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「クラスのギャル、放課後は喫茶店で不器用マスターやってます。」  作者: 路地裏の猫


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13/14

十一杯目:「……よし! それじゃあ決まりだね。僕が必ず勝利へ導くから、みんなはドーンと構えていていいよ」

 神崎に相談する。

 その方針が決まった直後、俺はある重大な事実に気づいて身を震わせていた。


 ……待てよ。俺、神崎と一度も喋ったことなくね?


 神崎は、周知の通りクラスの頂点に君臨する男だ。

 文武両道、顔面偏差値は超進学校レベル、性格まで良いという、非の打ち所がないパーフェクトヒューマン。  

 対する俺は、菊池以外とまともに会話した記憶すら怪しい。

 そんな俺が、いきなり神崎の輪に飛び込むなんて実感が湧かない。

 というか、もはや恐怖ですらある。

 いっそ佐伯に全投げした方がいいんじゃないか?


「……なあ、佐伯」


「何?」


「その……なんだ。神崎なら、本当に何とかなるのか?」


 正直、まだ半信半疑だ。

 神崎が噂通りの『コネ』を持っているのかも、俺は知らない。

 ……とは言っても、他に代案があるわけでもない。

 結局のところ、俺は佐伯の判断に乗っかるしかないのだ。


「聞いてみなきゃわかんないでしょ。でも、動かなきゃ何も始まらないよ」


「それはそうだけども……」


 教室に辿り着いた俺たちは、意を決して扉を開けた。  

 視界に飛び込んできたのは、いつもの光景。

 教室の中心で、『一軍グループ』が固まって談笑している。  

 何を話しているのかは分からないが、そこだけスポットライトが当たっているかのように眩しい。


「あ、莉愛じゃん! お疲れー、会議どうだった?」


 帰ってきた佐伯に気づいた一ノ瀬が、ぱぁっと顔を輝かせて駆け寄ってくる。

 ……一応、俺もいるんだけどな、という寂しい感想は、そっと心の奥にしまっておくことにした。


「どうもこうも、ちょっと面倒なことになった」


 佐伯は呆れたように首を振る。

 その声を合図に、他のメンバーも磁石に吸い寄せられるように集まってきた。


「面倒って、あの生徒会長が何かしたの?」


 九条が、探るような視線を佐伯に向ける。


「そう、生徒会長がね……。な、白河」


「えっ! あ、ああ。そうだな」


 いきなり話を振られるなんて微塵も考えていなかった俺は、情けないほど間抜けな声を返してしまった。


「早速で悪いんだけど、相談があるの。神崎、聞き……」


 佐伯が本題を切り出そうとしたその時。

 無情にも授業開始のチャイムが鳴り響き、それと同時に担任の浅野先生が教室に滑り込んできた。


「おい、チャイムが聞こえなかったのか? お喋りはそこまでだ。早く席に着け」


「ごめーん、花ちゃん!」


「『花ちゃん』はやめろと何度言えばわかる、一ノ瀬。いいから座れ」


 一軍の華やかな空気は一瞬で霧散し、俺たちはそれぞれの席へと戻る。  

 教卓の前に立った浅野先生は、出席簿を叩いてクラス全員を見渡した。


「今日は体育祭についてだ。……山波やまなみ、説明しろ」


「あいよ。――いいかお前ら。知っての通り、俺たちは『勝ち』だけを奪いに行くぞ」


 前に出てきた体育委員、山波の第一声がそれだった。  

 冗談で言っているようには見えない。

 奴の瞳は、まるで本物の炎が灯っているかのようにメラメラと燃え盛っていた。


「改めてルールを説明するぞ。今年はいつも通り――」

 星城海原体育祭。  

 この学園の体育祭は、前にも触れた通り、外部の巨大スタジアムを貸し切って行われる。  ルールは至ってシンプル。

 種目ごとの順位によるポイント制で争う、学年別クラス対抗戦だ。

 つまり、山波の宣言は「二年生の中でぶっちぎりの一位を獲る」という決意表明に他ならない。

 種目は多岐にわたる。

 徒競走や綱引きといった王道競技はもちろん、サッカーや野球といった球技種目が、毎年ランダムで一つ「団体競技」として選出されるのが通例だ。


「今年はなんだか知らねえが、前倒しでやるらしい。文化祭の準備期間を確保するためとか何とか。……いいか、俺たちは当然、文化祭でも頂点を獲りに行く。だが、まずは目の前の体育祭だ! で、今年の競技だが――」


 少し驚いた。  

 てっきり力押ししか考えない脳筋野郎かと思っていたが、山波は文化祭まで見据えて、クラスの士気をコントロールしようとしている。意外にも、視野の広い男らしい。  

 続けて、山波が黒板に力強い筆致で文字を書き殴っていく。


「……以上が今年の競技一覧だ。よく見てくれ」


 黒板には、予想通りのラインナップが並んでいた。  

 基本は去年とほぼ同じ。

 唯一の不確定要素だった団体競技も、発表されたそれは――。


「俺は勝てると踏んでいる。それも同学年どころか、全学年でぶっちぎりの総合一位だ」


 豪語する山波だが、その自信には裏打ちされた根拠があった。

 それもそのはずだ。  

 今年の団体競技に選ばれたのは――。


「……サッカーだ。この競技が選ばれた時点で、勝機は十分にあると俺は踏んでいる」


 この団体競技だけは、例年全学年合同で行われる。

 普通なら体格や経験で勝る三年生には敵わないはずだが、ことサッカーに関しては話が別だ。


「俺は戦術だの采配だの、そんな小難しいことは何も知らねえ。だから九条、助けてもらってもいいか?」


「……」


 腕を組み、鋭い視線で黒板を見つめていた九条が、一拍置いてから不敵に微笑んだ。


「仕方ないなー。僕に任せて!」


 こいつらの尊敬できるところは、自分の限界を認め、躊躇わずに助けを呼べるところだ。 そして、その求めに全力で応える信頼関係が、このグループには確立されている。


「さて! それじゃあ、まずは個人競技から決めていこう。希望がある人はどんどん言って!」


「はいはい! 私、走ります!」


九条が言い終わるかどうかのタイミングで、一ノ瀬が自信満々に挙手した。


「おっけー。『百メートル走』でいい?」


「うん、大丈夫! あ、それからリレーのメンバーにも入れといて!」


「了解。任せたよ」


 九条がさらさらと名前を書き込んでいく。

 その後も次々と希望者が手を挙げ、黒板の空白はみるみるうちに埋まっていった。  

 迷いのない采配、そして誰もが納得する決定。

 それほどまでに九条の人望は厚く、同時にクラスメイトから深く信頼されているのだ。


「残るは団体競技と、男女混合リレーか……」


 黒板に残された数少ない空欄を見つめ、九条が深く腕を組む。  

 無理もない。

 この二種目は他の競技に比べて配点が極めて高く、総合優勝を狙うなら、勝利――それも圧倒的な大差での一着が至上命題となるからだ。


「うん。……ここからは、僕が独断で決めてもいいかな。僕のプランなら、勝てる自信があるんだ」


 凄まじい自信だ。  

 普通なら、反発や異論の一つくらい出てもおかしくない場面。

 だが、教室のどこからも声は上がらない。

 クラス全員が、九条という人間の判断に全幅の信頼を寄せているのだ。  

 ……そして、その「全員」の中には、もちろん俺も含まれている。


「まずは団体競技。メンバーは――」


 淀みのない手つきで、九条が黒板に名前を書き連ねていく。  神崎や山波を筆頭に、現役のサッカー部員たち、そして身体能力の高い他部のエース級。  

 前後半で男女が入れ替わるルールのため、女子も選出される。そこには一ノ瀬や佐伯の名もあった。

 ……よかった、俺の名前はないな

 ふと、物語にありがちな「なぜか主役が抜擢される」というお約束の展開を危惧していた俺は、心底から安堵の吐息を漏らした。


「異論がないなら、リレーのメンバーを決めるけどいいかな?」


 クラスから反対意見が出るはずもなかった。  

 当然、俺もその一人だ。

 サッカーという過酷な運動から解放された俺は、心の中で大大大賛成の意を表明していた。


「よし。次はリレーだね。僕の計算上、最も勝率が高いメンバーは――これだ」


 九条の手が動き、黒板に名前が刻まれていく。そのたびに、クラスが一瞬どよめいた。

 そこに並んだのは――。  

 『一ノ瀬』、『神崎』、『佐伯』、『山波』、『水野』。

 クラスの精鋭、一軍のオールスター。

 誰の目から見ても文句なしの布陣だ。  

 だが、最後に書き加えられた名前を見た瞬間、教室の空気は凍りついた。


 『白河』。


「…………え?」


 そこには、間違いなく俺の名前があった。  

 予想だにしない名前に、クラスメイトたちがざわつき始める。

 俺自身、真っ先に自分の目を疑った。  

 何度も目をこすり、夢でも見ているんじゃないかと現実逃避を試みる。

 何度見直しても、黒板に書かれた白亜の文字は無情にも俺を指し示していた。


 だが、九条の瞳は至って真剣だった。  

 それは冗談でも温情でもない、本気で勝利を奪いにいく者の目だ。  

 クラスに広がる戸惑いを一喝するように、彼は言葉を紡ぐ。


「僕のシミュレーションによれば、この六人が最も勝率が高い。このメンバーなら、一位どころか学園記録すら狙えるはずだよ」


 ……いやいや、無理ですよ九条くん。計算ミスじゃないですか?


 俺は必死に九条の顔を凝視し、激しく首を振って「不可能だ」という意思表示をした。  しかし、九条はそんな俺の視線を受け止めると、ただニコリと……どこか慈愛に満ちた、けれど拒絶を許さない完璧な笑顔を返し、再び前を向いた。


「意見がなければこれでいこうと思うけれど……何か、ある?」


 教室の温度が、数度下がったような気がした。  

 穏やかな声色だが、その奥には「僕の判断に間違いはない」という、絶対的な自信に裏打ちされた圧が含まれている。  

 その含みを感じ取ったのか、騒がしかったクラスが一瞬で静まり返った。


「……よし! それじゃあ決まりだね。僕が必ず勝利へ導くから、みんなはドーンと構えていていいよ」


 先ほどまでの底知れない威圧感はどこへやら。

 九条はいつもの「優しくて人当たりのいい九条」に戻って微笑んでいた。


「あ、それとリレーのメンバーはこのまま残ってね。走る順番を決めちゃいたいから」


 その一言で、クラスの体育祭会議は終わりを告げた。

 俺の「平穏な生活」の終わりと共に。


―――――――――――――――――――――――――



「怜、あの場では言わなかったが……本気なんだな?」


 放課後。

 夕日が差し込み、オレンジ色に染まった静かな教室。  

 誰もが抱いていた疑問を、神崎が真っ直ぐに九条へぶつけた。  

 流石は神崎だ。

 あの九条の空気に物怖じせず踏み込めるのは、クラス広しといえど、こいつか山波くらいだろう。


「俺も蓮と同意見だ。俺たちは別にいいが……流石に白河が可哀想じゃないか?」


 予想通り、山波も眉を寄せて続く。

 

 そう、それだよ! 俺、めちゃくちゃ可哀想だよね!?


「……? 二人とも、何が問題なの?」


 九条は何が問題なのか本当に理解していないようで、きょとんとした顔で首を傾げた。  学園トップクラスの頭脳を持ちながら、時折、こういう「常人とのズレ」を見せるのが九条怜という男だ。


「何がって……。おい白河、お前自身はどうなんだ? 大丈夫なのか?」


「っ! お、俺? 俺は……」


 振られた問いに、声が詰まる。  

 正直に言えば、嫌だなんてレベルじゃない。

 絶対にやりたくない。  

 体育祭の目玉中の目玉、最も注目を浴びる競技に俺が出る? 

 しかも、クラスを象徴するキラキラした一軍軍団の中に混ざって?  

 無理だ。 絶対にできない。

 それに――。


「……正直、不安しかない。俺なんかが神崎たちと並んで走る姿なんて想像できないし、何より似合わないと……思うんだ」


「似合わないなんて、俺たちは一度も思ってないぞ。ただ、嫌がる奴に無理やり走らせるのは、やり方として違うだろって話だ」


 神崎の言葉に、俺は少しだけ驚いた。  

 こいつらは、俺が混ざること自体には何の拒否感も持っていないらしい。

 それどころか、俺の意思が無視されていることを純粋に心配してくれている。


「そうだよ、白河くん! 嫌なら嫌って、ちゃんと言わないとダメだよ?」


 水野が、祈るように両手を合わせて声をかけてくれる。

 後光が差して見える。

 女神か。


「……嫌っていうか、俺でいいのかなって気持ちの方が強いんだ。足を引っ張るのが確定してるようなもんだし」


 クラス全体が本気で勝ちを狙いに行っている。

 そんな中で、俺という異分子が『足かせ』になることだけは、どうしても避けたかった。


 ……本当は、お前らのキラキラした輪に混ざる自信がないだけだってのは、死んでも言えないけどな


「足を引っ張る? ――白河くん、どうしてそう思うの?」


 九条が、探るような、けれど澄んだ瞳で俺の目を覗き込んできた。


「どうしてって……」


 さっきも言った通りだ。

 俺がそこにいる姿が想像できない。

 足を引っ張りたくない。  

 言葉にできない、漠然とした拒絶感が胸に渦巻く。


「……分からないけど、なんとなくそう思うんだ」


「僕は、そうは思わないな。君は僕のプランにおける、欠かせないラストピースだ。君が入ることで、僕たちのチームは初めて完成し、勝つことができる。……これじゃ、理由にならないかな?」


 九条の視線は、ひたすら真っ直ぐに俺を射抜いていた。

 その確信に満ちた言葉が、俺の心の奥底まで浸透してくるような錯覚に陥る。


「私も、怜君と同意見だよ。白河は、絶対に必要だと思う」


九条に続いて賛同の声を上げたのは――一ノ瀬だった。


「……一ノ瀬」


「白河君は、いざという時に頼りになるって私知ってるし! 根拠はないけど、私は大賛成だよ!」


 夕日に照らされて、自信満々に笑う一ノ瀬。  

 その瞬間、初めて彼女が少しだけ――本当にかすかだが、格好よく見えた。  

 いや、まだだ。

 俺はあいつの『素』のズボラさを知っている。

 今回ばかりは特別に、一ノ瀬の好感度リストに少しだけプラス点を与えてやることにした。


「いや、俺たちは別に白河が混ざることに異論はないんだ。ただ、大丈夫なのかと思って……」


「ありがとう、神崎。……わかったよ。九条や一ノ瀬がそこまで言ってくれて、やらないなんて言えないだろ。やるよ。やらせてくれ」


 俺が腹を括ると、九条は待っていましたと言わんばかりに表情を輝かせた。


「ありがとう、白河くん。じゃあ、さっそく順番の相談に移ろう。僕のシミュレーションでおすすめのオーダーはこれだ」


 九条が手元のノートにさらさらと書き込んだ順番は、以下の通りだった。

第一走:佐伯さえき 莉愛りあ

第二走:山波やまなみ 大河たいが

第三走:水野みずの 日葵ひまり

第四走:神崎かんざき れん

第五走:一ノいちのせ 琥珀こはく

第六走:白河しらかわ かなで


「……俺がアンカー!? 九条、本気で言ってるのか?」


 あまりに無茶苦茶な配置に、思わず声が裏返る。

 だが、九条は至って真面目な顔で「うん」と短く答えた。


 ……いや『うん』じゃなくて! 心臓止まるかと思ったわ!


「一応、意図を聞いてもいいか、怜」


 絶句する俺に代わって、神崎が冷静に先を促す。


「もちろんだよ。まず一走の佐伯さんと、二走の大河。この二人で、後続に影も踏ませないほどぶち抜いてもらう。学園トップクラスの瞬発力を持つ二人なら、可能だよね?」


 佐伯はバスケ部の絶対的エース。

 その運動神経は疑いようがない。

 山波もまた、天性の身体能力でねじ伏せるタイプだ。  

 この二人のロケットスタートによる『先行逃げ切り』の布陣には、俺も納得せざるを得なかった。


「次に、三走の水野さんと四走の蓮でさらにリードを広げてもらう。二人は極めて安定感のあるオールラウンダーだ。ここで中盤の『絶対的な安心感』を盤面に置く」


 神崎のスペックは言わずもがな。

 意外だったのは水野さんだ。

 彼女は控えめな性格に反して、実は運動神経も抜群。

 まさに隙のない、真の優等生というわけだ。


「で、おそらくみんなが疑問に思っているであろう五走と六走……ここだけは、この二人以外にありえない。他の四人は状況に応じて順番を入れ替えてもいいけれど、ここだけは絶対に譲れないんだ」


「……えーっと。九条、その理由を聞いてもいいか?」


 俺はどうしても理由が知りたかった。  

 数多の精鋭がいる中で、なぜ俺が選ばれたのか。

 なぜアンカーなのか。  

 あの九条怜が、ここまで断言する根拠。  

 彼が常に論理的で、常に正解を導き出してきた男だと知っているからこそ、俺は彼が提示する『納得』を求めた。


「うーんとね。……勘かな?」


「は……?」



 一瞬、思考が停止した。  

 てっきり、どれほど緻密で、どれほど鮮やかな戦略が飛び出すのかと身構えていた。   

 あの九条だ。

 膨大なデータを処理し、完璧な理屈に則って判断を下し、必ず結果を出す。

 その姿を何度も見てきたし、信頼もしている。

 だからこそ――俺は、その『勘』の一言に、梯子を外されたような感覚に陥った。

 返ってきたのは『勘』という、あまりにも無責任な一言だった。  

 信じられなかった。

 あの合理主義の塊のような九条が、根拠もなく判断を下すなんて。


「おいおい怜。流石に『勘』はないだろ」


 俺と同じく、神崎も疑念を隠しきれないようだ。  

 俺が選ばれた理由すら不透明なのに、その上、走順まで直感で決めたと言われては、いくら親友同士の関係値でも首を縦には振れない。


「そ、そうだよ。白河くんも、流石に納得できないよね?」


「あ、ああ。水野さんの言う通り、俺もせめて理由くらいは……」


「本当に勘だよ。……でも、僕の勘は外れない。そうだろう? 僕を信じて。もし負けたら、好きなだけ僕を罵ってくれて構わないから」


「罵るなんて、そんなことしないけど……」


 九条の瞳は、微塵も揺らいでいなかった。  

 そこにあるのは、言葉の軽さとは正反対の、絶対的な勝利を確信した者の色。


「……はぁ。そこまで怜が言うなら、乗らないわけにはいかないな。怜はこうなったら絶対に折れないんだ。みんな、これでいこう。白河、いいか?」


「あ、ああ……」


 俺は頷くしかなかった。  

 神崎が折れるほどの九条の執念、そして期待に満ちたその眼差しを向けられて、否定できるほど俺の心臓は強くなかった。


「よし! ひとまずこれで決定だ。練習はどうする? いつから集まる?」


「じゃあ、リレー用のグループ作っちゃうね! 私、招待送るから!」


 一ノ瀬が待機していたかのようにスマホを取り出し、慣れた手つきで画面を叩く。

 「できたから確認してー」と、屈託のない笑顔でスマホを差し出してきた。


 夕日が差し込む教室で、手元のスマホが震える。

 そこに表示された「リレー選抜メンバー」というグループ名は、今の俺にはあまりにも不釣り合いで、眩しすぎた。


「……はぁ」


 一ノ瀬に言われるままに参加ボタンを押し、画面に並んだアイコンを眺める。

 神崎、九条、山波、佐伯、水野、そして一ノ瀬。

  どこをどう切り取っても、この学園を代表するようなスターたちが、一つのタイムラインに集結している。

 そこに俺の名前がポツンと混ざっている光景は、まるで精巧に作られたコラージュ画像のようで、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。


 本当に、やるのか……俺が?


 顔を上げると、窓の外はさらに赤みを増し、教室の隅々まで濃いオレンジ色の影を落としていた。

 放課後の静寂が、今はこれから始まる嵐の前の静けさのように、俺の肌をチリチリと焼く。


 不安は、消えない。

  むしろ、腹を括ったことで、その形はより鮮明に、より重く俺の胸に居座っていた。


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