第247.5話 世間の注目
U-18W杯の決勝戦。日本対アメリカの試合が行なわれるということで、湘東学園野球部の面子は食堂に集まって試合の観戦を始めた。食堂にある巨大なプロジェクター用スクリーンに、テレビ画面が映し出される。
「……真凡さんは、外されたんですか」
「決勝の舞台で、スタメンじゃないというのは悔しいでしょうね。たぶん、パワーのある白木さんを優先させたかったのだと思います」
「岡沢監督は、パワーこそ正義みたいな人だからね。ただ、代打で真凡ちゃんをいつでも使えるというのは利点かもしれないよ」
スタメンの名前に伊藤の名前が無いことに江渕は落胆し、春谷は伊藤の気持ちを察する。今日のスタメンのレフトには城西高校の4番の白木が、DHには昨日の試合を決定付けた本城が選ばれた。
アメリカ戦 U18W杯日本代表 スターティングメンバー
1番 二塁手 赤石(山梨学園・3年)
2番 遊撃手 荻野(宝徳学園・2年)
3番 一塁手 山村(履陰社・3年)
4番 中堅手 実松(湘東学園・2年)
5番 右翼手 大村(大阪桐正・3年)
6番 DH 本城(湘東学園・3年)
7番 左翼手 白木(城西高校・3年)
8番 捕手 大橋(和泉大川越・3年)
9番 三塁手 内河(履陰社・3年)
投手 芳田(多久大光陵・3年)
3番から7番まで、パワーのある打者が並ぶ。DH制である以上、代打を出す機会は少ないが、それでも伊藤が代打で出る可能性はあるはずだと梅村は言った。
試合はアメリカの先攻で始まる。マウンドに登るのは、多久大光陵の芳田。千葉のナックル姫という愛称は、いつの間にか日本のナックル姫に変わっていた。
『今日の日本の先発は、ドミニカ戦以来の先発となる芳田です。捕球することすら難しい芳田のナックルは、アメリカ打線に通用するのでしょうか。その芳田の球を受けるキャッチャーは、和泉大川越の大橋、ファーストは履陰社の4番の…………』
「私のナックルとは、雲泥の差だね」
「流石に、取得して1年も経ってないナックルとナックルに人生を賭けた人のナックルを比較するのは失礼だと思うよ?」
「でも、最近は7割ぐらいの確率で決まってません?」
「残りの3割もナックルとして変化しないと、実戦では使い辛い球だよ。3割の確率でただのスローボールが真ん中に行くのは、怖すぎるし」
解説者が各ポジション毎に映っている選手の紹介を始め、最初に芳田がアップして映される。投球練習でもナックルを投げる芳田を見て、西野は自身のナックルと比較をし、まだまだ追い付いていないと言う。
そんな西野を揶揄う梅村と、フォローする春谷。西野のナックルは現状、7割の確率でナックルとして決まるが、3割の確率でただのスローボールとなってしまう。またナックルとしての変化量も大きくはなく、梅村は使い辛さも感じていた。
しかしそれでも西野はナックルを使いたいと言い、それを梅村は否定しなかった。
『センターを守るのは、もちろんカノンです。ここまで大会打率は脅威の10割。もしもこの試合でも全打席安打を達成すれば、永久に塗り替えられない打率記録を樹立することになります』
「カノン先輩、本当にアンタッチャブルレコードを樹立しそうだよね」
「この試合、全打席凡退しても9割切らないからアンタッチャブルレコードだよ。
カノン先輩以外に、こんなこと出来ないでしょ」
「それもそうか。
本城先輩も調子良さそうだし、日本が勝つかもね」
2年生組のすぐ近くに座る木南はカノンの記録について触れ、勝本はそれに突っ込む。既に大会本塁打記録は大きく更新しており、予選を通じて打率は10割。過去に打率が9割台の打者は居なかったことから、大会MVPは確実視されている。
試合が開始され、アメリカの先頭バッターは早速バントの構えをとった。初回から、アメリカは手を打ったことになる。
芳田のナックルに対し、スリーバントを強行するアメリカの1番。三度目のバントで、ようやくフェアゾーンにボールを転がす。当然、分かり切ったセーフティバントが成功する訳もない、はずだった。
サードの内河は、バスターのことも考え極端な前進こそ無かったが、かなりの前進守備で、素早くバントの球を処理し、ファーストに投げている。それでも、1塁は微妙なタイミングだった。そして審判の判定は、セーフ。
「……はっや。あの巨体で、何であんなに素早いんだろうね」
「一歩毎の歩幅が、違うからだと思いますよ。
今の1塁までの秒数、4秒は確実に切ってますね。3.7秒ぐらいですか」
「……ヤバ過ぎでしょ。3塁まで盗塁されるとして、ホームスチールまであり得るね」
あまりの速さに、梅村は素直に驚き、春谷は冷静に1塁到達タイムを計る。その後は梅村の予想通り2塁3塁への盗塁を行ない、アメリカはスクイズを敢行する。
スクイズの打球を手早く処理した芳田は、大橋の指示で1塁へと送球する。芳田も元から1塁へ送球するつもりであり、ロスはほとんど無かった。しかしながら、1塁はセーフ。
1点を先制され、なおもノーアウトランナー1塁となり、それは2球でノーアウトランナー3塁となる。今までの豪快な攻めとは違い、バントを駆使した攻勢に日本代表達はアメリカの本気を感じていた。




