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「クラスのギャル、放課後は喫茶店で不器用マスターやってます。」  作者: 路地裏の猫


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19/23

十七杯目:佐伯莉愛の場合

「四組は、どんな様子だ?」


「……何も決まってません。体育祭の練習で手一杯です」


 定期文化委員集会、今日で二回目。  

 前回の集会で、この独裁者めいた生徒会長が無理難題を吹っかけてくれたおかげで、私たちは底なしの泥沼に叩き落されている。


 ただでさえ体育祭の準備や部活で忙しいっていうのに、文化祭までこの調子じゃ体が持たない。


 ……まあ、うちはまだマシな方か。


 神崎がいるからコネは利くし、予算や場所はどうにでもなる。  

 本当にしんどいのは、頼れる看板がいない他のクラスの方だろう。


 なぜ、この生徒会長はあんなテーマを選んだのか。

 正直、理解に苦しむ。  

 学園を盛り上げるため?

 それとも、単なる独りよがりの実験?


「そうか。次、五組はどうだ?」


 如月会長は「そうか」の一言でこちらの進捗を切り捨て、事務的に次のクラスへと視線を移す。


 私は隠す気もさらさらなく、不機嫌さを顔に出してやった。  

 すると、心なしかあの自信過剰な男の口角が、ほんの少しだけ上がった気がした。   


 煽ってるのか、あいつ。    


 文化祭自体は、最悪力技でなんとかなると思っている。  

 けれど、問題は山積みだ。    

 内容が白紙なのもそうだけど、何より……。  


 白河がいない。


 風邪を引いたとかなんとか言っているけれど、あの放課後、九条に追い詰められていたあいつの様子を思い出すと、額面通りに受け取る気にはなれない。  

 あいつのあの怯えきった、絶望したような目。

 あれが単なる体調不良で見せる顔なわけがない。

 あいつがどうなろうとうちの知ったことじゃない。  

 けれど、少しは残された側の迷惑も考えてほしいものだ。  

 二人で一組の委員なんだから。


「――以上だ。解散する」


 如月会長が淡々と集会を締めくくった。  

 中身があるようでないような時間をやり過ごし、気づいた時には会議室に椅子の引く音が響いていた。


「……さて、部活行きますか」


 凝り固まった肩を回しながら、大きく背伸びをする。  

 私は重い腰を上げ、冷え切った空気の会議室を後にした。


 部活の時間。  

 バスケ部だ。  

 なんとなくで始めたスポーツだけど、嫌いじゃない。  

 点は面白いように取れるし、練習もそれなりに楽しい。


 ……走るのだけは、死ぬほどめんどくさいけど。


 私は、何でもそれなりに上手くこなすことができる。  

 勉強だってスポーツだって、適当にコツさえ掴めば平均点以上は余裕で取れる。


 周りからは努力家にでも見えているみたいだけど、そんなことはない。  

 私はただ、適当なだけだ。


 「適当人間」――その言葉以上に、自分に似合う肩書きなんてないと思っている。

 そういう意味で言うと、白河は結構な「真面目人間」なんだと思う。  

 初めてまともに話したあの帰り道、あいつは喫茶店で勉強しているなんて言っていた。


 ……まあ、それが本当なら、の話だけど。


 私は、まだ信じちゃいない。  

 あの男は、絶対に何か嘘を吐いている。  

 あの時感じた違和感、そして九条が指摘した「隠し事」。  

 そのパズルのピースが埋まらない限り、私はあいつを「クラスメイト」としてすら、本当の意味で認識できない気がする。


「莉愛! 今来たんだね」


 声をかけてきたのは、キャプテンの雨宮あまみや 美優みゆ先輩。  

 バスケに対して病的なまでに真摯で、入部した時から「全国制覇」を掲げているような熱い人。  

 ……正直、私とは一番性格が合わないタイプだろう。  

 でも、嫌いじゃない。

 嘘がないから。


「はい。委員会が長引いて、遅れました」  


「そっかー、お疲れ様! 無理しなくていいから、自分のペースで合流してね。じゃあ、また後で!」


「ありがとうございます」


 嵐のように去っていった先輩の背中を見送り、私は部室のドアを閉める。  

 練習着に着替え、バッシュの紐を締め直して体育館へと向かう。


 体育館の扉を開けると、ボールが弾む重低音と、誰かの鋭い叫び声が鼓膜を震わせた。  私はその熱気に身を投じながら、心のどこかで、未だに「既読」から動かないスマホの画面を思い出していた。

 胸の奥で、冷たく澄んだ好奇心が静かに波紋を広げていく。  

 私は歩みを止め、寄せては返す波の音に耳を澄ませた。


 琥珀は、ああ見えて直感の鋭い子だ。

 自分が「面白い」と思ったものには、例えそれが道端の石ころであっても全力で飛びつく。

 そんな彼女が、クラスの背景に徹していたはずの白河にあれほど執着している。  

 もし、白河奏という男に、あの無機質な仮面の裏側に、琥珀を惹きつけるだけの「何か」があるのだとしたら。

 そして、あの九条怜が、あんなにも剥き出しの執念を持ってあいつを追い詰めていたのだとしたら。


「……面白くない。私だけが、何も知らないなんて」


 適当に、完璧に。

 それが私の処世術だったはずなのに。  

 今、私の心を支配しているのは、計算違いのノイズに対する苛立ちに近い探究心だった。


 白河は嘘を吐いている。

 それはもう、私の中では確信に近い。  

 でも、もしその嘘が、彼一人のものではなく――琥珀や、あるいは他の誰かと共有されているものだとしたら?


 学校、喫茶店、放課後の教室。  

 断片的な情報が、頭の中でジグソーパズルのように組み合わさろうとして、決定的な一平ピースが足りずに崩れ落ちる。


 私はスマホを取り出し、依然として動きのないグループLINEの画面を眺めた。  

 「既読」の文字。  

 その向こう側で、あいつは今、どんな顔をして闇を見つめているんだろう。  

 震えていたあの声。あの絶望。


「……明日も休みだったら、流石に笑えないんだけど」


 私は再び歩き出す。

 バッグが、歩調に合わせて重たく揺れた。  

 明日になれば、何かが動く。  

 体育祭の練習、止まったままの文化祭の話し合い、そして、不自然なほど静まり返ったあいつの席。


 はるか遠くから来る海風が、群青色の髪を激しくなびかせる。  

 私は無意識に、あいつとぶつかったあの角を曲がる時、いつもより少しだけ、足元を確かめるように強く踏みしめていた。



皆様のおかげでランキングランクインすることができました。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

最後にいつも読んでいただいてる皆様、本当にありがとうございます!

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