第248話 アメリカ
U-18W杯の決勝を迎え、1回表はアメリカの攻撃。1番がバントヒットで出塁すると、3塁まで進んで、2番バッターも自分が生き残るスクイズを行なった。
……この流れは、非常に不味い。即座に日本もサードを守備の良い広沢さんに代えたけど、別に内河さんの守備が悪かった訳じゃ無いからあの1番2番のバントヒットを防ぐのは難しいかも。
そしてその2番も3塁まで進んで、アメリカの3番は芳田さんのナックルを外野まで運ぶ。2球、しっかりと見ただけで芳田さんのナックルを外野まで運べるって凄いね。その球を私がキャッチして、バックホームを行なう。犠牲フライというのは、3塁ランナーの足が速ければ定位置だとまずアウトに出来ない。
犠牲フライで3塁ランナーをアウトにするための重要な条件は3つ。外野手の捕ってから投げるまでの動作が早いこと。速い球を投げられるよりも、コントロール良く投げられること。捕手が捕球してからタッチまでの動作で、タイムロスしないこと。
今回、私は矢のような送球を大橋さんに対して行なった。ノーバウンドでそれを捕った大橋さんは、滑り込んで来る3塁ランナーに対してタッチしようとするも、躱されてしまう。タイミング的にはアウトだったけど、捕手と3塁ランナーのセンスの差で日本はさらに1点を失った。
しかしランナーがいなくなってから、4番5番は連続でファーストゴロに打ち取る芳田さん。バッティング的には、あの3番の人が一番ミートの上手い打者だね。まあアメリカなら3番に最強バッターを置くのも珍しくないというか、主流だし当然か。
2対0で、1回裏の日本の攻撃を迎える。アメリカの先発としてマウンドに登るのは、大方の予想を裏切ってMAX147キロのザラさんだ。今までクローザーとして起用して来たザラさんを、先発に据えた理由なんて1つしかない。
序盤で、確実にアメリカは優位に立ちたかったんだ。それと短期決戦の基本的な戦略として、良い駒を後先考えずに出すというのも一つの手だと思う。
「最強の投手がオープナーって……でも、戦略的にはありなのよね?」
「まあね。1回表は間違いなく1番良い打線になるんだから、そこを抑えるためのオープナーは決して間違いじゃないよ。延長戦とかでも、基本的には良い投手から使っていくしね」
今日はベンチスタートの真凡ちゃんと一緒に、最前列でザラさんの投球練習を見学。投球練習で軽々と141キロを出されると、藤波さんや大槻さんの立つ瀬がない。
……今までは1試合2イニングだったけど、別に今日も2イニング投げると確定しているわけじゃ無い。体格的にスタミナはありそうだし、3回まで投げるという可能性ももちろんある。この回の日本の打線は赤石さん裕香ちゃん山村さんの3人だけど、見事な三者凡退だった。
「4番の前に出てよー」
「うるさい。あんなの打てないわよ。
……146キロで、しかも動くのよ?それをヒットコースに打てただけでも自分を褒めたいわ」
セカンドゴロに倒れた裕香ちゃんが言うには、速球がツーシームっぽい変化もしているらしい。ビデオだと確認出来なかったけど、打席に立つと分かる感じかな。
1回の攻防が終わって、2対0と2点差。2回表のアメリカの攻撃は、ツーアウトから8番がヒットを打つも、9番がピッチャーフライに倒れる。
……芳田さんのナックルに、バットを当てられる選手が多すぎる。打者一巡したのに、空振り三振をしたのが6番バッターだけなのはもはや怖いぐらい。
それでも、2回は無失点に抑えたのだからナックルは通用していると思いたい。だけど、3回表はまたあの1番2番からか。
あの2人、アメリカのセカンドとショートを守っているけど、裕香ちゃんと赤石さんの二遊間より格段に守備範囲が広い。それは足の速さも理由の一つだけど、初動がとにかく速くてバッターが打つ前から動いている。100発100中だから当て勘じゃなくて、経験則だろうね。
2回裏の攻撃は、私からだ。ザラさんの投球を見ているとホームランは打て無さそうだけど、真ん中に来たらワンチャンスあるかな。もしツーシームっぽい球を投げてくれるなら、私の持つ過去のイメージと合致するかも重要になる。
ザラさんは私を凝視した後、初球からストライクゾーンに速球を投げ込んで来る。球速表示は145キロだから、今世で見て来た球の中では1番速い。
……そして、前世を含めても上位に位置する速さだ。だけど球筋は今の一球で掴めた。結構、似ているものだったしね。
2球目も同じ速球が来たので振りに行く。1球目とほぼ同じコースに来たため、バットには当たった。しかし振り抜いた時、手ごたえは感じなかった。
ボールは、高く上がる。アメリカ代表のセンターは少し後退し、手を上げ立ち止まった。




