第六話 街への買い出しと新しき仲間
―—ところ戻って屋敷では、イマガモノ国の喧騒をよそに、買い出しの準備をコージたちは始めていた。
「食料調達や屋敷の補修のための素材を見に町へ行ってくるよ……えっと君の名前は」
―アリサよ。改めてよろしくねコージ。
「こちらこそよろしくアリサ。じゃあ買い出しに行ってくるから留守番よろしくね」
そう言って俺たちはジーンの街へと向かうことにする。
「首領、見つけました」
町に戻ると嫌そうな顔で兵士の荷物チェックを受けて中に入る。
商店で修繕の素材を見ていたところ、フェンリがそう耳打ちしてきたので、素材を見るのをやめて頷く。
どんな人物かと思い店を出たが、その男はとても目立ちすぐわかった。
人間の見た目をしているのに、二メートル以上あるのに筋骨隆々、背中に大きな棍棒を背負い歩いていた。
「アイツは人間じゃありません。人狼ってやつです。だから人間たちからも避けられて、街を渡り歩き小銭を稼いで暮らしているはずです。種族は違いますが元が同じ狼の血統なので知っています」
それを聞いて仲間にしたくなった。
俺たちと同じ境遇なら、彼も仲間になりやすいだろう。
なるべく気付かれないように後をつけていくが、徐々に人気のないところへ行くのを見るに、こちらが尾行しているのに気付いているのだろう。
ある程度広さのある人気のない公園にくると、振り向いてこちらを見ながら背中の棍棒を引き抜いた。
「……何か用か?」
「久しぶりだな王牙」
「フェンリか……そいつはなんだ?」
「俺がお仕えするコージ首領だ」
「人間に仕える? 正気か? 軟弱な人間に仕えるとは犬か? お前は」
「なんだと……?」
食って掛かろうとするフェンリを押し留め前に出る。
「俺とやる気ならやめておけ人間。人間ごときじゃ話にならない」
「あいにくと俺の仲間を侮辱されて、呑気にやるほど優しくないんでね。殺せるものなら殺してみろ、デカブツ」
手招きをしたところ人狼に変化し、迷いなくこちらを殺そうと棍棒を振り下ろしてくる。
腕のみを変身させその一撃を受け止めたが、足元の土がへこみ強い言葉を使うだけあるなと感心した。
「な、なんだお前は……なぜ俺の一撃を受けて何事もなくいられる!?」
「何事もなくいられるだけじゃないぜ……そらよ!」
驚く相手に対しそう告げて棍棒を押し返す。
「ば、馬鹿な!?」
「じゃあ今度はこっちの番だな」
よろける相手を見逃さず、素早く間合いを詰めて腹へ蹴りを入れ、前屈みになった瞬間、顎へ向けて右アッパーをぶち当てる。
「うご!?」
人間状態で変身をしていなくとも、このクラスの強者相手に通じる、という経験を得られてよかった。
相手は堪らず前のめりに倒れこんできたので、後ろへ飛びのく。
「人狼状態の俺を圧倒するなんて……化け物かお前!」
「ああすまなかったな、人間状態での加減が分からなくてやりすぎたよ。お前も十分化け物だ。良かったらお前が化け物だという俺の仲間にならないか? アジトはこれから改修しなきゃならないし、仲間はフェンリとアリサだけだが」
「さすが首領、懐の深さに改めてこのフェンリ感服いたしますぞ! ってアリサとは誰ですか?」
斜め四十五度方向へ両拳を上げ少し頭を下げ、フェンリルは感激していたものの、アリサのことが気になったのかフェンリは怯えたような声で聞く。
聞こえていたのに聞こえないふりとは、よほどアリサが怖いらしい。
そこには言及せずに倒れる王牙の近くに行き、体を起こして壁に寄りかかれるようにした。
「俺は化け物だが良いのか、と聞こうと思ったが、俺の親分が化け物なら何も問題ないな」
「ああそうだ。よろしく頼むぞ王牙。あとで事情は説明するが、仲間内以外ではコージロウで通してくれ」
手を差し出すと王牙は回復したのか、俺の手を握り返してくる。
王牙の回復を待ってからと思ったが、彼はすぐに立ち上がり行きましょうと促してくる。
無理するなというも、なぜかすぐに回復できたので大丈夫ですという。
先ほどまでと違い敬語になっているのが気になるが、本人の好きにさせようと考え大通りへ戻った。
とりあえず今日の食料だけ確保し、屋敷に戻ると
「おいフェンリ、なんだこれ」
「なんだこれとはなんだ」
「神の結界のようなものが張られてるぞ……こんなの俺達には通れない」
大仰に言って驚愕する王牙に対し、フェンリは鼻で笑って我先に結界を通り屋敷の中へと歩いていく。
「ば、馬鹿な……」
「多分大丈夫だ。来ると良い」
王牙にそう告げて先に中へ入り、彼が来るのを待つ。
おっかなびっくり入ってきたもののやはり何もなかった。
ーコージが張ったんだから仲間なら無事に決まってるわよ
「ひ、ひぃ!? どこから声がするんだ!?」
屋敷に入ってアリサに向けただいまを言うと、アリサはお帰りという前にそう言った。
フェンリと王牙は勇猛果敢な戦士にもかかわらず、幽霊がダメらしく俺の背中へしがみ付いてくる。
ーよろしくね新人。私はコージの一番の仲間で、この屋敷の最後の主の幽霊アリサよ
「ゆ、幽霊すら味方にするとは、コージ首領あなたは本物の化け物だ……」
「一番の仲間は俺のはずなのに……」
ーフェンリ、何か言った?
「な、なんでもありません! 話しかけないでください!」
声で凄まれたフェンリは頭を抱え地面に突っ伏す。
「もはや何の迷いもない……神のごとき結界を張れ、且つ幽霊まで仲間にするとはこの王牙、首領のために命を懸けて働き申す!」
王牙は震えながら背中から離れ、フェンリが先ほどしたポーズを思い出したのか、同じように斜め四十五度方向へ両拳を上げ少し頭を下げながら叫んだ。
このままこのポーズが定着すると悪の組織になっちゃうな、と心配しつつ、嫌じゃないなら良いかとスルーして夕食を取り就寝した。
―—こうして穏やかな夜が過ぎていく中、森の境界線には、半壊した国から放たれた『トカゲの影』が確実に忍び寄りつつあったのだった。
第六話をお読みいただきありがとうございます。
第七話は18時過ぎに投稿を予定しています。
続きが気になると思ってくださった方は、ぜひブックマークの登録や評価をよろしくお願いいたします。




