第二話 特撮オタクと獣人
町の近くで活動するとまた来る可能性が高い。
聖都からなるべく離れようと考えながら歩き、辺りが暗くなったところで野宿することにした。
少し開けた場所を見つけて薪を集め、改造されたことで手に入れた、念じると火が出せる能力を使って薪に火をつけた。
思えば戦闘では手っ取り早く変身してしまうのだが、とにかく目立つので今後は控えた方がいいだろう。
戦うとなった場合自分の体のみだ。
焚火の近くに立ち左右の拳を突き出す。
次に蹴りも交ぜたコンビネーションを出してみる。
俺は特撮以外の趣味でキックボクシングを二十年続けていた。
中学生の時に不良たちにカツアゲされた際、助けてもらった人がキックボクサーだったのだ。
それを切っ掛けにジムに通い始めた。
公園での自主練ではヒーローの動きを真似ていたのも懐かしい。
「人生一からやり直しは最高だ! 元の年齢だったら痛くなったものが、どう動いても痛くならない!」
拳を突き出すたびに唸り風を起こし、周囲の雑草をなぎ倒し木を揺らした。
通常状態では戦っていなかったので、今やってみて二十歳の素晴らしさを実感する。
「チッ……どこだここは」
静かな森に突然何者かの声が聞こえてくる。
行き来する整備された道ではなく、草木を分けて歩いてくることからして追手か逃亡者だろう。
ゆっくり立ち上がり、音のする方向とは逆へ移動し木の陰に隠れる。
「……なんでこんなところに焚火が?」
現れたのは狼の獣人だったが、身に着けている防具はボロボロで左腕を怪我していた。
「グォオオオオ!」
「クソッ! まだ追いかけてきやがったのか!」
焚火に近づいた狼の獣人を追って、後ろから黒に白い模様の虎が三匹現れる。
よく三匹相手にあの程度の怪我で済んだなと感心しつつ、ヒーローは弱い者の味方なので助けるため飛び出した。
「おい、後ろに下がってろ」
「な、なんだ人間! お前ごときが敵う相手じゃないどっか行ってろ!」
「左腕をやられたお前よりマシだ。さっさと下がれ邪魔だ」
狼の獣人は絶望し諦めたような顔をしている。
少し前の自分も同じようにしょげていたと思うと、気恥しくなり獣人の襟首をつかんで後ろへ放り投げた。
「ば、馬鹿かお前! 素手でソイツらと渡り合えるわけない! 」
「うるせぇな……しょぼくれたワン公みたいな顔した奴に言われたくねぇ!」
ギャーギャーうるさい奴に俺が抗議した隙を突き、虎が1匹襲い掛かってくる。
気配で察し直ぐに向き直ると、口を開けていたので左右のフックを顔に浴びせ、顎目掛けて右膝蹴りをかます。
「キャイイイン!」
一匹倒れたのを見て、残りの二匹は仲間を置いて一目散に逃げだした。
深追いせず倒れた虎を確認すると息絶えていたので埋めて弔う。
「な、なんて奴だ……獣人の俺ですら怪我を負わされた相手をあっさりやりやがった!」
以前なら倒せなかった虎も、改造後の今なら人間状態でキックボクシングを使えば倒せる。
とはいえモンスターもいる世の中で、この先一人で行動するのは危険が多い。
命を助けたのも何かの縁。
ここはひとつダメ元で仲間に引き入れてみるか。
「おいお前、腹を割って話そう。仲間にならないか?」
「喜んで!」
「……え?」
「一族を放逐され虎どもに襲われ、助けてもらわなければ死んでいた。救われた相手に付き従うのは当然のこと!」
随分あっさり受け入れ不審に思ったが、一族を追放されたと聞いて納得する。
種族単位で固まるのが基本なこの世界のこの時代、追放された者は生き辛いのが現状だ。
似た者同士かと思うと小さな笑みがこぼれる。
「よろしい、ならば付いてくるがいい! 君は怪人ぽいから返事をする時、斜め四十五度方向へ両拳を上げ、少し頭を下げて返事をするのだ!」
「こ、こうですか? ……あれ、なんだか体から力があふれてきたような」
恐らく勘違いだろうが嫌ではないようなので、数回練習して就寝した。
―—一方その頃、コージが離れた聖都は結界が破壊され魔族の襲撃を受けていた。
「くそっ! 魔王を倒した俺たちに歯向かうのか魔族ども!」
「強欲竜のコージがいなけりゃ、お前たちなんて怖くもねぇよ! 北門はもう破壊して周辺も壊滅し始めたじゃねーか!」
セウトは城へ戻り兵を率い急襲した魔族と戦っていたが、コージがいないことを魔族は知っていたことに驚愕する。
王様も姫たちも自らコージを追い出したのに半狂乱になり、指示が出せず代理を務めていたセウトは奮闘したが疲弊していた。
「セウト様、おさがりください」
「な、なんだ君は」
セウトが後ろを見ると修道女のような恰好をした女性がおり、その女性は自分は姫の侍女だという。
その人物が手に持った杭を向けると魔族は逃げ去っていく。
「あ、ありがとう助かった!」
「いえいえとんでもありません、姫様の魔法のアイテムによるものですので……まだ魔族はいますから頑張って退けてくださいね」
慌ただしい中で違和感を確かめるすべもなく、ただ救われたとだけセウトや兵士たちは覚える。
「フフ……」
侍女はそれを見透かしたかのように笑い、城の中へと去っていった。
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