第五話 秘密基地と結界と
「おお……秘密基地にするには立地も見た目も、かなり良い物件じゃないか!?」
「秘密基地! たしかにそうですな首領!」
街を出ると地図を頼りに森を北に進み、しばらくして現れた屋敷はかなり大きく、よくこんな場所に豪華な屋敷を立てたものだと感心する。
物資を運び建てた職人たちの苦労を思いつつ、鉄門を開けて中に入る。
中庭は元は手入れが行き届いていたと分かるが、今や普通の森と変わらない感じになっていた。
屋敷の玄関扉を開けて中に入ると、薄暗く陰鬱な雰囲気が漂っていた。
「……埃っぽい以外も妙な気配がしますな。とりあえず窓をすべて開けて陽の光を入れましょう」
フェンリの提案に頷き、素早く屋敷の窓をすべて開け放つ。
「首領! 外を見てください!」
エントランスに戻った瞬間、二階からフェンリの緊迫した声が聞こえ、急いで駆け上がる。
彼が指さした方向の窓の外を見ると、そこには虎の顔をもっと厳つくした、ランゴダという猛獣が群れを成して現れていた。
ーあれはこの屋敷を根城にしていた獣よ
ふいに少女の声が聞こえ、フェンリを見ると彼も聞こえたのか目を丸くし、なぜかこちらの背中に飛びついてくる。
ー驚かせてごめんなさい。でも安心して? 私はあなたの敵じゃないわ。だってあなたは魔王を倒してくれた人だもの。
「ひ、ひぃ!」
怯えるフェンリの声に吹き出しそうになりつつ、声の主は恐らくこの屋敷の最後の主である少女だろう、そう思って心の中で住むことの許可を求める。
ー問題ないわよ。なんでここにいるのか分からないけど、私はもう死んでるし、あんな獣たちに住みつかれるより万倍マシだわ。
許可がもらえて良かったと返しつつ、あの獣たちをどうするか考えていたが、なぜか彼らは中に入ろうとしても入れずにいた。
少女に心の中で問うと
ーなぜか今までなかった結界が張られてる。この力の源は……あなたみたいよ?
そう返され驚く。
俺にそんな力はないはずだと思ったものの、ふとイマガモノ国の結界が頭を過る。
まさかあれも俺の力なのだろうか。
だとすれば俺が去ったことで国が壊滅状態になった、というのも納得がいく。
「首領、あなたがあのイマガモノ国の結界を張っていたのですか!?」
背中に張り付いていたフェンリは離れると、目を輝かせてそう聞いてくる。
そうらしいなと答えたところ、なぜか天井を見て震えていた。
「ま、まさか首領があの伝説の勇者、コージ・イチハラだとは知りませんでした! お姿が伝わっているものと違ったので気付かず失礼しました!」
「人間の姿は手配書のように、元味方ですらあいまいだからこの姿でいるんだ。それにしてもあの獣をなんとかしないと」
結界があるので入ってこれないとはいえ、このまま粘られるとうっとうしい。
寄り付かないよう教育してくると伝えると、フェンリが自分がやりますと言ってきた。
「よせ。まだ左腕の怪我も完治してないんだ。お前は俺の大切な仲間だからな。治ったら存分に力を発揮してもらうよ」
「しゅ、首領……!」
感激するフェンリを置いて二階から降り、屋敷を出てランゴダの群れに突っ込む。
動きのチェックも済んでいたことで、イメージ通りに体は動く。
そう時間もかからず群れを撃退し、逃げる彼らを追わずに屋敷に戻った。
「首領! お疲れさまでした!」
屋敷に入るとフェンリが、斜め四十五度方向へ両拳を上げ少し頭を下げ出迎える。
あのポーズ何回もやられるとちょっとウザいかもと思いつつ、これからどうするかと言うと
「屋敷を治しつつ食料確保をするのがよろしいかと。それにしてもイマガモノ国の連中、首領のおかげで今まで持っていたにもかかわらず、指名手配するなど無礼にもほどがありますな!」
そう憤っていた。
俺としてはもう関わりたくないので、積極的に何かする気はないが、向かってくるなら追い払うまでだと答える。
「そうですね。向かってくることを考えて迎撃態勢も整えましょう。ジーンの街の荒くれ者たちの中に、一人見覚えのあるやつがいたのでスカウトしてみましょう」
迎撃態勢を整えるのはやりすぎではないかと思ったが、指名手配されているのであれば必要かと納得する。
スカウトするにしてもうちには今資金も無いし、待遇もよくできないので来ないのではないかと問う。
「問題ありません首領。お化けが怖くはありますが、こんなに良い屋敷を持っていて住める、というのであればそれだけでかなり良い条件です」
自信をもってフェンリは答えた。
嘘偽りなく現状を離したうえで、それでも仲間になってくれるなら入ってもらおう、そう返すと心得ましたと言ってまたポーズをとる。
―—一方その頃、コージの居たイマガモノ国では行きつく暇もない攻防が繰り広げられていた。
「何をしているのです! さっさと前に出なさいよ前に!」
「はっ!」
城から見下ろす町では煙があちこち上がり、敵の多さを物語っていた。
魔王を倒した英雄である姫は城の真上から水晶を片手に、全軍に指示を出していたが戦況は押され始めている。
「セウト! なぜ結界は直らないのだ!? あれさえあれば魔族の残党など恐るるに足らんというのに!」
「は、はっ! 王よ、我々神官も手を尽くしているのですが……」
「手を尽くしているなんてどうでもいいから、早く結界を戻しなさいよ! 今すぐに! 何してんのよアンタ! アイツを捨ててアンタを拾ってやったのを忘れたの!?」
青筋を立てながらセウトを責める王と姫、そしてそれを膝を着き俯きながら目を閉じセウト。
戦況が押されたくらいで持っていたのは現場の兵士の踏ん張りだ、というのは後の記録で明らかになる。
空のみが清々しい青さを広げているのは、とても皮肉である。
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第六話は18時過ぎに投稿します。
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