第1307話 アダム不在❻検証(後編)
「初めはモンティス公に話を持ちかけられたんだろう」
ロサがポツリと言う。
「あいつはそれを利用しようと思った」
目を伏せたままダニエルが口にする。
「謀反を起こせば、国内、国外の反ユオブリア勢力を釣り上げることができる」
イザークも目を伏せている。
「謀反者にしかならないじゃない!」
わたしが感情的な声をあげると、やるせない目をした。
リュックの中からもふもふ軍団が出てきて、テーブルの上に乗った。
もふさまがわたしの足の上に足をそっと置く。
わたしはもふさまを抱きあげる。
わたしも椅子に座った。
ダニエルが動いて紅茶を入れてくれた。お礼を言ってひとくちいただく。
もふさまともふもふ軍団のためにお水とお菓子をテーブルの上に。
もふもふ軍団はみんなの顔を気にしながらも、お菓子の山に手を出した。
みんな同じ推測をしていた。
そう、アダムは思いついてしまった。
謀反を起こすとなれば、便乗してくるものが出てくる。そんな勢力が顔を出す。
反ユオブリアの勢力を釣り上げることができる。
けれど、国のためにやったとしても、過ぎれば謀反者としてしか残らない。
謀反者の行く末は……。
「いろいろと思うことはあるけど、もう動き出してしまっている」
ロサの固い声。
「だとしたら、俺たちのできることは……?」
ブライはいつも前向きだ。
「国内、国外の反勢力が食いつきやすくなるように振る舞うこと」
ダニエルが答える。
「アダムの邪魔をしないこと」
ルシオが自分に言い聞かせるように言った。
「アダムの生き残る手立てを見つけること」
兄さまが決意の込めた声を出す。
誰も疑っていない。
アダムが王になりたいと思っているとも思わないし。
アダムがモンティス公に唆されるままになっているとも思わない。
最初のきっかけはモンティス公だとしても、アダムはそれに乗った。利用しようと思った。
「でもなぜ最初にガゴチを制圧したんだろう?」
イザークが首を傾げる。
アオがみんなにもお菓子を運んでいたので、イザークは手に渡されたタルト菓子を頬張った。
アオが嬉しそうにしている。
「謀反だからこそ、外国に拠点を置きたかったのもあるだろうし。
バッカス対策かもしれない。バッカスの脅威となる何かを探ろうとしているんじゃないかな?」
ダニエルにはチョコだった。ダニエルも話してからそれを口に入れる。
そうだ。バッカスはガゴチに何かを感じているようだったから。
「アダムの邪魔をしないこと。具体的にどうすることかわかる、リディー?」
兄さまに言われて顔を上げる。
「邪魔をしないのよね? ……外国のことだし邪魔のしようもないと思うんだけど」
「リディー、この場合邪魔をしないということは表向きアダムと敵対するということだ」
……そうだ!
アダムが疑われたら、謀反人で捕まる前に何が起こるかわからない。
「アダムはそのために、私たちには一言も話さなかったんだ」
もふもふ軍団がわたしよりガビーンと効果音が出そうな顔をしている。
「敵対することが、アダムを守ることにもなる」
ロサも自分に言い聞かせるように言ってクッキーをかじった。
「リディア嬢のところに神聖国なんちゃらが来たんだったよな?」
ブライに言われてうなずく。
「アダムがリディア嬢を巻き込もうとするはずないから、先走った何かだろう。神聖国には〝女王〟信仰が残っているようだから、何かしら名前のあがったことがあるリディア嬢を手にしていればと思ったんじゃないかな?」
イザークのアダムがわたしを巻き込もうとするはずないという言葉が胸にくる。
「これからアンドレ殿下の名で君を呼び寄せようとするものがいたら、それは絶対に嘘だ。アダムが君を巻き込むことはない。だから騙されないように。お遣いさま、みんなも頼んだよ」
ロサに言われて、もふもふ軍団は決意を込めてうなずいている。
「これからユオブリアは世界中から背を向けられる」
え?
「お国事情で、大陸違いの国を制圧するほど、はっちゃけているからな」
「自分たちの国にどう被害が及ぶかわからないから、距離を置こうとするだろうね」
そっか。自分の国がターゲットになったらたまらないものね。
「同時に、お国事情で揺れている間に、ユオブリアをどうにかしてしまおうとする国も出てくるかもしれない。辺境はこれから人の出入りを厳しくするだろう」
「これを機に貴族たちの立ち位置がわかるようになる」
「貴族たちの立ち位置?」
尋ねるとダニエルがうなずいた。
「現ユオブリアの継続を望むものは今の貴族社会の繋がりを強くしようとするだろう。現ユオブリアに反するものは、アンドレ殿下の新勢力か、揺れている時に侵略しようとする外国勢につくか。恐らくアダムが全部まとめると思うけどね」
アダムがまとめる?
「ユオブリアの中は見た目はとても静かになるだろう」
「そうだね。今動くとどう思われるからわからない。だから牽制しあう。とても穏やかで安全な学園生活が送れるよ、リディア嬢」
急にアダムの言葉が蘇る。
『君はもうすぐ学園に通えるようになる』
このことだったの?
『世論はどんどん更新されていくから。君にばかり興味を持たないよ』
わたしはテーブルに肘をつき、額を押さえた。
「どうしたら、アダムは謀反者にならずに生き残れる?」
誰かに頭を撫でられた。
「アダムと現アンドレ殿下を名乗る者を同一視しないこと。全てがうまくいき、ユオブリアがアダムの思惑通りに守られ、その先に逃げられるところがあったらそこだろうな。もちろん陛下との話し合いは不可欠だけど……」
「陛下には私から話す」
ロサが力強く言った。
「アダムと現アンドレ殿下を同一視しない……」
「そして現ユオブリアを支持し、現アンドレ殿下の勢力を謀反と思うこと。できるね?」
兄さまに言われて、わたしは何度もうなずいた。




