憧れの始まり
リキシアがノクスと一緒に部屋で休んでいると扉を叩く音が聞こえた。
「、、、はい、どうぞ」
その返事に応えるように開かれた扉の向こうにはエレナが微笑んで立っていた。
「あ、エレナさん! どうかされましたか?」
「昨日話していた本、持ってきましたよ。この世界の構造について書かれたものです」
そう言ってエレナが一冊の本を手渡してくる。
「あ、早速用意してくれたんですね!ありがとうございます!」
笑顔でそう答えると、その本を受け取った。表紙には、【星と世界】と書いてある。
「星と世界、ですか。なんだか、素敵な題名ですね、、、」
「ふふ、そうでしょう? きっとリキシアさんなら、楽しめると思いますよ。是非、じっくり読んでみてください」
「はい!」
「それでは、私はこれで失礼しますね。どうぞ、ごゆっくり」
読み始めるのが待ちきれないと言うように目を輝かせるリキシアを見て、エレナは微笑みながら部屋を後にした。
それからしばらくの間、リキシアは休むのも忘れてその本を読んでいた。
そんな彼女の足元では、ノクスが少し退屈そうに丸まっている。
「面白い、、、」
文字を目で追いながら、そう呟く。
その本には、興味深いことがたくさん書いていた。
この世界の周りには、『星界』と呼ばれるとても大きな世界が広がっていること。
『星界』は数多の星と世界を内包しており、魔界や精霊界もまたその一つであること。
夜になると頭上に煌めくあの星空こそ、『星界』そのものであること。
そして、この世界ではまだ誰もそこに行ったことがないこと。
読み進めていくうちに、リキシアの目が一層輝いていく。
「たくさんの星と、世界、、、。 まだ知らない景色、、、」
一瞬、リキシアの目が窓の外へと向いた。
ふと、前世の世界での記憶が蘇る。
孤児院の仲間と近くの森へ探検に出かけた記憶。
町の外まで少し遠出して外でご飯を食べて笑い合った記憶。
遊びに行った海で見た、どこまでも続くような水の空間の記憶。
それは、未知と旅への憧れの記憶。
そして最後に頭に浮かんだのは、毎日のように見上げていた星空の記憶。
病気でベッドの上から動けなくなった後も、窓から毎日それを見上げるのが数少ない楽しみだった。
星空を見上げるその習慣は、この世界に来た後もずっと続いていた。
「、、、行ってみたいな」
さらに読み進めていく。
最後のページを捲ったリキシアの瞳に、一つの文章が飛び込む。
【これは、遥か昔から語り継がれる星と世界の話。今ではこの世界の常識で、それでも誰も確かめたことのない世界の真理。それは、かつてこの世界を訪れた一人の旅人が語ったとされる物語。その旅人は、星界と数多の世界を旅する星界の住人であったと語られている】
「、、、世界を旅する旅人」
本を静かに閉じると、まだ星も見えない明るい空に目を向ける。
「良いなぁ。 私も、いつか、、、、」
それは彼女の『魂』に、新たな憧れが刻まれた瞬間だった。
立ち上がって窓を開けた彼女の銀の髪を、朝の優しい風がふわりと巻き上げる。
少し細めた彼女の瞳は、生まれたばかりの憧れに、夜空に煌めく星のように輝いていた。
そんな彼女の様子と、二つの琥珀の瞳がじっと見つめていた、、、




