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第7話 優しさと違和感

 結局その日の稽古は、そのまま終了となった。

 暁さんはあの後ずっと険しい様子で、俺と目を合わせてくれない。

 そんなに怒らせてしまったのだろうかと、俺は気が気じゃなかった。


 家に帰ってからも、悶々とする。

 そこで、何が切っ掛けで暁さんを不機嫌にさせてしまったのか、冷静に分析してみることにした。


 まず考えられる理由は、俺の演技が下手だったことだろうか。

 取り分けキスは、演出家にも言われた通り、俺自身お世辞にも上手く出来たとは思っていない。

 拙い、子供のようなキスだった。魔性の男のするようなキスでは到底ないだろう。


 他に考えられる理由があるとすれば、演技とは関係ないところで怒らせてしまったのだろうか。

 あのとき俺が言った「ドーナツの味でした」が気持ち悪かったのかも知れない。

 それならアレは、「違うだろ、もう一度確認してみろ」のキスだったのだろうか。


 でも暁さんは、ドーナツ好きだしな。そんなことで怒るとは思えない。

 分からない。俺は腕を組んで頭を悩ませる。

 確信を得られるような理由は思い当たらないけれど、俺が原因で不機嫌になってしまったことだけは、間違いなかった。


 俺はスマホを取り出すと、暁さんへメッセージを送る。

 「今日の稽古、すみませんでした」と送信するが、何が悪いか分かっていない謝罪は、逆効果だっただろうか。

 でも、謝らないよりはマシだろう。


 俺は暫くの間スマホを見つめて待ってみるが、俺の送ったメッセージが既読になることはなかった。

 もしかしたら、暁さんはもう休んでいるかも知れない。

 俺はどうにか前向きに捉えようと思いながら、スマホを裏にしてテーブルへ置く。


 明日稽古場で、ちゃんと理由を聞いて、もう一度謝ろう。

 俺はそう心に決めるけれど、どこか胸の中の不安は消えないまま、風呂へ入ろうと立ち上がった。


 洗面所の前で、鏡の中の自分と向かい合う。

 すると俺は無意識に、自分の唇を見つめていた。


 今日、俺はキスをしたのだ。この唇で、暁さんとキスをした。

 そう思いながら、無意識に自分の唇に指先で触れる。

 しかし俺は、ハッとすると首を横に振った。


 違う。キスをしたのはヴァルドとルカだ。

 俺と暁さんがキスをした。と表現するのは、ちょっと語弊がある気もする。

 だって俺たちのキスは、演技のキスだ。お互い、キスがしようと思ってしたわけではない。

 ヴァルドとルカがキスをした。という『演技』をしたに過ぎない。


 けれど俺は、ふと2回目のキスを思い出す。

 俺のお粗末なキスの後、演出家のゴーが出る前に、暁さんは俺にキスをしてきた。

 台詞も無い、強引なキス。


 あれは、演技と呼べるのだろうか。


 そんなことを考え始めると、俺はだんだん顔が熱くなってくる。

 いや、演技だろう。アクティングエリアにいたのだから。周りに、あんなに大勢の人がいたのだから。

 演技じゃなかったら、なんだったと言うのか。


 俺は、あのときの色気を纏った暁さんの顔を思い出すと、だんだん顔が熱くなってくる。

 プロの俳優は、凄い。色気まで自由自在なんだ。

 俺は顔の熱を冷まそうと、蛇口から水を出して冷水で顔を洗った。

 あんまり、変なことを考えないようにしよう。暁さんは演技でやっているのだから、そこに私情を抱くのはきっと失礼だ。


 そうして俺は、悶々としたまま風呂へ入る。

 けれどシャワーを浴び終えて俺がスマホを見ても、やはり送ったメッセージに既読はついていないのだった。





 俺は、酷い顔色で翌日の稽古場へ来ていた。

 ほとんど寝られなかった。暁さんから返事はないし、既読にもならない。

 気にしないようにしようとスマホを閉じてベッドへ入っても、気になって10分おきにスマホを確認してしまう。


 そうして気がつけば、外が明るくなり始めていた。

 しかも未だに、暁さんへ送ったメッセージは既読になっていない。

 誰よりも早く稽古場へ来ている俺の顔色を見て、ユウキさんと霞鳥さんは心配してくれる。

 けれど俺は、気にしないでくださいと笑って、ストレッチしながら暁さんが来るのを待っていた。


 すると、いつもより少し遅れて、暁さんが稽古場へ姿を現す。

 俺は真っ先に立ち上がると、暁さんの方へ駆け寄った。


「お、おはようございます! あの……」

「ああ、鳴海。おはよう」


 暁さんは俺に、いつも通りの笑顔を向けてくれた。

 優しくて、愛情のたっぷりこもった、作り物の笑顔。


 いつも通りで、俺は少し身体が強張る。

 それでもどうにか、続きを言葉にした。


「メッセージでも伝えたんですが、昨日……上手くできなくてすみませんでした」

「メッセージ? ああ、ごめん。スマホ全然見てなかった」

「え……」

「それに、上手くできないのはお互い様だろ。今日の稽古も、頑張ろうな」




 ――嘘だ。




 俺は、嘘だと分かってしまう。

 だって、暁さんの演技が好きだから。本音なのか、演技で言っている言葉なのか、手に取るようにわかる。


 スマホを見ていなかったなんて、嘘。

 俺に笑いかけてくれるのも、優しい言葉を掛けてくれるのも、全部演技だ。


 暁さんは、俺の隣を通り過ぎる。

 完璧な、演技。だって本心から俺を想ってくれるなら、真っ先に俺の顔色が悪いことを心配するはずだ。

 ユウキさんと霞鳥さんが、そうしてくれたように。


 俺は、直接暁さんに謝れば、胸のモヤモヤが解消されると思っていた。

 でも実際は、直接会って話してもただ気分が沈むばかりだ。


 俺はあまり集中できないまま、午前の稽古に参加する。

 幸いにも、午前中は俺の出るシーンの稽古はほとんどなかったので、どうにか乗り切ることが出来た。


 しかし昼休憩の時間になると、俺は意を決して立ち上がる。

 なんとなく、昼はいつも俺とユウキさん、暁さんと霞鳥さんで別々でランチを食べに行っていた。

 そうしようと決めたわけではなく、非喫煙者と喫煙者で自然と別れたイメージだ。

 ランチの店を選ぶ際、そこが重要になることもある。


 けれど俺は、昼休憩へ行こうとしている暁さんと霞鳥さんの前に立ち塞がった。

 不思議そうにしている二人に、俺は少し低い声でこう提案する。




「すみません暁さん、今日は一緒にランチへ行きませんか……二人きりで」




 俺の提案に、暁さんの作り物の笑顔の、口角がピクッと反応する。

 一方で、霞鳥さんは意地悪な顔で暁さんの背中を叩いた。


「やったねタッキー! いつもタッキーから一方的にアプローチしてたけど、とうとうナルくんから誘ってくれたじゃん!」

「……」

「よかったね〜。友達として、タッキーが片想い拗らせちゃうの心配してたんだよ、俺は! どうしたの、嬉しくないの?」

「……嬉しいよ」


 そう言う暁さんの声は、不機嫌を隠しきれていないほど、低く暗い。

 俺は少し息を呑むけれど、ここで怯んでいられなかった。


「それじゃあ行きましょう!」

「……ああ」


 そうして俺たちは、一緒に稽古場を出る。

 そんな俺たちを、霞鳥さんは悪い顔で笑いながら、ユウキさんは心配そうな表情で見送ってくれるのだった。





「……で、何が食べたいの? 奢って欲しいんでしょ?」

「ち、違います!」


 稽古場から少し離れたレストランエリアへ来ると、暁さんは俺の方を見ずにそう尋ねた。

 不機嫌……と言うよりも、気まずそうにしている。

 俺が「どこでも大丈夫です」と言うと、暁さんは迷うことなく小さなカフェレストランを選んだ。


 この店は、客席が少ないながらも全てボックス席で、お洒落なカーテンで仕切られた半個室のようになっている。

 座席でタバコを吸えるのも今時珍しく、暁さんはメニューブックを俺に手渡した。


 暁さんが頼むものは、もう決まっている様子なので、常連なのだろうか。

 俺の目の前でタバコをつけ始める暁さんを待たせないように、俺は注文を決めると店員さんを呼んだ。


「えっと、ナポリタンを一つ」

「あと、フルーツパンケーキ。ダブルで」


 俺の注文の後に、暁さんが平然とそう言うので、俺は暁さんの顔を二度見した。

 いまフルーツパンケーキを注文した口は、本当に電子タバコを咥えるあの口だろうか。

 本当に、甘いものがお好きらしい。


 そうして注文を終えたところで、俺は改めて本題へ入ることにする。


「あの、暁さん。昨日……俺は何をしてしまったのでしょうか」

「……何もしてない。鳴海は、頑張ってたよ」

「で、でも! 俺のせいですよね、暁さんが昨日……不機嫌になったの」


 俺が身を乗り出してそう尋ねると、暁さんはようやく俺の顔を見た。

 その目はどこか、隠しきれない苛立ちを含んでいる。

 しかし暁さんは直ぐに俺から視線を外すと、ため息をついてからこう言った。


「不機嫌に見えたなら、謝る。鳴海に怒ったわけじゃないんだ」

「で、でも……あのとき一緒に演技をしていた相手は、俺ですよね?」

「俺は……俺自身に、腹が立ったんだよ」


 その言葉に、俺は困惑する。

 暁さんが、自分自身に腹が立つなんて。それってつまり、自己嫌悪のようなものだろうか。


 でもあの場面で、暁さんが自己嫌悪になる必要はなかったはずだ。

 俺の演技はダメだったけど、暁さんの演技は完璧だったと思う。


 しかし暁さんは首を左右に振ると、今度は真っ直ぐ俺の目を見ながらこう言った。


「悪かった……。今日は、ちゃんとやるよ」

「ええ!? ち、違いますそんなつもりじゃ! 謝ってほしかったわけじゃなくて、俺が謝りたかったんです!!」

「いや、鳴海は気にせず自分らしく演技してくれ……俺も、気をつけるから」


 何に、気をつけるのだろう。

 結局要領を得ないまま、料理が運ばれてきてしまい、俺たちの会話はそれで中断となった。


 なんとなく、それ以上踏み込んではいけない空気を感じて、俺は再びその話題へ戻すこともできないまま、他愛のない会話で食事を終えると、稽古場へと戻る。

 すると、演出家から言われたのは「今日はヴァルドとルカの2回目のキスシーンの稽古もやりたい」という相談だった。


 俺と暁さんは、無言で固まる。

 正直、1回目のキスシーンすら満足に出来ていないのだが、演出家としては立ち位置やセットの配置を早く確定させたい意図らしい。


 俺たちに拒否する理由もなく、その日の一番最後の稽古にキスシーンが差し込まれることになる。

 まだ暁さんとは少し気まずいままだし、昨日の今日でキスシーンが上手く出来るようになるとは思えない。

 それでも、やらないわけにはいかなった。




 ヴァルドとルカの2回目のキスシーン。

 ルカは、王としての重責に孤独に耐えるヴァルドの姿を目にする。

 そこでヴァルドが、愛を信用していないことを知った。


 ヴァルドは多くの兄弟を持ち、その全てが王位を望む、正に『敵』だった。

 さらに父である先王は子供達に無関心で、ヴァルドを産んだ王妃は早くに病気で亡くなってしまい、ヴァルドは何の後ろ盾もなく孤独に王位争いを続け、その実力で全ての兄弟を倒し王位についたのだ。


 一方ルカも、父を戦場で亡くし、母はルカを産んで直ぐに身体を壊し亡くなっている。

 ルカにとってノアが親代わりであり唯一の肉身で、全ての愛をノアに求めていた。

 しかしノアはフィンと出会い、ルカだけのものではなくなってしまう。それが耐えられず、ルカは逃げてきたのだった。


 親の愛を知らない。でも、本当は心の底から愛が欲しい。絶対に裏切らない、自分だけに向けられた本物の愛が。


 ヴァルドとルカは、自分たちが本当は似ていることに気が付く。

 そして互いを、真実の愛と認めて、甘い口付けを交わすのだった。




 演出家の指導の元、俺はゆっくりと暁さんへ近づく。

 暁さんも、俺から目を離さず、見つめていた。


「僕たち、本当は似ているのかも知れない」


 俺がそう囁いて、暁さんの片腕に触れる。

 拒否されないことを確認すると、今度はもう片方の腕に触れる。


 そのままゆっくりと距離を詰めて、腕を優しく背中へ回し、優しくハグをした。


 ルカのハグによって、ヴァルドは初めて愛を知る。

 自分を愛してくれる人の温もりを知って、ヴァルドは一生この温もりを自分の物として、守り抜くと誓った。


「……ルカ。愛してる」


 その言葉と共に、ヴァルドの両手が優しく俺の両頬を包み込んだ。

 ルカの顔を上げさせて、ヴァルドは自分の方を向かせる。


 暁さんの目が、じっと俺を見つめていた。

 いつも演技してくれているのと同じ、愛情が滲む艶のある瞳。

 良かった、演技で見慣れているおかげで、この瞳で見つめられても、あまり緊張しないで済む。


 俺は、暁さんを見上げながら囁くようにそれに答えた。


「僕も、貴方だけを愛すよ」


 そして、二人は顔を近づけて、誓いのキスを…――。




 ――…しかし、暁さんは唇が触れ合う直前で、止まった。




 俺の目をじっと見つめながら、何かに迷うように、固まっている。

 あれ、そんな演出はなかったはずだ。

 ここはただ甘やかに、見ている側が恥ずかしくなるくらい、恋人同士の求め合うような静かで激しい口付けをすると言われていた。


 俺は、何度も瞬きしてしまう。

 しかし、暁さんは動かない。


 どうしよう、このままだと演出家にカットを掛けられて、またやり直しだろうか。

 慣れないハグも、歯が浮くような台詞を何度も言うのも、出来れば回数は少ない方がいい。

 どうしよう、暁さんはどうしてしまったんだろう。


 ――でも俺は、暁さんに頼ってばかりで、本当に良いのだろうか。


 暁さんは先ほど、自己嫌悪していると言っていた。

 もしかすると、何か思い悩んでいて、演技に集中できていないのかも知れない。

 そしてそれは、きっと特別なことではない。この先、本番でも起こり得るかも知れないハプニングだ。


 そう思うと俺は、ふっと微笑む。これは演技の一環であると言い聞かせ、俺は演技を続けることにした。

 暁さんに、頼ってばかりではダメだ。こんな時、ルカならどうするのかを考える。

 ルカならきっと、自分にキスをしないヴァルドのことを、焦ったく思うはずだ。


 そしてルカは、自分からキスをする。


 笑った俺に、暁さんは一瞬驚いたように目を見開いた。

 俺は、暁さんの背中に回していた腕を上げて、彼の後頭部を両手で抱き抱えるように、抱き寄せる。




 ――そして、俺から暁さんへキスをした。




 昨日暁さんがしてくれたような、衝動的で欲望に身を任せるような、情熱的なキス――をイメージする。

 演技で、表現できているのか分からない。

 それでも俺がキスを続けていると、暁さんも何かのスイッチが入ったように、俺に深く口付けた。


 一瞬、頭が真っ白になる。

 昨日はドーナツの味だと思ったのに、今日は間違いなくタバコの味だ。

 すごく苦い。でも、甘い物が苦手な俺には、このくらいが丁度いい。


 キスのことしか、頭にない。

 匂いや、舌に感じる味や、感触。それらに意識が集中して、体の芯から痺れるような感覚を覚えたとき、演出家の声が響いた。


「…――カット! 今のいいね、ヴァルドが恐れてキス出来ないところに、ルカが焦ったそうにキスをして安心させる。ヴァルドとルカの関係性として面白いよ。本番もその感じで行こうか」


 その言葉を、俺はあまり聞いていなかった。

 頭がふわふわする。よく分からないけど、褒められた気がしたので、「ありがとうございます」だけ反応を返す。


 俺は、目の前の暁さんを見た。

 暁さんも、上手く出来た俺を、褒めてくれるだろうか。


 そう思っていたのに、暁さんは俺のことを複雑な表情で見つめている。

 何かを恐れるような、でも決して恐怖だけではなく、もっとプラスな――そう、愛情を感じる。


 正反対なその二つの感情が混ざり合うことで、暁さんはどこまでも複雑な表情のまま、無理やり笑顔を作って言った。


「……良かったよ、鳴海」

「っ! ありがとうございます!」


 暁さんに褒められるのは、正直嬉しい。

 俺がパッと顔を輝かせていると、客席側の方から大きな拍手が聞こえてきた。


「本当に、すごく良かったよ、ナルくんっ!!」


 拍手と一緒に聞こえてきた声は、久しぶりに聞く声だった。

 俺たちが驚いてそちらへ目を向けると、いつの間にかユウキさんの隣に――翔さんが立っている。


 つい今来たところなのか、荷物もコートもそのままで、俺たちの演技を見ていたようだ。

 翔さんは、嬉しそうに拍手をしながら、笑顔で俺たちの方へ駆け寄ってくる。


「もうこんなに稽古が進んでいてビックリしたよ! てか、ナルくんって本当にメインキャスト初めてなの!? すごく良かったよ!」

「あ、ありがとうございます。暁さんのおかげです」

「なるほどね! 確かに、タッキーさんの指導なら納得かも!」


 俺は、ヒヤヒヤしながら暁さんを横目に見る。

 しかし暁さんは、先ほどまでの複雑な表情など無かったかのように、完璧な表情管理で微笑んでいた。


「いや、俺はただアドバイスをしているだけで、鳴海の実力だよ」

「凄いなあ、いいペアだね二人とも! 俺も来週から、稽古に合流できるのが待ち遠しいよ」


 そうだ、確かに今週で翔さんの別の仕事はひと段落するらしい。

 つまり来週から、ようやく主人公が登場するシーンの稽古が本格的に始まる。


 翔さんは、不意に俺の方を振り向いた。

 そして、自然な動作で俺の手を握ると、その端正な顔を近づけて、こう宣言する。


「ナルくんとのシーンが、待ち遠しいよ。俺が合流するまでに、ナルくんはきっともっと成長すると思うし」

「か、買い被りすぎです」

「いや、今日の稽古を観て、そう確信したんだ。楽しもうね、ナルくん」


 それだけ言い残して、翔さんはにっこり笑うと、俺の手を離した。

 そして「皆さんに差し入れです!」と、持ってきていた紙袋からエナジードリンクやスポーツドリンクを取り出していて、そこにスタッフたちが集まっていく。


 俺は、久しぶりに見る翔さんの姿に、目が焼かれそうだった。

 相変わらず、太陽みたいな人だ。

 そう思いながらも、俺は暁さんの様子を横目に窺う。


 すると暁さんは、恐ろしく冷たい表情で俺を見ていた。


「……鳴海、交換条件――忘れてないよな?」

「もちろん、です!」

「じゃあ、さっさとその手を洗ってこい」


 そこまでするのかと思いつつ、今の暁さんは誤魔化しようがないほどご機嫌斜めらしい。

 そう理解すると、俺は慌てて稽古場を飛び出した。

 それと同時に、来週から翔さんが合流する稽古に対して、本当に大丈夫なのか少し不安になるのだった。

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