみたい。
深呼吸をする。
「わたし、みんなを幸せにしなくちゃ」
決意を込めて言ったのに、みんな揃って首をかしげてる。
……わたしを想ってくれるなら、それに応えないと。
わたしの憂いごとを全部自分にひっつけて離れて行こうとする誰かさん。
幸せの置き去りなんて許さない。
わたしも幸せになるけど、アダムも、みんなも幸せでないとわたしは幸せになれないから。
わたしにできること。
アダムを謀反人にさせないために、できることを全てやる。
そうしてみんなで幸せになってから、楽な関係を終わらせて、また違う関係を築こう。そのために。魔法なしでも少しでも強くなっておかなければ。
わたしが魔力をなくしたと公表し、本当は預けているだけのことは、バッカス戦で、威力を発揮するはずだから。
しっかり魔力がなくなった、わたしで生き残らないといけない。
魔力がなくても強いわたしでないといけない。
アダムが作ってくれた勝ち筋を見逃してはいけない。
アダムの処罰の取引はロサが引き受けてくれてる。
わたしたちはアダムと偽アンドレ殿下が別人と思い込む必要がある。
全てが終わった後にアダムに帰る場所をとっておくことにもなるし。
わたしたちは謀反は許さない、ロサ王太子を支持し続ける。
アダムが実はこちら側ということがわかったら、アダムの生死が危ぶまれる。
ユオブリアを敵とする敵の中に、ただひとりでいるのだから。
両頬をパチンと手で叩くとみんながすっごくびっくりしてる。
「どうしたでち?」
「気合いを入れたの!」
「気合い?」
「みんなでなるよ、幸せに!」
『幸せに?』
「そう。乗り越えた先に幸せはあるものだから」
ひとりだけ先に突っ走ってしまった仲間。彼のすることが無駄にならないようサポートしつつ、みんなで生き残る算段を立てる。
わたしに直接関係してくるだろう、ベルゼやバッカスとの戦いにも勝たなくちゃ。その前に悠のことをみつけないとだし。
やるべきことはいっぱいある。
そしてわたしたちはみんなで幸せになるのだ。




